004 学校デビュー 前編
「ねえあんた! なんとか言ってみなさいよ!」
学校に初めて行った日のこと。スィータンは早速からまれていた。
事の発端はただの挨拶だった。
たまたま近くにいた女の子が名前を名乗ったのだ。淑女界隈では名乗られたら名乗り返すのが礼儀。名乗り返さないという事は、相手を格下に見ているということ。
つまりまあ、しゃべれないスィータンは相手の名乗りに対して返事をすることができなかったわけだ。
「……! ……!」
必死に何かを訴えようとするスィータンだが、相手は声が出ないことを知らない。
「馬鹿にして!」
女の子は怒りに任せてスィータンに掴みかかろうとするが――
「そこまでです。喧嘩はいけませんよ」
学校の教師がやって来てその騒動を止めた。
「ふん! おぼえてらっしゃい!」
そう捨て台詞を残して去って行った。
「あなたもいけませんよ、スィータン・アルゲンさん。今後注意してくださいね」
そう言うと先生は教室へと入っていった。
「…………」
初日からスィータンは挫けてしまった。
もういやだ、という思いだけ溢れ出して、その後何があったのかはあまり覚えていない。
気づいたら家に帰っていて、ベッドの上にダイブしていた。
《喧嘩する程仲がいいって、誰かが言ってたよ》
《それは絶対ウソ。あの子とお友達になんてなれないよ》
《フラはよくわからないけど、仲間は多い方がいいって誰かが言ってた》
《無理よ。無理無理。そもそも私、声が出ないんだから》
《ばかっ! いつもスィータンが言ってる聖女ってのはそんな事言わないはずだぞ! 笑顔だよスィータン。笑顔があれば仲良くできる。スィータンの笑顔は素敵だよ》
《そうかな?》
《うん。フラはスィータンの笑顔が大好きだ》
《本当?》
《本当本当。ほら、笑顔笑顔》
《分かったよフラ。笑顔でやってみる!》
フラに励まされて友達作りに前向きになるスィータン。
ニコリと笑顔を作ってみるも、持ち前のワカメのような長い前髪が目を隠しているため、真価を発揮しない。そもそもきちんと笑えてもいない。
いちおうニコニコしてる感じは出ている。無言で笑顔を見せている女子。
そんな努力もして、学校で実践する。
だけど誰も気づいてくれない。もちろん無言なためだ。
気づいてももらえないので、ふらふらと周囲のグループの間を回っていると――
「スィータンちゃんっていうのよね? 一緒に遊ぼ?」
トテトテと、赤毛の可愛い女の子がスィータンの元にやってきたのだ。
まさかの向こうからのお誘いだ。喋れないスィータンにとっては願っても無い好機。
だけど、話はそんなに簡単ではなかった。
「ねえ、マリアさん。わたくし、その子とは遊びたくないの。あちらに行きません事?」
「えっ、でも」
「別にマリアさんがわたくしと遊びたくないのであれば結構ですわ。わたくし他にもお友達がいますもの」
「わかった。またねスィータンちゃん」
初日にくってかかってきた女の子、ハーリクちゃんがスィータンに女の子が近づくのを邪魔したのだ。
フンッ、とそっぽを向き去って行くハーリクちゃん。
スィータンはぽつんと独りぼっち。
その後も何人かが話しかけようとしてくれたものの、毎回毎回ハーリクちゃんの邪魔がはいる。
おかげでスィータンはいつも独りぼっち。
そしてそんな状態がいつしか普通の光景へと変わるのに時間はかからなかった。
スィータンはスィータンで、悲しいことに一人でいることに慣れている。
血のつながった家族とも、血のつながっていない家族ともうまくいっていない彼女は、人づきあいが不慣れなのだ。
スィータンはいつも隅っこで本を読む様になった。
お遊戯のときは目立たない路傍の石のように参加し、自由時間は読書。なにも問題なく進んでいたはずなのだが、そんな状況が気に入らない女子が一人。
スィータンが独りぼっちになるように仕向けたハーリクちゃんだ。
独りぼっちで寂しくなって泣き出すところを見たかった彼女だが、スィータンは一人になったものの泣き出しはしなかった。
そんなハーリクちゃんは次の手に出る。
お読みいただきありがとうございます。
長くなったので前後編に分けています。
はたしてハーリクちゃんは何を思いついたのか。
お楽しみに!




