遊び人とレッサードラゴン二日目の狩り
夜、それは怖い夜、モンスターより恐ろしい聖者と勇者とハイゴブリンとともに過ごす夜だ。
「もう、キャトルなんでピッケルの部屋の前にずっといるの!」
「キャトルちゃん、ちょっとそこどいてくれませんか?ピッケルさんと内緒のお話が…」
などと、不穏な会話が扉の奥から聞こえたが、無事夜を明けることができた
これもゴブリンの王として、衛兵キャトルに俺の部屋への扉を死守させた結果だ。
王たるもの、貞操は大事大事。
気分はお姫様よ。
気を取り直して狩り二日目。
昨日より、さらにレッサードラゴンの住処の奥へ突き進む。
地図はないが、何度かここで狩りをしたことがあるという呪われた聖者シャルが道案内だ迷うことはない。
ハイゴブリンのキャトルも山道を覚えるのは得意のようだ。
大事なことだ、二度言おう道に迷うことはない。
昨日の狩りでレベルが上がり、各種ステータスが上昇し、新スキルも取得した俺たち。
レッサードラゴン一匹だけななら楽々狩れるはずだ。
勇者という不確定要素さえなければな。
「よし、今日はレッサードラゴン一匹だけなら昨日取得したスキルや新しい陣形とかいろいろ試してみよう。」
「そうね。私も新スキル楽しみだわ。」
カリン、新スキルで仲間の試し切りですか?
「私は、攻撃は苦手なんですが…やらなきゃだめですか?」
シャル、駄目です。自分の身は自分で守ってください。
「私は、またかく乱役ですかぁ?むぎゅうー」
キャトル、お前は有能だ有能なかく乱役だ。新しい武器を手に入れるまでの辛抱だからな。
お父さん頑張っちゃうよ!
さっそく一匹のレッサードラゴンと遭遇。
「よし、キャトル背後に回ってかく乱を!シャルとカリンは新スキル試してみて、俺が後方で回復薬投げるから安心して攻撃してくれ。」
全ては予定通り、新スキル試すと見せかけて「ピッケル様最後衛で安全にお昼寝しながらの狩り大作戦」発動!
(ふふふ。ははは。くくく。)
おっと、心の声が漏れるところだった。危ない危ないPTに信頼は大切だよね。
「キャトルいきます!まだ火力は足りないけど敏捷はすごいあがってますからね。今日は一発も喰らわないですよ。」
なぜか、カリンのことを見ながら言うキャトル、気持ちはわかるが相手はレッサードラゴンだよ。
キャトルがすさまじい勢いでレッサードラゴンに突撃していく。レベルが上がり、キャトルのスピードはPTでも随一となっている。ハイゴブリンの潜在能力はすさまじい。
これゴブリンたちを全員ハイゴブリンに進化させてレベルあげれば、国の一つくらい取れるのでは…
って誰がそんなメンドクサイことするか!ゴブリン村の王様だって重責すぎです。
「キャトル早くなったわね。私も負けないわ!ピッケル見ていて。」
「私だって負けません!ピッケルさんに良いところみせなくちゃ。」
二人がウィンクしながら走っていく。
戦いの最中だぞ!もういいよ馬鹿は…帰ってくるな。
嘘ごめん、ドキドキしちゃいました。死なないで勝ってドロップ品ゲットしてきてください。
カリンとシャルがレッサードラゴンの攻撃範囲に入る頃には、キャトルはすでに背後に回りかく乱を実施している。
これなら安心して新スキルを試せる。さすがキャトルできる子いい子かわいい子。
まずは射程の長いシャルの新スキルから。
「アイシクルランス」短い詠唱とともに、シャルの前方に三本の氷の槍が出現し、キャトルに向けて射出される、速度はそこまで速くないが、三本あればどれかあたるでしょ?的な魔法だ。
そのまま、キャトル目掛けて真っすぐに飛んでいく。
ん?キャトルに向けて飛んでいく?敵はレッサードラゴンだぞ?新しい戦法かなにかかな。
「今ですカリン!」
「いくわよキャトル!さっき話した通り、恨みっこなしよ。昨夜の恨みここで晴らさせてもらうわ!」
恨みっこなしって恨んでるじゃないか?
「ふふ。聖者と勇者二人がかりで、ハイゴブリン退治ですか?相手にとって不足なしです。ピッケル様の為にもこの命果てようとも勝ちます。」
えっと、知らない間に何か密約が交わされ楽しいイベントが始まったらしい。
まあ昼寝してみていよう。俺は回復POTだしね。
キャトルは、飛んできたアイシクルクランスを回避していく。
一本目を華麗に回避、二本目を寸前で回避、三本目で少し体勢を崩すが、無事に回避した。
キャトルくらいのスピードがあると、アイシクルランスは当たらない、俺は横になりながらメモをする。
「ナイスよシャル今度は私の番ね。」
アイシクルランスの陰に隠れながらキャトルに肉薄するカリン、とってもいい動きですねぇ。
「リニアストライク」
すさまじい速度の斬撃が体勢を崩したキャトルに襲い掛かろうとする。
だが、リニアストライクが発動する直前にキャトルはバックステップで回避を開始している。
カリンのリニアストライクが発動したが、空を切る。
まさに空をも切れるスピードだ、あれは射程内にいればキャトルでも回避はできなかっただろう。
またカリンの危険度が一ランクアップした。実に恐ろしい勇者である。
「ふふふ、本当に私があんな氷の槍で体勢を崩すとお思いですか?甘いですよ勇者さま!」
不敵な笑みを浮かべるキャトル、悪い子になってますよー
バックステップで射程外に出たと思った瞬間今度は、一瞬で間合いを詰める。
手にはキャトル秘蔵のヒッグスナイフを持っている狙うは心臓一直線。
どこの暗殺者だ?
「甘いのはあなたの方よキャトル、避けられるのは想定内!いえワザと避けさせたのよ!」
絶体絶命のカリンが強がってみせる。
そうだ、弱みを見せたら負けだぞカリン。
冷や汗でてますけど大丈夫?心臓!心臓!
「アイアンガード」
キャトルの攻撃が当たる直前にアイアンガードが発動し防御力が三倍となる。
「ガチン」という音とともにキャトルの攻撃を受け止めるカリン。
どうやら本当に強がりではなかったようだ、すべてプランされた攻撃?
だが、今紙一重だったよね、アイアンガードの発動が間に合わなければ少なからずダメージを受けていたはずだ。
攻撃を受け止め、そのままキャトルを羽交い絞めにする、カリン。
力ではカリンに到底及ばないキャトルは、なすすべがない。
「きゃあー助けてー抱きしめられるのはご主人様だけと決めてるのー」
そこですかキャトルちゃん。
「今よシャル!」
そこには青白く輝く杖という名のこん棒を上段に構えた呪われた聖者シャルが待ち構えていた…
とてもいい構えです、剣道とかやってました?
「キャトルちゃんごめんね!明日の朝には、ちゃんと回復するから!今日はゆっくり眠っていて。ピッケルさんに通じる扉は今開かれる!」
回復するなら攻撃するなよ…何してるんすか。
とにかく、そのこん棒は危険が危ない!前の勇者もそのこん棒でやられたんじゃ…遠くにいる俺でもゾクリとするほどの殺気を放つシャル。
いつの間にか悪者に転生してしまったようだ。
「くぅう。ここまでですか、無念です、ご主人様すみません…今夜は神剣ゴブリーヌ様を片時も離さぬようお気を付けください。」
覚悟を決めるキャトル。さすがに勇者と悪者の二人が狩りではハイゴブリンに勝ち目はなかったようだ。
シャルの攻撃がキャトルの脳天をかち割る直前…………
「グルルルルー」
鼓膜が破れるほどの音量でレッサードラゴンが唸る。
(俺のこと忘れるな!)とでも言っているようだ。
お前そんなに大きな声だせたんだ。ふーん、実にどうでもいい。
レッサードラゴンはすさまじい勢いで回転し、加速させた尻尾で三人まとめて攻撃する。
相手の隙をつき、三人まとめて攻撃するとは、このレッサードラゴンできるぞ!
「こらトカゲ!邪魔しないで頂戴。」
「トカゲさんこの悪者二人をやっつけてくださーい!」
「聖者に歯向かうとはいい度胸ですね。」
などと威勢のいいことを言いながら、レッサードラゴンの尻尾によって、かなた遠くまで吹き飛ばされ、三人は仲良く星になった。
サヨウナラまた逢う日まで。
幸い直撃したのは、アイアンガードをしていたカリンだったので致命傷にはなっていないだろう。
なっていたとしても自業自得だよな……それに聖者から転生した悪者がいるから回復魔法でなんとかなるでしょ?
まだ回復魔法使えますよねシャルさん。暗黒魔法の使い手とかになってないよね?
「まったくなにやってるんだよ……」
俺は横になりながらため息をつく。
「グルル」(俺を無視したうえ、仲間割れとは見苦しいものだ。)
俺とレッサードラゴンは二人そろってため息をついた。
「あれ?いつの間にか俺一人とレッサードラゴン一匹?む?むむむ?これ不味くないですか。」
昼寝中の俺とレッサードラゴンの目が合う
その目は、女三人に無視された怒りに燃えていた。
おーい。みんな星になってる場合じゃないぞ!後衛のピンチだ!王様のピンチだ衛兵衛兵はいないのか?
反応がない、はるか遠くで星になっているようだ。
しかたがない、ここは逃げるが勝ち!サヨウナラ、レッサードラゴンと勇者と聖者とハイゴブリンよ。
だがしかしである、レッサードラゴンの住処で一人残された俺……帰り道がちょっと怪しいんですけど?ここはどこ?私はだれ?目の前にいるレッサードラゴンを怒らせたのはどこのどいつだ、今すぐ出てこい。
遊び人一人レッサードラゴンの住処奥深くで遭難した疑惑が浮上した。
山で道に迷ったら、動かずに救助を待つのが鉄則のはず、じゃあレッサードラゴンはどうするの?
倒すしかないでしょう。遊び人が一人で?馬鹿な…
俺の作戦「ピッケル様最後衛で安全にお昼寝しながらの狩り大作戦」はどこいったの?
大事な作戦なんだ返してくれ。
俺は覚悟を決める。この遭難から無事生き延びたら、あいつらにげんこつ一発づついれるんだ…
間違えてゴブリーヌで切りつけたらごめんな。




