010 大ピンチの卒業式 前編
そんな事があって、学園生活は穏やかに流れていって、特に何のイベントも無くもうすぐ卒業を迎えることになったある日のこと。
「ハンナ校長。卒業式についてなのですが」
学校の教師の一人が校長に相談を持ち掛けていた。
「その、卒業予定の子供たちの中にアルゲン子爵のお嬢様がおられるじゃないですか」
「ええ。それがどうかしましたか?」
「ハンナ校長もご存じのとおり、彼女はしゃべることができません。それはつまり、卒業式で歌う事もできないということでして……」
「そうですね。でも口パクで歌っているように見せかければいいのではないですか?」
「駄目です!」
「え、ええと、それはどうしてかしら」
「卒業式での斉唱は卒業の条件。神様にこれまでの日々を感謝し、これからの成長を誓う大切な儀式なのです! 学校規則第58条の3項にも記載がある大切なことです。なので斉唱ができない子を卒業させることはできません!」
「そうは言ってもねぇ。その規則は古い古いものよ」
「だ、め、で、す! 校長が率先して規則を破っては学校を信じて子弟を送り出してくれている貴族の皆様に申し訳が立ちません。この件は私に一任していただきます。よろしいですね」
「え、ええ」
押しに弱いおおらかな校長が、融通の利かない頭の固い教師に押し切られた形だ。
それはつまり、スィータンが卒業できないことを意味する。
その噂は、すぐに広まった。
そして当人であるスィータンの耳にも入ることになる。
《ねえフラ。私、卒業できないんだって……》
靴を脱いで制服のままベッドにダイブしたスィータン。
このところベッドにダイブすることは少なくなっていたが、今日は昔と同じようにもふもふに飛び込んだのだ。
そして枕に顔を埋めたまま、耳にした顛末を思い出して嘆いている。
《よくわからないけど、卒業できないとどうなるんだ?》
《学校を辞めさせられるかも》
《そうなったらラックスは怒るね》
《お父様に怒られて、家から追い出されるかもしれない……》
《うーん、ラックスならやりそう。まあそうなったらフラが精霊の国へ連れて行ってあげるよ》
《精霊の国なんてあるの?》
《行ったこと無いけどね。なんとなくあっちのほうにあるかなーみたいな感覚はあるんだ》
《そうなんだ。精霊の国かぁ》
《たぶんだけど、スィータンも精霊になっちゃうと思うよ》
《えっ、それは困る》
《なんで? 精霊はいいよ。スィータンみたいにお腹も減らないし、ふわふわ浮けるし》
《ダメダメ! 精霊の国は無し!》
《ちぇー。そしたらどうするのさ?》
《声が出るように練習するしか……》
《でも、これまでも練習してきたじゃないか。いきなり出るようになるとは思えないね》
《ううっ、どうしたらいいのかしら……》
結局、解決策は見つからずに日は進み、そして卒業式当日を迎えた。
お読みいただきありがとうございます。
しゃべれないスィータンはいつものとおり大ピンチ!
次回、卒業できるのか! お楽しみに!




