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006 傭兵上がりのキャンディ先生

 ハーリクちゃんが大人しくなったからと言って、スィータンに友達ができるというわけではない。

 入学から時間も経っているので仲良しグループも固まっている。そこに新たに人見知りのスィータンが入っていくというのは難しいことだ。


 つまりスィータンはいつも独りぼっち。そしてそれに困っているわけでもない。

 ものを隠される嫌がらせも無くなり、平穏に一人で過ごしているからだ。


 そんないつも隅っこで本を読んでいるスィータンにピンチが訪れる。

 それは見慣れない先生がやってきたことから始まる。


「おーし、お前ら! 今日からお前らを教えることになったキャンディだ。早速だが、お前らが目指す淑女とて、危険な時には見栄えもプライドも全て捨て去って逃げなくてはいけない。だからアタシはそれを教えてやる!」


 新しくきたキャンディ先生は傭兵上がりの先生だった。

 なんでこんな先生が学園に雇われたのかは分からない。ただ、スィータン達紳士淑女を目指す子供たちにとってはそんなことは関係なかった。

 先生は先生。優しいか怖いかくらいの差しかない。

 しかしながら、淑女界隈では見ない緑のベレー帽と頬についた傷跡はとてもじゃないが優しい側に傾く要素ではない。


 子供たちの中で怖いイメージが付いた中、言われるがままに中庭を走って、走って、走って。

 普段から体を動かすことに慣れていない貴族の子供たちにとっては初めての事に違いない。

 皆が皆、へとへとになって地面にへたり込んでいた。


「おーし、今日はここまでだ。ちゃんと家に帰っても走り込んでおけよ。一週間後に競争するからな」


 そう先生に言われたスィータンは、家に帰ると庭でダダダと走っていた。

 これまで大人しくおしとやかでいることを強いられていたスィータン。案外走るのが気に入ったようだった。走るのは一人だからだ。


 そんな折――


「何をしている、スィータン」


 淑女らしくないランニングの場面を父親に見つかってしまったのだ。


「……! ……!」


 父の厳しい表情に向けて、必死に説明しようとするスィータン。

 家で練習しろって先生が言った、と伝えたいのだが、もちろん声がでないので伝わるわけもない。


「旦那様。先ほど他家のメイドから聞いたのですが、どうやら新しく来た先生の方針で走らされているようです。その先生は傭兵上がりのようですね」


「馬鹿な! 学校の教育はどうなってるんだ!」


「斬新ですね」


「斬新ですね、じゃないだろ! おい、スィータン! なにまだ走ってるんだ。やめろ!」


 父とメイドが話始めたので、我の役目終われり、と思って再び走り始めていたスィータン。

 さすがに怒られてしまった。


 宿題だから走らないと、と言うものの理解はしてもらえない。

 もう一度父親を説得しようと試みるが、そもそも言葉が出ない。


「何を言いたいのかは分からんが、お前は立派な淑女になっていいところに嫁いでもらわなければならん。走るなんていう野蛮な行為はするんじゃない。やめないと言うんであればその先生とやらを首にしてやる。そしたら走る必要も無い」


「!!」


 スィータンは驚いた。

 走ると先生が辞めさせられるのだ。

 そうなったら先生も悲しむし、もう走れなくなるのだと直感的に感じたスィータン。


 スィータンは走っていた足を止めると、すごすごと自分の部屋に戻り、いつも通りベッドへとダイブしたのだ。


 《走ることならお父様に褒めてもらえるって思ったのに……》


 《他の子よりもすばしっこかったよ》


 《でも、野蛮な行為だってお父様は言ったわ》


 《そうなのかなぁ。キャンディはその時が来たら走らないといけないって言ってたけどなぁ》


 《お父様は先生の授業を受けてないし……》


 《あぁ~、それって教養が無いって言うんだよね。フラ知ってる》


 《もう、違うわよ! あのねフラ、お父様はお姉さまに一番を目指せって言ってたわ。お姉さまが一番になった時はすごく褒めてもらってたの。でも、私はお姉さまみたいに美人じゃないし、かしこくも無いし、何も一番になれない。でも、もしかして走るのだったら一番になれるかもしれない……。だから走って、それで一番になったらお父様に褒めてもらえるって思ったのに……》


 《じゃあさ、ラックスに見つからないように練習したらいいんじゃない?》


 《見つからないようにって、無理よ。無理無理! お庭で走ったらすぐに見つかってしまうわ》


 《ここだよここ。部屋の中ならラックスにも見つからないって》


 《本当だわ。走るのって外じゃないとダメだとばっかり思ってた。フラすごいね!》


 《じゃあ早速練習だ。グルグルって部屋を走って回るんだ》


 《うん!》


 狭い部屋の中をドタバタと走り回るスィータン。

 基本的に家族はだれもスィータンに興味が無いため、その騒音は誰にも知られることは無かった。

お読みいただきありがとうございます。

スィータンは走るのがお好き。


さてさて、今日からしばらくは毎日更新いたします。

応援よろしくお願いします。

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