遊び人のソロ狩り
急遽昼寝を中止することとなった俺は、非常に機嫌が悪い。
敵に無視され続けたレッサードラゴンも大変機嫌が悪そうだ。
この勝負、機嫌が悪い方が勝つ!
ついに俺が本気を出す時が来たか…
今までの俺は、本気を隠して戦い続けていたのだ!どうだびっくりしたか。
うん。ほんとほんと。ほんとだってば!俺は最強チートの異世界転生者だ、レッサードラゴン程度一捻り!だと自分に言い聞かせる。
事実、PTで連携強化のためや、カリンやキャトルに実戦を積ませるため最近の戦いではチョコっと手を抜いていた。ほんとチョットだけどね。
今回は攻撃も回復もすべて自分でやらねばならない。
男とトカゲの一騎打ちだ。
「悪いなレッサードラゴン試し切りの相手になってもらうぞ!この神剣ゴブリーヌに切れないトカゲなどいない!」
俺はゴブリーヌを抜刀し、レッサードラゴンへ向かって突進する。
スキル発動「物真似:ファイヤーストーム」
レッサードラゴンの周囲に炎の嵐が立ち上がる。
「グル?」(剣で切るっていわなかったっけ?卑怯じゃね。)
レッサードラゴンの心の声が聞こえてくる。
「試し切りは死んでからでもできるからな!ほれ追加攻撃だ。」
神剣ゴブリーヌを炎の嵐に投げ込む。あとは俺のチート幸運が切り刻んでくれることでしょう。
さらに追加攻撃の準備に入る。
「早着替え:ヒッグスナイフ+4」
一瞬で右手に装着されたナイフも炎の嵐に全力で投げつける。
まだまだ、まだまだ、ずーっと俺のターンだ!
寧ろ開幕での奇襲攻撃で倒さないと、接近戦は分が悪い、押して参る!
すでに、左手はアイテムボックス内のもう一本のヒッグスナイフをまさぐりつつ、右手で疾風のクロスボウをまさぐっている。
アイテムボックスからの装着にはやはり2秒かかる、「早着替え」便利だな。
左手に装着されたヒッグスナイフを、投げつける、なんとか炎の嵐の中へ。
さらに疾風のクロスボウが右手に装着される。
「バシュン」という音とともにすさまじい勢いで疾風の矢が射出される。
伊達に疾風していないんだぜ?
見たか俺の怒涛の中距離攻撃!って魔族との戦いでも使った戦法だけどな。
有用性は実証済みである。
俺は一旦距離をとり、MP回復ポーションを飲みながら、炎の嵐を見守る。
時折煌めくヒッグスナイフやゴブリーヌが綺麗だな。
「グルルルル」レッサードラゴンがカリン、シャル、キャトルを星にした時と同じほどの音量で唸る。
断末魔の叫びかな?と思ったら大間違い。
なんということでしょう、炎の嵐を纏ったレッサードラゴンが俺目掛けて一直線で突進してくるではありませんか、炎属性の攻撃力上昇のおまけ付きときました。
俺の作戦では、これで殺し切るつもりだったんだけど?元気ビンビンなのはなぜ?
まだ「物真似」も「早着替え」もクールタイム明けてないんですけど…
ちょっと武器返してくれませんか?この泥棒トカゲ。
レッサードラゴンは突進しながらも、炎のブレスを横なぎに吐く。
雑な攻撃だが、範囲が広くて厄介だ。
俺は、上に飛び上がることで回避するが、熱波が右足に襲い軽いやけどを負う。
範囲を広くしている分、威力は分散してしまっていることが幸いした。
そこで気が付く、たぶんこいつ火属性のファイヤーレッサードラゴンってやつだ……
ファイヤーストームはむしろ奴にとっては餌、炎のダメージは無効化されているはずだ。
「グルル」(美味しい炎をありがとよ。だがこの剣とナイフと弓は痛すぎるぞ。殺す)
「炎属性なのに、それを隠すとは、なんてレッサードラゴンだ、お前強いな!」
炎属性に気が付かない俺が馬鹿だなんて言わせない。レッサードラゴンが凄いのだ。
よっ天才レッサードラゴン、お前をここらの主と認定してやる。
レッサードラゴンキングだ!新種のモンスターとしてギルドに申告してやろう。
俺の名誉のためにな。
アースやらウィンドやらアイスやら色々レッサードラゴンいるけどトカゲの見分けなんかつかないわ。
さて、困りました、武器がないのがこんなに心細いものだとは、仲間がいないというのがこんなに寂しいものだとは。
ヒッグスナイフ一本でも手元に残しておけばなあ。全力でやるのはいいが後先も考えないとね。
「早着替え」のクールタイムが明ける前にレッサードラゴンの突撃がくる。
ものすごいスピードだ、「逃げ足」のスキルを使っても逃げることは無理だ。
体当たりで吹き飛べれば重症程度ですむかもしれないが、咬みつき攻撃や、引っ掻き攻撃を食らってしまえば致死的だ。万事休す、無駄にファイヤーストームで攻撃力があがってるんですもんね。
誰だ敵にBUFFしたのは?ここには遊び人しかいません。
星になった三人はどこをほっつき歩いてるんだ!
などと考えているあだにレッサードラゴンはすぐそこだ。
ファイヤーストームの効果時間は、のこり20秒ほど。
熱波で熱いです。こんなのまともに食らっては死んでしまいますね。さすが炎の上位魔法だ。
熱さを我慢し、レッサードラゴンに注視する。
ただの体当たりで、済ます気はないようだ、その大きな口でガブリと俺にかみつくようだ。
俺は覚悟を決める。
みんなごめんね……
俺はここまでだ……
俺、奥の手使っちゃうね。
執事セバスチャンがどこで見てるとも限らない、レッサードラゴン程度に奥の手を使うのは、躊躇われていたが、今は覚悟を決める時だ。
二つのスキルを同時に発動する。
スキル発動!「あやとり」
奥の手①「あやとり」が発動され、俺のあやとりレベルが一挙に跳ね上がる。
だからどうしたって?今なら一瞬で東京タワー作れるよ?すごいでしょ。子供たちのスターになれるぜ。だからどうした。
俺は事前にスパイダーキングの絹の服の一端をほどいて神剣ゴブリーヌに結び付けているのだ。
「あやとり」の発動で一挙に操糸能力が上がり、自由自在にスパイダーキングの糸を操れる。
ゴブリーヌに結んでおいた糸を一気に手繰りよせると、俺の右手に吸いつくようにゴブリーヌが装着される。
「あやとり」の発動がなければ、こう上手くゴブリーヌを装着することはできなかっただろう。
糸と糸が絡まって終わりだ。
ふふふ。「あやとり」を取得するのは賭けだったが、「キングスパイダーの糸」とのコンボは予想以上に使える。
「グル?」(なぜ、忌まわしき剣がお前の手に!だが死ねい。俺の噛みつきの射程内だ。)
さらに奥の手②発動だ。
スキル発動「落とし穴」
俺を中心に半径1メートル深さ1.8メートル程度の落とし穴が形成される。
さようならレッサードラゴン。
俺は自ら作った落とし穴に落ちて身を隠す。
自分の落とし穴に落ちるなんて、まるで馬鹿のようだが、最高の回避術だ。
一瞬で地面に落ちた俺をレッサードラゴンは見失い、そのまま突進を続ける。
俺は神剣ゴブリーヌを落とし穴から、上に突き上げる。
丁度そこにあるレッサードラゴンの腹に突き刺さる。
痛みを感じたレッサードラゴンだが、
走るドラゴンは急には止まれない!
腹を切り裂かれながらも、突進を止めれない。
レッサードラゴンのお腹が大きく切り裂かれる。
致命傷だ。
ズザーっという音とともにレッサードラゴンは倒れこみそのまま息を引き取った。
俺は剣を上にあげただけ、止まらなかったお前が悪いぞレッサードラゴンよ。
だがあっぱれだ俺に奥の手を二つも使わせるとは、正直死ぬかとおもったよ。
新取得スキルは思いのほか使える。
「落とし穴」
取得必要スキルポイント10
使用SP10 再使用時間30秒
最大直径5メートルの落とし穴を任意の大きさで作成する、葉っぱによるカモフラージュ付き。
(応用として、緊急回避に使用可能)
「あやとり」
取得必要スキルポイント10
使用SP10 再使用時間5分
5分間あやとりの達人となれる。
特に「あやとり」に関しては、名前だけみて取得するのはかなりの賭けであったが、「スパイダーキングの絹の服」の自動修復機能で強靭な糸は、無限にある。
これは当たりスキルだ。
戦闘の幅がかなり広がる。セバスチャン戦でも有用なスキルだろう。
その後俺はダナンのテントで昼寝をしてみんなの帰りをまった。
不謹慎?何を言いますか、ダナンのテントには、敵が近づくと知らせてくれるアラーム機能がついている。
次の戦いに備えて、昼寝でMPSP回復しレッサードラゴンに備えているだけだ。
断固ピクニック気分で熟睡なんてしていない。
結局、その後も定期的にレッサードラゴンが現れ、合計6回襲われた。
幸い炎属性とは当たらず、開幕「ファイヤーストーム」で弱らせてから中距離攻撃で目をつぶし、ゴブリーヌで止めを刺すのパターンで何とか倒すことができた。
何度か死ぬ思いもしたが、ソロで倒せたのは大きな収穫だ。
それにしても、一人はさみしい……仲間の大切さを痛感する時間だ。
清楚で可憐で綺麗でいつも俺のことを過剰に回復してくれるシャル。
気が強くて俺を切り刻むのが趣味なのが玉に瑕だが、気品がありかわいくて火力として頼りになるカリン。
かわいくてかわいくてかわいくて素早くて、俺の言うことは何でも聞いてくれるキャトル。
最高の仲間に囲まれていることに改めて気が付く。
このPTを守るためにもなんとしても執事セバスチャンを倒さねば!改めて誓う俺であった…
いい加減かえってきてくれ、ソロ狩りは疲れるんだ。
半日ほどたった時、おバカ三人の声が遠くから聞こえてきた。
「ご主人さまーおそばを離れないと誓ったのに本当にごめんなしゃい。」
キャトルが泣きながらすごい勢いで突撃してきた、もとい抱き着いてきた、少しダメージくらいましたよ?
「ピッケルー大丈夫?私たちは大丈夫よ。ちゃんと仲直りもしているわ。もう二度と仲間割れはしないから許して!」
カリンの衣服の汚れから壮絶な戦いをくり広げてきたことがわかる。
半泣きになりながらカリンも飛びついてくる、結構重いのね、体重の乗ったボディーアタックでそれなりのダメージを食らいました。
「ピッケルさん、馬鹿な事して、本当にごめんなさい。それにとってもとっても心配しましたよ。怪我はありませんか?ハイヒーリング」
怪我は治りました、シャルありがとう。
シャルもそのまま抱き着いてくる。
とても、大きくて柔らかいです。
暫く三人のぬくもりを堪能する。ぬくもりをね!
ああ、気持ちいい、安らぐ……そして俺は少し泣いた。
さみしかったんだぞおおお。
心ぼそかったんだぞおお。
奥の手もつかったんだぞおお。
とにかくみんな大好きだ!
なんとしてもこのPTを守りたい!




