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15  私が犯人?(1)


ルフィナは学園の中にある、レオトニールの王族特別室に呼び出された。


「昨日、図書館の館長室でメルクリオ館長と会ったよね?」

なぜかレオトニールに怖い顔で詰め寄られた。


「はい、お会いしました。地学のお話を少ししただけですけど・・?」


「どう思った?」


(どうって? 地学の話しかしら?)

最近、何を聞かれているのか分からない質問をよくされるな・・とうんざりした。

ルフィナは、またも答え方が分からずに躊躇していると、再びレオトニールが聞く。


「メルクリオ館長をどう思った?」

ここで漸くルフィナは、レオトニールの目に嫉妬の炎が揺らいでる事を知った。


(あんなにお年を召した館長にまで、嫉妬するなんてレオトニールはどうかしているわ)

ルフィナは驚き大きく目を見開いて固まる。

その内、犬や猫にも嫉妬するのではないかと思った。しかし、このまま放っておくとややこしいと判断した。

例え小さな不審火でも早めに消火が一番だ。


「私はメルクリオ様の事は・・その・・おじい様?としか思えないですが・・?」

言い終わると同時に、レオトニールの顔が赤く奇妙に歪む。

「・・・クソ! 揶揄われた。そっちだったのか!」

レオトニールがドンと椅子の肘掛けを叩いき、一人毒づいている。


「そっちとは何の事?」

(いきなり怒るレオトニールが怖いんですけど・・)


コホンと仕切り直したレオトニールは元の穏やかなお顔に戻っているが、急な変化にルフィナはついていけなかった。


「驚かせてごめんね。館長と僕の話だから気にしないで。今日はルフィナにお願いがあって呼んだんだ。暫く授業の合間の休憩時間は、教室にいて欲しい。それと昼休みはここで食べて欲しいんだ」


「それってせっかく出来た友人とも会わないようにして、ここに来いって事ですか?」


レオトニールが渋い顔で頷く。


「今まで自由に学園を歩き回っていたのに、レオ様が監視しやすいようにしたいってことでしょうか? つまり、私に関わる事で何か不穏な動きをレオ様が察知したのですね?」


「うっ・・やっぱり鋭いな。せっかく楽しんでいるルフィナの学園生活に水を差すようで、黙っていようと思ったんだけど・・・」


レオトニールの言い淀んでいる顔をじっと見つめれば、なぜか顔を赤くする。

いやいや、今はそんな状況ではないでしょ?

きっと、例の殺人犯が動きだしたのでしょう?

と少し苛立った。

「あの・・レオ様? 私今真剣に話を聞きたいんですけど」


「ああ、ごめん」とレオトニールは顔をそらす。


「最近ルフィナに会う時間が少なすぎて、見つめられると期待しちゃうんだよね」


期待って何を?

ルフィナのため息の後に話された内容は、思っていた以上に深刻なものだった。


「昨日の館長に呼ばれたけど、あれは本の感想を聞くためにルフィナを呼び出したんじゃないよ。ルフィナが返却した本の数冊に危険な魔法が掛けられていた。もちろんルフィナがその魔法をかけてないのは知っている。つまり、誰かがルフィナに罪を被せる目的で掛けたのか、それとももう一度本を借りたルフィナに発動させる為だったのか分からない。でも、どちらにしろ、その悪意はルフィナに向いている」


・・・なにそれ?・・

私が何をしたの?


ダメだ。体が震えてくる。

ルフィナが震えを止めようとすると余計に手が大きく震える。


「誰? また私・・殺される?」


「落ち着いて、ルフィナ。今度は大丈夫だよ」


ルフィナは何だか無性に腹が立ってきた。

その犯人にも、目の前に呑気にしているレオトニールにも・・

「何故大丈夫なんて言えるの? 今までダメだったのに、今度も殺されるかも知れないじゃない。レオトニールはいいわよ。だって殺されるのはいつでも私じゃない!!」


怒りに任せてレオトニールの部屋を飛び出してしまった。


後ろでレオトニールが叫んでいるが、心配をさせればいいやと思った。そう完全に八つ当たりだ。


どこをどう走ったのか分からない。ルフィナはいつのまにか、誰も来ないような管理棟の裏にある、白いペンキが剥がれたベンチに一人座っていた。


もし殺人者が来たら、逃げ場もない。自分の浅はかさに嗤いが出た。でも、何だかどうだっていいような気もしてきた。


幼い時から怖がって、レオトニールから逃げて、この人生はいけるかもとちょっと安心し始めたらこれだ。

自暴自棄になっても仕方ないのに、ルフィナは急にどうでもよくなった。


「こんな所で一人とは感心しませんね」


座っているルフィナの頭の上から声がした。


「!!」


ベンチから立ち上がり逃げようとしたが、人間怖い時は声も出せず、足にも力が入らないものだ。


ルフィナは一歩も逃げられずに、ベンチから転がるように転けた。


「ごめん。大丈夫?」


目の前に、長い黒髪を耳にかけて、赤い瞳の男が慌てて手を差し伸べてきた。


「来ないで・・近寄らないで・・」


地べたに座ったままやっと発した言葉だったのに、相手の男は首を傾げて手を引っ込める様子もない。


「昨日、あれだけ地学の話で盛り上がったのにもう忘れたの?」


何を言っているんだろう?

昨日話したのはおじいちゃんの館長さんよ。

こんな若い人じゃない。

ルフィナの警戒心がさらに強くなる。


怪しい男なのに、その綺麗な顔立ちはどこかで会ったような気がする。


「まさか・・メルクリオ様?」


「そうだよ、昨日は久しぶりに楽しかったから、また話が出来たらって思っていたのですよ」


あの可愛らしいおじいちゃんが、今目の前に立っている美丈夫?

だからと言って油断は出来ない。伸ばされた手を馬鹿みたいに見つめていた。


パシッ


レオトニールがメルクリオの伸ばした手を叩き落とす。


「何をしてるんだよ。僕の未来の妻に触るな」


「おー怖っ。男の嫉妬は見苦しいと言いますよ」


レオトニールはメルクリオに一睨みしたら、すぐに座り込んでいるルフィナの腰を持って立たせると汚れたスカートをはたいた。


「ルフィナの気持ちを分かってあげられなくてごめん。君が僕の側にいる理由が出来た事を喜んでいたんだ。本当に不謹慎だった」


レオトニールがすまなそうにルフィナの手を取って謝る。


「私の方こそ、八つ当たりをしました。ごめんなさい」


「よし、仲直りした所で私の図書館の館長室に来て欲しいんだ。ちょっと面白くない話があってね。もう一度詳しく聞きたかったんだ」


メルクリオが再び私に手を差し出そうとするが、レオトニールがその手を瞬時に叩き落とした。


「老人の姿でいてくれたらよかったのに、なんで今日は元の姿に戻っているんだよ」

レオトニールがルフィナとメルクリオの間に割って入って文句を言っている。


「いや、久々に本好きの女性と楽しい会話がで出来るのに、この姿の方がもっと深く分かり合えると思ってね」


背中しか見えてないが、ルフィナはレオトニールがギリギリと歯噛みをしているのが目に見えるようだった。


「あの、その話とは・・」

この二人はこの私の緊迫した感情を無視して何をしているのか・・とルフィナはため息をついた。しかし、二人の関係のないやり取りはルフィナの感情を無視して続いている。


そこでルフィナはイライラを声に乗せてみた。


「早くして頂きたいのですが、宜しいでしょか?」


声音に重低音を響かせてみたら、やっと二人がルフィナの顔の変化に気が付いた。


「ごめんね。レオトニール様の嫉妬のせいで話が進まなかったね。さぁ、私の館長室へ」


メルクリオが腕を広げると、私の足元に赤い魔方陣が出来た。

それを見て素早くレオトニールもその中に入って私の腰を抱く。


フワッと軽い無重力を感じたら、既に昨日いた、館長室に着いていた。


「レオトニール様も着いて来たのか」

メルクリオの軽口が出る。


「当たり前だ。本を読んだ数と同じくらい女を抱いてる奴とルフィナを二人っきりに出来る訳ないだろう」


その発言に驚いて私はメルクリオ様を失望の眼差しを向けてしまった。


「違うよ。ルフィナさん。そんな沢山の女の子抱ける訳ないです。噂ばかりが先行して本当の事ではないですよ」

メルクリオが必死に訂正している。

メルクリオとレオトニールの不毛なやり取りを横目に、メルクリオのL字型の大きな平机の上に私が借りていた本が数冊乗っているの見つけた。


これは昨日話した地学の本だわ。


その本に手を伸ばす。


「ダメだ!!」

レオトニールの大きな声に思わずルフィナは手を引っ込めた。


「その本がこれから君に話したい事に関係している本だ」

メルクリオはルフィナの肩を優しく押しながら、ソファーに座らせた。


「昨日もこの本の事を尋ねていらっしゃったけれど、何かあったのですか」


もう、良くない事が起きたのは知っている。気持ちを強く持って聞く準備を作った。

ルフィナの真剣な眼差しに、メルクリオが詳細を語った。


「この本は君が返却した後で分かった事だが、恐ろしい魔法に掛かっており、本を開くと手が切断される殺傷能力を持った本に変わっている」


ルフィナはあまりの事に言葉もなく本を見る。

一見しても、普通の本にしか見えない。


「これを借りたのは君。そして返却したのも君だ」


疑われてるの? ルフィナの心臓が早く打ち出す。

「・・でも、私は本に何もしていないわ」

信じて欲しいが否定する言葉はこれだけしか出てこない。

ルフィナは脳裏に、冤罪で死刑になる未来が映像で流れた。


まさか?今度の人生の最後は冤罪なの? 


しかし、すぐにルフィナの絶望の予想はレオトニールが消し去ってくれた。


「大丈夫だよ。ルフィナがやってないことは僕が信じている。ただ、やっていない証拠もやったという証拠もないという事なんだけど・・」


「そうだね。それに、私も君がやったのではないと信じている」

メルクリオもルフィナを信用してくれている。

「ありがとうございます」

二人の暖かな優しさに感謝した。

しかし、二人が信じてくれてもルフィナの身の潔白を証明する物がない。


「各本には記録カードが貼られていて、誰がこの本を手にしていたかが分かるんだ。でも、魔法が掛けられていた本は全てこの記録が抜け落ちていて、そして唯一この本に触れた人物として君だけが記録されているんだ」

メルクリオが本を手に持ち、忌々し気に本を凝視する。


「ルフィナさんがこの本を返却する前に、この本を触った方がいる筈です。どなたか心辺りはないでしょうか?」


尋ねられても、全く誰一人思い出せない。

「私が本を借りてから、鞄に入れて誰かに貸した事もないですし、必ず借りた本は学園に置いて帰らずに家に持ち帰って読んでいました」


(あれ?このままじゃやっぱり私が犯人にされてしまうのでは?)

ルフィナは焦ってもっと記憶深くを必死に探す。何か思い当たる事はない?


自分自身に問い掛けた。


「そうだわ、魔法が掛けられているこの数冊の本は返却した日の授業が全て科学実験室に移動する授業が行われていました。その間教室には誰もいなかったので、この時に魔法を掛けられたのかも知れません」


「なるほど、その教室に誰もいない間に犯人が忍び込んだという可能性はあるな」

レオトニールが突破口を発見出来て、嬉しそうだったが、メルクリオが眉をひそめて首を傾げた。

「しかし、教室を移動した際には必ず教室に鍵を掛けて行くだろう?」


「うっ。確かに、そうです・・」


「それに、学校内でこれほど悪意に満ちた殺傷能力の高い魔法をかけたなら、どの教師も気付く筈だ。校内の隅でやったとして、私が図書館にいても気がつくだろう」


「・・じゃあ、この本に魔法をかけられるのは持ち帰っている私だけという事に・・・?」


今度の人生、犯罪者で終わってしまうの?

ちょっと待って、それだけは嫌だ。お父様にもお母様にも、屋敷のみんなにも迷惑が掛かる。


もしかして、現在最大のピンチなのでは?

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