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貧乏子爵令嬢に転生した私が気難しい公爵様にプリンを振る舞ったら、食レポが壮大すぎました   作者: 豆柴の旅々


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第三話 公爵様との初めてのデート

 アルフォンス様と交際を始めてから、しばらくが経った。


 そして今日。


 私は、初めてのデートに出かけることになっていた。


「お嬢様。少し動かないでくださいね。」


「は、はい。」


 鏡の前に座る私の髪を、メイドのマリーが丁寧に整えていく。


 マリーは、ベルフォード家に長く仕えてくれているメイドだ。


 我が家は貧乏子爵家なので、使用人の数も少ない。


 そのため、マリーには普段から色々と助けてもらっている。


「ふふっ。お嬢様、緊張されていますね。」


「そ、そんなことないわよ。」


「そうですか? 先ほどから、何度も鏡をご覧になっていますけど。」


「それは……。」


 ……だって、仕方ないじゃない。


 今日はアルフォンス様との初めてのデートなのだから。


 しかも、行き先は王都でも有名な高級レストラン。


 貧乏子爵家の娘である私には、なかなか縁のない場所だ。


「でも、本当によかったですね。お嬢様。」


「え?」


「公爵様、とてもお優しい方なのでしょう?」


「……ええ。」


 私は、これまでのことを思い出した。


 初めてのお見合い。


 プリンを食べたアルフォンス様の、あの壮大な食レポ。


 そして、二度目にお会いしたときのチーズケーキ。


 ……どちらも、すごかったなあ。


 でも、それだけじゃない。


 アルフォンス様は、いつも私の話を真剣に聞いてくださる。


 それに、私のことをとても大切にしてくださっている気がする。


「少なくとも、私のお菓子はとても気に入ってくださっているみたい。」


「ふふっ。それは何よりです。」


 マリーが楽しそうに笑う。


「そういえば、マリー。妹さんは元気?」


「はい。相変わらずです。」


「確か、今はお仕事を探しているのよね?」


「ええ。私と同じように働きたいそうなんですが、なかなか良い勤め先が見つからなくて。」


「そうなの……。」


 マリーには、八歳年下の妹がいる。


 今年で十六歳になるそうだ。


 以前、一度だけ会ったことがあるけれど、明るくて元気な女の子だった。


「でも、あの子は昔から働き者ですから。きっと良いところが見つかると思います。」


「そうね。」


 ……本当なら、うちで雇ってあげたいんだけど。


 マリーにはいつもお世話になっているし、妹さんもきっと一生懸命働いてくれるだろう。


 でも、残念ながら我が家には、これ以上使用人を増やす余裕がない。


 ……貧乏子爵家の悲しいところね。


「もし何か力になれることがあったら、遠慮なく言ってね。」


「ありがとうございます、お嬢様。」


 マリーが嬉しそうに微笑んだ。


「さあ、できましたよ。」


 マリーが一歩下がる。


 鏡の中には、淡い青色のドレスに身を包んだ私が映っていた。


 マリーが丁寧に整えてくれた金色の髪が、肩のあたりで柔らかく揺れている。


 このドレスは、以前から持っているものだ。


 決して高価なものではないけれど、マリーが丁寧に手入れしてくれたおかげで、今でも綺麗に着ることができる。


 いつもより少しだけ大人びて見えて、なんだか落ち着かない。


「わあ……。」


「よくお似合いです、お嬢様。」


「ありがとう、マリー。」


「公爵様も、きっと喜ばれますよ。」


「そ、そうかしら。」


「ええ。間違いありません。」


 ……そうだといいな。


 私は、少しだけ胸を弾ませながら立ち上がった。


 ◇


 グランヴィル公爵家の馬車が、ベルフォード家の屋敷の前に到着した。


 玄関を出ると、馬車の傍らにアルフォンス様が立っていた。


 相変わらず、見惚れてしまうほど整った顔立ち。


 黒髪に、凛とした眼差し。


 今日は落ち着いた色合いの礼服を身にまとっている。


「リリア。」


「アルフォンス様。本日はお招きいただき、ありがとうございます。」


「いや。こちらこそ、誘いを受けてくれて嬉しい。」


 アルフォンス様が、私の姿を見つめる。


「……よく似合っている。」


「えっ?」


「そのドレスだ。君の金色の髪と瞳によく合っている。とても綺麗だ。」


「あ、ありがとうございます……。」


 ……か、顔が熱い。


 こんなふうに、真っ直ぐ褒められると困ってしまう。


「では、行こうか。」


「はい。」


 アルフォンス様が差し出してくれた手を取り、馬車へ乗り込んだ。


 ◇


 馬車は王都の大通りを進んでいく。


 窓の外には、立派な建物や賑やかな商店が並んでいた。


「今日は、私が時折利用しているレストランを予約してある。」


「そうなんですね。」


「ああ。料理の評判も良い店だ。」


「楽しみです。」


 私がそう答えると、アルフォンス様が嬉しそうに微笑んだ。


「……そうか。」


「はい?」


「いや。君が楽しみにしてくれているなら、よかった。」


 ……あれ?


 今、少し照れていらっしゃった?


 気のせいかしら。


 それから私たちは、王都の街並みや最近の出来事について話しながら、馬車に揺られていた。


 アルフォンス様は、私の話をとても丁寧に聞いてくださる。


 お菓子の話以外でも、こうして楽しくお話しできるんだ。


 ……当たり前なんだけど。


 少しだけ、嬉しくなった。


 ◇


 やがて馬車は、昼下がりの王都にある一軒の大きな建物の前で止まった。


「こちらだ。」


「わあ……。」


 立派な石造りの建物。


 大きな窓には美しい装飾が施され、入口には上品な看板が掲げられている。


 中へ入ると、磨き上げられた床に、落ち着いた色合いの絨毯。


 天井には美しいシャンデリアが輝き、白いテーブルクロスのかかった席が整然と並んでいた。


 ……すごい。


 いかにも高級レストランという雰囲気だ。


「グランヴィル公爵様。お待ちしておりました。」


 支配人らしき男性が、丁寧に頭を下げる。


「本日は、こちらへどうぞ。」


 案内されたのは、窓際の落ち着いた席だった。


 椅子を引いていただき、私は少し緊張しながら腰を下ろす。


「リリア。苦手なものはないか?」


「はい。特にはありません。」


「そうか。それならよかった。」


 アルフォンス様は、支配人に料理を頼んだ。


 しばらくすると、前菜が運ばれてきた。


 色鮮やかな野菜と、薄く切られた魚。


 美しく盛りつけられた一皿だ。


「わあ、綺麗ですね。」


「気に入ったか?」


「はい。食べるのがもったいないくらいです。」


「ははっ。そうか。」


 アルフォンス様が、楽しそうに笑う。


 私はナイフとフォークを手に取り、一口いただいた。


「……美味しい!」


 思わず声が出てしまった。


 魚はしっとりと柔らかく、爽やかな酸味のあるソースがよく合っている。


「このソース、とてもさっぱりしていますね。お魚の味が引き立っていて、美味しいです。」


「そうか。」


 アルフォンス様が、嬉しそうに頷く。


「君に喜んでもらえてよかった。」


「ありがとうございます。こんな素敵なお店に連れてきていただいて。」


「いや。君と一緒に来られて、私も嬉しい。」


「……っ。」


 ……そ、そういうことを、さらっとおっしゃるんだから。


 私は少し照れながら、もう一口料理をいただいた。


 ◇


 続いて運ばれてきたのは、温かいスープだった。


 野菜の甘みが溶け込んだ、優しい味わい。


 私はスープをいただきながら、ふと気になっていたことを尋ねた。


「アルフォンス様は、普段からお忙しいのですか?」


「ああ。領地の仕事に加えて、王宮へ出向くことも多いからな。」


「そうなんですね。」


 公爵家の当主というだけでも大変そうなのに、王国の要職にも就いていらっしゃる。


 きっと、私には想像もつかないほどお忙しいのだろう。


「でも、今日はお休みを取られたんですか?」


「ああ。今日は君と過ごすと決めていたからな。」


「……えっ?」


「仕事のことを忘れて、こうして食事を楽しむのも悪くない。」


 アルフォンス様が、穏やかに微笑む。


「それに、君といる時間はとても心地よい。」


「……っ。」


 ……ま、また、そんなことを。


 この方は、どうしてこうも真っ直ぐなのかしら。


「わ、私も……楽しいです。」


「そうか。」


 アルフォンス様の表情が、さらに柔らかくなった。


 ……なんだか、不思議。


 最初は、あんなに緊張していたのに。


 今は、こうして向かい合っている時間が、とても楽しい。


 ◇


 そして、いよいよメイン料理。


 大きな皿の中央に、美しく焼き上げられた肉が盛りつけられていた。


 付け合わせの野菜も、彩りよく並んでいる。


「わあ……。」


「ここの肉料理は評判が良いんだ。」


「そうなんですね。」


 私はナイフを入れた。


 すっと刃が通る。


 ……柔らかい。


 一口食べてみる。


「んんっ!」


 思わず目を見開いた。


「美味しいです!」


「そうか!」


「お肉がとても柔らかくて、噛むと旨みが広がります。ソースも濃厚なのに、しつこくなくて……。」


 私は、もう一口いただいた。


「付け合わせのお野菜とも、よく合いますね。」


「なるほど。」


 アルフォンス様が、満足そうに頷いている。


 ……あれ?


 アルフォンス様、私の感想を聞いているときの方が、ご自分で食べているときより嬉しそうな気がする。


「アルフォンス様も、どうぞ。」


「ああ。」


 アルフォンス様が肉を一口食べる。


「うむ。確かに美味い。」


「ですよね!」


「だが……。」


「はい?」


「君のプリンとチーズケーキには及ばないな。」


 ……お肉と比べられてもね。


 私は心の中で小さく苦笑した。


「……アルフォンス様。」


「ん?」


「そんなにお好きなら、また作りますよ。」


「本当か!?」


 ガタッ!


 アルフォンス様が、勢いよく椅子から立ち上がりかけた。


「え、ええ。」


 周囲の視線に気づいたのか、アルフォンス様は静かに座り直した。


「……失礼。」


「い、いえ。」


 アルフォンス様が、深く息を吐く。


 そして、しみじみと呟いた。


「……私は幸せな男だな。」


「えっ?」


 ……えっ?


 それって、もしかして……。


 思わず頬が熱くなる。


「また、あのプリンとチーズケーキを食すことができるのだ。」


「はい?」


「この世に、私ほど幸せな男がいるだろうか。」


「…………。」


 ……そっちですか。


 でも。


 あんなに嬉しそうにしてくださるなら、また作ってあげたいと思ってしまう。


 私は、思わず笑みをこぼした。


 ◇


 食事も終盤に差しかかった頃。


 アルフォンス様が、ふと思い出したように口を開いた。


「ところで、リリア。」


「はい?」


「以前、菓子以外にも肉料理やスープを作ると話していたな。」


「はい。覚えていてくださったんですね。」


「もちろんだ。君が普段、どんな料理を作っているのか、気になっていたんだ。」


「そうですね……。」


 私は少し考えた。


 肉料理やスープなら、色々と作っている。


 でも、せっかくなら、アルフォンス様がまだ食べたことのなさそうな料理を紹介してみたい。


「例えば、オムライスとか。」


「……おむらいす?」


「はい。」


「何だ、その料理は?」


「えっと……卵とご飯を使った料理です。」


「卵と……ご飯?」


「はい。味つけしたご飯を、ふんわり焼いた卵で包むんです。」


「…………。」


 アルフォンス様が、真剣な表情で考え込む。


「卵で……ご飯を包む……。」


「はい。」


「……想像がつかん。」


「ふふっ。」


 思わず笑ってしまった。


「見ていただいた方が、早いかもしれませんね。」


「そうか!」


 アルフォンス様の表情が、ぱっと明るくなる。


「では、ぜひ食べてみたい!」


「ええ。機会があれば、お作りしますよ。」


「本当か!?」


「は、はい。」


 ……まただ。


 アルフォンス様は、嬉しそうに微笑んだ。


「楽しみだ。」


 その表情は、まるで子供が新しい玩具をもらったときのようだった。


 ……公爵様って、こんなに食べ物がお好きだったのね。


 でも。


 私の料理を楽しみにしてくださるのは、やっぱり嬉しい。


 その後もデザートや紅茶をいただきながら、私たちは時間を忘れて話し込んでいた。


 ◇


 レストランを出る頃には、外はすっかり夕暮れになっていた。


 馬車に乗り込み、ベルフォード家へ向かう。


「今日は、ありがとうございました。」


 私は、隣に座るアルフォンス様へ頭を下げた。


「とても楽しかったです。」


「それはよかった。」


 アルフォンス様が、穏やかに微笑む。


「私も、楽しかった。」


「……はい。」


「リリア。」


「はい?」


「また、君と出かけたい。」


 どきん。


 胸が、小さく跳ねた。


「……私もです。」


 そう答えると、アルフォンス様の表情が柔らかくなった。


「そうか。」


「はい。」


 しばらく、心地よい沈黙が流れる。


 やがて。


「……ところで。」


「はい?」


「先ほどの、オムライスという料理だが。」


「……はい。」


「いつ頃、食べられるだろうか。」


「…………。」


 ……もう、その話ですか。


 私は、思わず笑ってしまった。


「ふふっ。そんなに楽しみなんですか?」


「ああ。非常に。」


 即答だった。


「分かりました。では、次にお会いするときにでも。」


「本当か!」


 アルフォンス様が、嬉しそうに身を乗り出す。


「ええ。約束です。」


「……ありがとう、リリア。」


 その笑顔を見ていると。


 なんだか、こちらまで幸せな気持ちになってくる。


 今日のデートは、本当に楽しかった。


 素敵なレストランで、美味しい料理をいただいて。


 アルフォンス様とも、たくさんお話しできた。


 そして、次にお会いする約束までできた。


 ……オムライスを作る約束だけど。


 まあ、いいか。


 私は、窓の外に広がる夕焼けを眺めながら、小さく微笑んだ。


 次は、どんな反応をしてくださるのかしら。


 ……ちょっとだけ、楽しみだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


面白いと思っていただけましたら、フォローや★、応援などをいただけると、とても励みになります。


また、ほかにも短編作品や長編小説を連載しておりますので、よろしければそちらも覗いていただけると嬉しいです。


次回は10月31日の20時公開予定です。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!

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