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【10/16番外編追加】『八時間待っていろ』と姉を優先する父に山に置き去りにされましたが――あれ?私、別に待つ必要なくない?【完結】  作者: 木風


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第三話 私、待たなくてもよかったのですね

 日没の少し前、ヴァレンティ伯爵は八合目の山小屋に、娘を抱えて転がり込んできた。

 リーゼロッテは山頂で足を滑らせて足首をひねり、父の背で泣きどおしだったという。

 小屋の火のそばに娘を降ろし、水を飲ませ、毛布をかける。

 それから伯爵は、ようやくもう一人の娘のことを思い出した。


「七合目だ。七合目に娘を置いてきた。迎えに行かねば」

「ああ。あのお嬢さんなら、下山されたと連絡がありましたよ」

「……なんだと?」

「昼過ぎに、お一人で下りてこられたそうで。警備隊が保護して、麓までお送りしました。今ごろは宿で温かいものでも召し上がってるでしょう」

「なぜ止めなかった!」


 伯爵の顔から血の気が引いた。

 小屋番の老人が、湯を注ぐ手を止めずに言った。


「なぜです?」

「なぜ、とは――」

「成人したご令嬢に、あそこで八時間待つ義務でも?」

「……娘だぞ。私が待てと言ったのだ」

「ええ、伺いました」


 薪が爆ぜた。

 老人は、また湯を注ぎ始めた。


「今夜、七合目は氷点下になります。あそこで八時間、旦那様の言いつけを守っていらしたら、明日わたしらが運び下ろすことになったでしょうな。お嬢さんが、ご自分で下りてくださって助かりました」


 伯爵は、何も言えなかった。




 翌朝、宿の食堂で伯爵は下の娘を見つけると、エルナは窓際の席で湯気の立つスープを飲んでいた。

 足首には真新しい包帯と、肩には見覚えのない上等な外套がかかっている。


「エルナ!」


 伯爵は大股で歩み寄ると、安堵より先に怒りが口から出た。


「勝手にいなくなるとは何事だ!どれほど心配したと思っている!」


 エルナは匙を置き、父を見上げた。


「お父様が私を置いていったのでしょう?」

「待っていろと言った!」

「なぜ、待っていなければならなかったのですか」

「なぜ、だと?」


 伯爵は言葉に詰まりながらも、声を荒らげた。


「なぜって……迎えに戻るからだ!」

「でも、私は帰れましたわ」


 エルナはスープを一口飲む。

 昨日一日、身体の芯が冷えきっていたぶん、スープの温かさがじんわりと身体の中に染み込んでいく。


 そして、そのとき初めて気がついた。

 ああ、私、ずっとこれをしていたんだわ。


 姉が食事を選び終わるまで、待った。

 姉がドレスを選び終わるまで、待った。

 姉の家庭教師の時間が終わるまで、待った。

 姉に縁談が決まるまで、社交界に出るのを待った。


「姉さんが先だから、お前は待ちなさい」


 そう言われるたびに、素直に待った。

 しっかりしていると褒められるから、少しくらい我慢しなさいと言われるから。

 そうやって、自分の人生まで順番待ちの列に並ばせていたのだ。


 聖山の八時間は、その全部の縮図だっただけ。


「お父様。私、待たなくてもよかったのですね」


 声を荒らげもせず、涙も浮かべずに言う娘の顔を見ると、恨みも憎しみもない。

 ただ、長年の勘違いにようやく気づいた者の顔。

 なぜか、それに何も言い返せなかった。


 山を下りた翌週、クラウゼル辺境伯からエルナ宛に手紙が届いた。

 足の具合を尋ねる内容に、エルナは丁寧に礼状を書いた。


 その次の週にも届いた。

 今度は、新しい靴は足に馴染んでいるかと書いてあった。


 その内容に少しだけ笑ってしまう。

 なぜ辺境伯が自分の靴の心配をしているのか、よくわからなかったからだ。


 三通目には、聖山のふもとにある焼き菓子屋のことが書かれていた。

 山の話はほとんどなかった。

 警備隊の話も、父への苦言もない。


『あの店の胡桃菓子は、山を下りたあとに食べると格別だ』

『私は蜂蜜をかけたものの方が好きでした』


 四通目には、胡桃菓子と蜂蜜菓子の両方が届いた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
この父親は娘を殺しかけたと分かってはいるのですよね?娘の命よりも面子が大事ということなのかな?
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