009 遅咲きの学校デビュー
かけっこ勝負から数日後のこと。
「スィータンちゃん、一緒に遊びましょ」
「!?」
「あっ、私も私も」
「!?」
いつも一人だったスィータンだが、最近はなにやら様子が違っていた。
女子たちが遊びに誘ってくれるようになったのだ。
どうして急に、と困惑するスィータン。加えて単純に人づきあいに慣れてないのも原因でオドオドしている。
そんな環境変化の理由の一つはハーリクちゃんが転校したことだ。
周りににらみを利かせてスィータンを孤立させていた彼女は、家の都合で転校してしまった。家の都合とは名ばかり。あれだけの失態を犯したので学校にい続けることができなかったというのが理由だが。
もう一つは、スィータンが泣かずに走り切ったということもある。
普通の女子なら泣いてしまうところを、何もなかったかのように颯爽と走り抜いた事に、女子たちは興味を抱いたのだ。
「!!」
そんなこんなで、スィータンはようやく学園デビューを果たすことが出来たのだ。
スィータンが学園デビューを果たしてからもう一つ出来事があった。
《あ、スィータン。いつもの子だよ》
《うん》
スィータンはずっと女子たちと一緒にいるかというとそうでもない。基本的に人づきあい慣れしていない彼女は、望んで一人でいることも多い。
そういう時は大抵すみっこで本を読んでいるのだが、そこに仲間が増えたのだ。
大人しく寡黙で、薄茶色の髪と茶色の目をした可愛い系の男の子。
最初は遠くでスィータンと同じように本を読んでいるだけだったが、いつの間にやら距離が近づいていて、今では隣の隣辺りで大人しく本を読んでいる。
特に二人で会話を交わすと言う事も無い。
静かにのんびりとお互いが違う本を読んでいるのである。
とはいえ全く無関心というわけでもない。
彼が絵の多い本を読んでいる時の事。スィータンはちらりと目に入ったその絵が気になったのか、そっと彼の読んでいる本を覗き見ていた。
それに気づいた彼は、「んっ」っと言って、自分とスィータンの間に本を置いて、一緒に読み始めたのだ。
彼の口からはぽつりぽつりと絵の解説が入る。
声の出せないスィータンはそれに応えることはなかったが、相槌を打ちながら、その本を見ていた。
何度かそんなことがあったのだ。
そんな情報はメイドの耳にも入る。
「旦那様。最近、ロッド伯爵家の3男、ナギィ様とスィータン様がよく一緒におられるとの情報が入ってまいりました」
「なに? ロッド伯爵家だと? その話は本当なのか?」
「はい。ノーク伯爵家の次女ハーリク様のお気に入りで、囲われていたようですが、ハーリク様が転校したことで、自由に学校生活を送れるようになったからだと思われます」
「そうか。これはチャンスだ。 声が出ないから婚約すら危ぶんでいた所だったが、 あのスィータンが伯爵家に嫁ぐことが出来るかもしれないのだ」
「旦那様、急いては事を仕損じます。お二人はまだ5歳です」
「ふぅむ、ではしばらくは良好な関係を続けさせるしかないか」
「はい。スィータンお嬢様には何も言わない方がいいでしょう」
「スィータンは人見知りが激しいからな。下手に近寄って行って関係を潰してしまいかねない、か……」
「はい。我々でそれとなくサポートはしてまいります。念のためノーク伯爵家に探りを入れておきます」
「分かった。まかせたぞ」
というように、スィータンの知らないうちに大人たちが動き出したのだ。
そんな事はスィータンはつゆ知らず。
いつもどおり学校生活を送っている時のこと。精霊フラがあることに気づいた。
《そういえばさ、スィータン。あの子の名前知らないよね》
《ええ》
《気にならないのか?》
《うーん、気にならない》
《名札、見てこようか?》
《のぞき見は良くないわ》
《じゃあどうするのさ》
《別に名前を知りたいわけじゃないもの》
《でも、あの子、とかあいつとか、フラが呼ぶときに困る》
《でものぞき見は良くないわ。お父様も言ってた。貴族は堂々と振舞わないといけないんだって》
《じゃあ、フラのためにスィータンが名前聞いてよ》
《だめよ。ダメダメ。私がしゃべれないの、フラも知ってるでしょ》
《じゃあもうフラが見てくる。フラは精霊だから貴族じゃないし》
《駄目よ。名前も聞いてないのに名前を知ってるなんておかしいじゃない》
《じゃあスィータンが何とかしてよ。じゃないとフラは見てくる》
《もう! 分かった。分かったわよ!》
スィータンはおもむろに立ち上がると、隣で本を読んでいる男の子の前に仁王立ちした。
「え?」
男の子は顔を上げたままあっけに取られている。
それはそうだ。今までスィータンがそんな行動を見せたことはない。
そんなスィータンは自分の服の胸元をぐっと手で突き出す。そこには「スィータン・アルゲン」と書かれた名札があった。
男子は目をぱちくりしながらも、スィータンの意図を感じ取ったようで、自分も立ち上がると、胸元にある名札を前へと出した。
「ナギィ。僕の名前」
そう短く名乗ったのだった。
目的を達したスィータンはニヘラ、と前髪の下で笑って、踵を返して、自分の読んでいた本の元に帰っていって座ってしまった。
《ナギィだって。これでいい?》
《ああ、うまくできたな》
《うん。思ったよりもうまくできた》
《立派な淑女? とやらもすぐだな》
《そうかな?》
《そうそう。ラックスにも褒めてもらえるんじゃないか?》
《だったらいいな》
そんな会話を精霊フラとかわしながら本を読んでいるスィータン。
その姿を見ているナギィ君。
本を読んでいるはずが、コロコロと視線が変わって、時たま笑顔を浮かべるスィータンの事を不思議そうに見続けていた。
お読みいただきありがとうございます。
不思議少女キャラを獲得したスィータン。今後ナギィ君とはどうなっていくのか。
お楽しみに!




