003 聖女さま
ある日私はお父様に呼び出された。
お父様のお部屋。数えるほどしか入ったことの無いそこには、厳しい表情で椅子に座るお父様の姿があった。
「スィータン。お前を学校に行かせる」
低く重い声でそう言われたため、ビクリと体を震わせてしまった。
そのことがさらに私の心を動揺させる。
またお父様に怒られるのではないかと。
当然のごとくギロリと睨まれた。
「しゃべれないとはいえ、お前も我がアルゲン子爵家の娘。政略結婚のコマとして役立ってもらわなくては困る。いいか。立派な淑女となるのだ。期待しているぞ」
怒られなかったことにポカンと口を開ける。
「ふん。何を言いたいのかはわからんが、要件は伝えた。あとはメイドに任せる。部屋に戻るといい」
お父様がそう言い終えると、私はメイドに手を引かれてお父様の部屋を後にした。
私は小さな部屋のベッドへとダイブする。
いつもどおりに、ゴワゴワした布団が体を迎えてくれる。
《そう言えばスィータン、ラックスが言ってた学校ってなに?》
《たくさんの子供たちが集まって勉強するところかな》
ラックスというのはお父様の名前だ。
その父が珍しく私に言ったのだ。学校に行かせると。そこで学んでこいと。
初めて父に期待されたのだ。愚図でのろまな私も頑張ろうって思う。
だけど……怖い……。
私はしゃべれない。声によって人とコミュニケーションを取れないのだ。
それは致命的なことで……おかげで引っ込み思案になった。
なるべく人と関わらないように過ごし、他人の目と合わないように前髪を長く伸ばして目を隠した。
《でも、無理だよ。無理無理。私、しゃべれないんだから》
《珍しくやる気になってたのにな》
《フラには分からないよ》
《分からないさ。フラはスィータンじゃないんだから》
《やっぱり分からないんじゃない》
《でもスィータンはラックスに褒めてもらいたいんだろ? だったら頑張るしかないんじゃないか?》
《そうだけど……》
《それに、学校っていうので学んだら聖女ってやつにもなれるんじゃないのか? いつもスィータンが言ってるやつ》
《聖女さま……》
一度だけお会いしたことがある。
キラキラで眩しくて、温かくて、胸がポカポカする。そんなお姉さん。
そのとき自分も聖女になりたいと、憧れを持ったのだ。
《なれるかな?》
《なれるさ。スィータンなら》
《本当? なれる?》
《なれるなれる。絶対なれるよ》
《わかった。学校に行って聖女になる!》
この時私は気づいていませんでした。
通う学校は淑女になるための学校であって、聖女になるための勉強はしないことに。
お読みいただきありがとうございます。
今回はスィータン視点でした。




