遊び人とシャルの悩み
三日目の狩りは夕暮れ時まで続いてしまったため、三度テントを設営する。
今日はマイケルの宿屋のロイヤルスイートに格安で泊まる予定だったのに……誰だ?「レッサードラゴンの咆哮」だなんて馬鹿げたスキルを使ったやつは?
流石に三日目ともなれば、テント設営もお手の物、俺の今のジョブは「天才キャンパー」だ!できる男の象徴だ。なにせアイテムボックスからダナンのテントを出すだけで後は自動設営だからね。
夕飯は、何時もながら多すぎかつ、豪華すぎる料理の数々……お腹が痛くなるが、最後は奥の手キャトルの無限の胃袋頼みだな。
流石にレッサードラゴンの群れに何度も遭遇し、みなさん疲労困憊だ。
「今日はみんなお疲れ様!連携すごくよかったよ。」
「さすがに疲れたわ……」
「料理美味しいです!」
「………………」
褒めてみたが反応が薄い、特にシャルは深刻だ。顔色も悪いぞ。これはPT解散の危機では?セバスチャンさんごめんなさい、貴方と戦う前に僕たちは解散します。サヨウナラまた逢う日まで、奥の手⑪自発的PT解散の発動だ!
「実は、みんなに相談があるんです。」
シャルが深刻な顔で話しだす。おう……これはガチでPTの危機かね。滅茶しすぎたもんな……すべてはPT存続を考えた結果なんだが、予想を超えた地獄を経験させてしまった。
ちょぴり反省してる、特に俺まで、同じ地獄を味わった件に関しては猛省だ。
とにかく、リーダーに文句を言うんじゃありません。遊び人をリーダーにしたのは誰だ。
「実はレベルが上がって新しいジョブを選択することができるようになったの……」
そういえば、昨日の夜も、朝も何か相談があるって言っていたような……転生しかけて、すっかり忘れてた。すまんすまん。
どうやらPTの解散は先延ばしされそうだ。魔族から指名手配されているだろう「遊び人」がこの過酷な世界で一人どう生きて行けってんだ?俺が生き延びるためにもこのPTが絶対に必要なんだ!盾に火力に回復薬だ!
という打算はおいておいて、ほんとうにこのPTが好きです……もう、一人は嫌です。
「すごいわシャル!すでに超級ジョブの『聖者』なんだから、ユニークジョブってことかしら?」
「シャルおねえちゃんの料理はすごく美味しいです!『天才料理人』とかですか?」
すごいぞシャル、これでセバスチャン一味も一網打尽だな、あとは任せたぞシャル。ところで超級ジョブにユニークジョブだと?なんのことだ?さっぱりわからん、説明してくれ。
「転生者のピッケルさんはご存知ありませんよね…………といったふうにジョブは分かれているんです。」
長い、要約だ。
一般ジョブ=一般ピープルたちの戦闘ジョブ 「戦士」「僧侶」「格闘家」等
上級ジョブ=一般ジョブが一定のレベルに到達すると、ジョブチェンジできる。「重戦士」「司祭」「武闘家」等
超級ジョブ=上級ジョブが一定レベルに上がった場合に極稀にジョブチェンジができるが、できないことの方が多い。
さらに希少だが生まれながら超級ジョブから始まるチートで出鱈目な連中がいる。転生者やカリンやシャルもその一例 「勇者」「聖者」「賢者」等
ユニークジョブ=超級ジョブから更に進化するジョブで、本人の性格や気質、戦闘スタイルなどが反映されたその人固有のジョブ
ジョブチェンジできる条件等はすべて不明、ユニークジョブへジョブチェンジしているものは、世界でも数えるほどしかいない。
「遊び人」は当然ユニークジョブですよね?希少価値の塊ですよね?情報がなくて判別ができないとのこと。
「ええ、ユニークジョブになりますね……」
「すごいじゃないかシャル!でも浮かない顔をしているのは、どうしたの?」
お腹でも壊したのかな?
「それが……なんというか……酷いんです。」
早くトイレいって!
「こんなことって、あんまりです……勇気を出していいます、でも絶対に笑ったりしないでくださいね。」
もう出ちゃったってこと?どんまいな。
「どんなユニークジョブにシャルが付こうとも、シャルはシャルよ。私の一番の味方!」
「うんうん、シャルお姉ちゃんはシャルお姉ちゃんですよ?ジョブなんてなんでもいいと思います。ピッケル様のお役に立てればいいんですよ!」
「今までPTでどれだけ俺たちを助けてくれたか?俺たちは絶対忘れないよ。これからもどんなジョブについたってシャルは俺たちを助けてくれるって信じてる。」
回復魔法さえ使えればシャルはそれだけでいい!カリンなんて俺を後ろから切りつけるんだぞ!切り刻まれた回数は一度たりとも忘れたことはない!
「ありがとうピッケルさん、みんなもありがとう。でも、笑わないでね、絶対ですよ!!」
お笑い系のジョブになったのかな?PTに「遊び人」は二人はいらないぞ!一人もいらないって?俺にもジョブチェンジカモン!
「私がジョブチェンジ可能になったユニークジョブは…………」
勿体ぶるな!
「『呪われた聖者』なんです。」
「…………」
カリンが絶句する、かける言葉が出てこないようだ。
「カッコいいじゃないですか?」
キャトルも顔を引きつらせる。
ん?ん?ん?
ジョブチェンジといったら人生の一大イベントだろ?「呪われた聖者」ってそのままじゃんか…………ジョブチェンジしてないじゃない?
……そうか!思い出したシャルの今のジョブは「呪われた聖者」じゃなくて、只の「聖者」だったのだ。失礼失礼。
あまりに呪われてるんでいつも「呪われた聖者」って心の中で呼んでたから驚きもなにもない、これは反応に困るぞ。どういう反応するのが正解だ?
シャルを見ると今にも泣きそうだ、こうなったら流れに身を任せるのが遊び人かつ男の役目
俺は泣きそうなシャルをそっと抱きしめる。
「シャルが呪われていようがいまいが、俺たちにとって「聖者」なのは変わらない!どんな呪いだって俺たちPTで跳ね返してやろう!」
呪いの種類は勇者の呪いだろうな、それも二人分。すごい強そうじゃないか?ヒーラーやめて火力担当でもいいかもね?カリンも回復魔法はそこそこ使えるし。
なんて適当なこといっていると、カリンもそっと抱き着いてきた、心なしかシャルというより俺に抱き着いてる気がするが気のせいか?
「ピッケルの言う通りよ!私は何があっても死なないって誓うわ。シャルが嫌なら『聖者』のままでいいじゃない。」
嫌ダメだそれは許さんぞ?「呪われた聖者」が身分を偽って「聖者」のままでいるなんて許されんでしょ、常識的に考えて!死んでいった勇者たちが浮かばれない、シャル現実を受け入れてくれ。
「お姉ちゃん大好き!呪い使ってセバスチャンさん殺しちゃいましょう!!」
キャトルも俺に抱き着きながら物騒なことを言う。
「みんなありがとう!」
シャルが俺をギュっと抱きしめ返してくる、こういう所は女の子だよな、いくら呪われていても性別までは変わらない。
「心は決まってるのジョブチェンジするわ。その方が絶対PTの為になるし、これも私の運命です、受け入れて乗り切って見せます。」
よく言った!それでこそ本家本物唯一無二の「呪われた聖者」だ!これでPTにも箔がつくってもんだ。「呪われた聖者」がいるPTなんて魔族でも襲ってこないだろうよ?
ジョブチェンジした暁には国中に噂を流そうじゃないか?
ってそこまで鬼にはなれるけど、なってはいけません、人間のする事ではありません、PT内の秘密にしておこう。
そうして四人で抱きしめあったまま、シャルの体が淡白く光り始める。
ちょっとまって!この状態でジョブチェンジするの?呪いが伝染したらどうするんだ?タスケテ!!脱出しようにも三人から抱きしめられているようなもの、脱出できません。
こうなったら俺も「呪われた遊び人」になりますかね……幸運チート無くなりそうだな。
そうしてこの日世界にたった一人、深き業を背負った「呪われた聖者」が誕生したのであった。




