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14  図書館


先日、膝枕をしてからどうもレオトニールが傍にくると変に意識をしてしまう。その事にルフィナは戸惑いを感じていた。


その他は何事もなく過ごしている。

トリスタン学園に通いだして、一ヶ月間経ったが、平穏無事に通っている。

二学年上のレオトニールと学園で会う機会が少ない。そのせいなのか、忙しい筈の彼が度々ルフィナの屋敷に訪れる。


「ここに来る時間があるのなら、レオ様は睡眠に当てるべきです」

ルフィナは目の下に隈を作っているレオトニールに、少しでも休憩時間を取って欲しくて言っているのだが、彼には伝わらない。


「僕がここに来るのは、そんなに迷惑なのかな?」

「もしかして、学園の同じクラスに親しい男が出来たのか?」

「もう僕に飽きたのか?」


「・・・全部違います。私はレオ様の体が心配なのです。どうぞ少しでも寝て下さい」


ルフィナが学園に通学するようになってから、屋敷に頻繁に来るようになったのは、会いたいよりも『心配』が大きいようだ。


本当に体を大事にして欲しい。



学園に通うようになって、もう一つ変わった事がある。5歳年上のザイラ・ガルシア様と頻繁に会うようになったのだ。

大人しく物静かな彼女は、よく図書館で本を読んでいる。ルフィナも本好きなので、偶然によく会ううちに話すようになったのだ。


トリスタン学園には15からなる棟がある。大きな噴水広場を囲むように、中等部の棟と、高等部の棟、図書館棟、大学各専門学部の棟が並んでいる。

その他に礼拝堂、守衛室やグランドがある。


彼女は大学の薬事専門学部に通っているので、専門書が多い図書館で勉強すると効率良くて捗ると言っていた。


始めはお互いに距離を取っていた。その一番の理由はザイラの主がアンネッタだったからだ。レオトニールの母であるテレリューズを蔑ろにしている張本人。故にお互いに気まずかった。


しかし、いつしか同じ時間帯に来ては、相手を待つようになっていた。


ルフィナにとってザイラはお姉さんのようだった。とても物知りで色々な事を教えてもらった。

そんなザイラは陛下の話になると、暗い顔になった。


ザイラは大好きな幼馴染みと一緒になりたいと思っていて、国王陛下から見初められて辛い毎日を過ごしている。


「私、王宮に行くのが怖いのです。でもアンネッタ様は必ず陛下の御前には私を同行させるので、気が気ではありません」

ザイラにとって、アンネッタは主なので逆らう事はできない。

陛下がいつ理性を失って襲ってくるかも知れないのだから、怖い筈だ。もし、そうなった場合アンネッタは見てみぬふりでザイラを陛下に捧げるだろう。

ルフィナはザイラの話に心を痛めていた。


「ルフィナ様にお話をした後は、気が晴れて少し前向きになれます。また、会って下さいね」

ザイラが切れ長の瞳を潤ませて、小首を傾けて懇願する。

その女性らしい仕草にドキッとする。


陛下が懸想するのも分かる気がする。確かにザイラは色っぽいのだ。


ぽーっとそんなことを考えていると、図書館の職員に肩を叩かれた。


「ルフィナ・ロペス様。少しお話があります。お時間宜しいですか?」

後ろを振り向くと、図書館の司書とは思えない屈強な身体をしたボディビルダーのような女性が立って私を見下ろしている。


筋肉モリモリに司書の制服がパッツンパッツンだ。

明らかにサイズが合っていないんですが・・と言いたくなるのを堪えて返事をした。


「はい。時間はありますが、なんでしょう?」


司書はザイラをチラッと見た。

「少し奥の事務所でお話を伺いたいのでご足労願います」


そう言うと、逞しい彼女はまだルフィナが座っている椅子ごと、後ろに引く。

立ちやすいように引いてくれたのだが、その力に驚く。


「ごめんね、ザイラ様。時間がかかりそうだし、先に帰っててね」


「うん。わかった。じゃあ、またね、ルフィナ様」


私は借りようとしていた本と荷物を持って、司書の女性に着いて事務所に行った。

ザイラはその様子を、目を細めて嬉しそうに見送る。

『行ってらっしゃい、ルフィナ』

呟くザイラの声は、誰にも届いていない。


図書館の事務所に入ると、さらに奥の館長室に案内された。


その一室内も図書館のように棚にびっしりと本が並んいた。さらに、博物館のように歴史的資料の一部が展示されている。


その真ん中にビロードの剥げた古びたソファーがあり、女性司書とは対称的に細いおじいちゃんがちょこんと座っている。


ルフィナは促されるままそのおじいちゃんの前に座ると、その人はにこにこと一冊の本をテーブルに置いた。


「私はこの図書館の館長をしています、メルクリオ・ルッソロと申します。どうぞ宜しく」


メルクリオはぴょこっと頭を下げた。


「はい、こちらこそこの図書館を多く利用させて頂いてます。どうぞ宜しくお願い致します」

ルフィナも座ったままで深々とお辞儀をした。


「ほほう・・ふむふむ・・。それでは本題なのじゃが、この本に見覚えはありますか」


メルクリオが一冊の本をテーブルの上に置いた。


「はい、確かそれは先週私が借りて読んでいた本です」


ルフィナが確かめようと、本に手を伸ばすと、メルクリオはすっとルフィナの手の届かない場所に本を移動した。


「それで、この本はどうでした?」


メルクリオの質問の意味が分からなかったが、たぶん本の感想を聞かれたのだと思い答えた。


「とても興味深かったです。特に地質を調べると過去の時代の年代が分かるとか、後、この星に酸素が出来たことを示す縞状鉄鋼層の所が面白かったです。上巻を読んだすぐ後に下巻も借りたかったのですが、この図書館にはなかったんです」


ルフィナの感想に、メルクリオの目がカッと見開かれた。

「そうなんです。地学はまだ十分に研究されていない分野なのですが、本当に奥が深い分野なんですよ。下巻では海の海流の事も載っていて、表層海流と言う・・」


「コホン」

ルフィナの話にメルクリオがのってきたところで、ボディビルダーの女性司書の咳払いに会話が止まった。


今からいいところだったのにとメルクリオが残念そうに首を振り話を戻す。

「・・・はいはい、分かりましたよ。所でルフィナさんは下巻が読みたいのですね? すぐに用意させましょう。それからもう良いですよ」


話は終わったとメルクリオは席を立とうとしている。


ルフィナは本の感想を聞かれるた為に、こんな所まで呼び出されたのか?と疑問が残る。そして、何が『もういい』のか分からずに、メルクリオの顔をポケッと見ていた。


(一体何の用事だったのだろう?)


「すまないのう。生徒がこの図書館の本を活用してくれているのか調査したかったのだよ。あなたは本当にしっかりと理解して、本を読んでくれているのが分かりました。調査の協力ありがとう」


「いえ、いつでもお聞き下さい。では、失礼します」

にこにこ顔の館長さんに見送られて、ルフィナは図書館を後にした。


(でも、本当に調査だけだったのかな?

でも、そのお陰で下巻を用意してくれるのだから、まぁいいか)




□◇ □◇ □◇


図書館の館長室にて・・


おじいちゃん姿のメルクレオが元の姿に戻り、長い黒髪と赤い目の24歳の姿でソファーに座っている。


「メルクリオ様、きちんとこの本の事を聞かなくて宜しかったのですか?」

筋肉モリモリの女子司書に聞かれたメルクリオは、彼女に座るように手招きをする。


「ルフィナ・ロペスさんはこの本にこのような悪質な悪戯をした犯人ではありませんね。それは挨拶をした時に既に分かっていましたよ。生徒の大半は私の老人の姿を侮りきちんと挨拶をしませんが、あの子は私よりも深く頭を下げて挨拶をしました。それにきちんと本を読んでいましたからね」


メルクリオがテーブルに置いた本には、悪質な魔法が掛けられていた。次にこの本を開いた人の手を切り落としてしまう程の悪意と威力を込めた魔法だった。


この本を直近に借りたのが、ルフィナだったので、事情を聞くためにメルクリオはルフィナを館長室に呼んだのだ。その結果、ルフィナが犯人ではない事は分かった。


メルクリオは目の前に座る女性に、丁寧に頼む。

「これは、ルフィナさんを陥れよと誰かが仕組んだと考えねばなりませんね。早速殿下にお伝えください。フェリカ・モロー騎士団長」


ムキムキの筋肉に似合わない図書館司書の服を着た女性は、ニッコリと微笑む。

「ええ、もちろんです。それではまた引き続き見守りを遂行します。それから、ルフィナ様のお気に入りの本の下巻の取り寄せをお願いしますね」


フェリカ・モロー騎士団長は女性らしい気遣いを忘れずに館長室を後にした。


扉が閉まるとメルクリオは背伸びをして、ソファーの背凭れにもたれ掛かった。


「それにしても、この小さな本にこの悪意の込め方が尋常ではない。この魔法が作動した後ルフィナさんを犯人に仕立て上げるつもりだったのか、この本を気に入ったルフィナさんが再度この本を借りる事を想定したのか・・いずれにせよ犯人の標的はルフィナさんで間違いない。さぁて、私の大切な本にこのような仕掛けを施した人間をどうやって追い詰めようか・・その前に全ての本の状態を確かめないといけないな」


メルクリオは立ち上がり、図書館の縮尺模型の前に立つ。

そして、彼の赤い目を細めて模型を凝視する。すると縮尺模型の2点が赤く光っている。


メルクリオは館内で業務している図書館の職員に「決して本を開けるな」と注意をしておいてから、本の回収を命じた。


職員は慣れた手付きで、その本を取ると青黒い鞄に本をしまった。

本に呪いを掛けたり、魔法を掛ける悪事を行う者がたまにいる。

特に王族が学園に通っている現在では特に監視の目を光らせないといけない。


メルクリオは全ての本を監視しているが、持ち出されている間に仕掛けられた本は返却されるまで分からない。


「厄介な事が始まろうとしているな」

メルクリオは先ほどの質問に答えるルフィナを思い出した。

(でも、とても面白い女の子を見つけた。彼女が借りている本はありとあらゆる分野にとんでいる。そして、それを全てきちんと読み解いている。いろんな事に興味があって、いつもワクワクしながら本を読んでいるのも興味深い)


目を輝かせながら地学の話をしていたのに、今日借りていった本は『ドライフルーツの作り方』と『愛しのカレン』という恋愛小説だった。


「本当に面白い」

メルクリオは一人ごちる。


そして、もう一人。思い出し眉をひそめた。

「ザイラ・ガルシアか・・」


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