038 脅威! 同好会ドラゴン! 後編
「な、何が始まるんでやんすか!?」
その動きに総番ドラゴンは付いていけない。
高速で移動する敵に対して、指示を出すトールもどう動いていいかわからず、その場で静止したままとなってしまう総番ドラゴン。
「そこだ!」
衝撃が総番ドラゴン全体に伝わる。
後方から体当たりを受けたのだ。
敵を捕らえようと向きを変えようとする総番ドラゴン。だが後ろへと動いた後、そこにはもう同好会ドラゴンはおらず……その隙をついてまた後ろから体当たりを受けてしまう。
「トール、やられてばかりでやんすよ!」
「ええい、分かってる!」
そうは言うものの対策は取れない。
相手の方が素早く、捕まえようにもその影すら踏めないのだ。
「いいぞ! ここらで奴らに重い一撃を食らわせてやるぞ!」
グルグルと回りを回っている同好会ドラゴン。
ちょうど総番ドラゴンの後ろに来た時だった。
「ドラゴンズテイル!」
総番ドラゴンの横を通り過ぎようとした同好会ドラゴンの最後尾のしっぽ約の生徒。ドラゴンが回転移動する遠心力を利用し、大きく体を横に振ることで体を一本の鞭のようにしならせて両足で飛び蹴りを放ってきたのだ。
「ぐあっ!」
その攻撃は総番ドラゴンの尻役の生徒に命中し、大きなダメージを与える。
『おおーっと、同好会ドラゴンの強力な一撃が入ったぁぁぁぁ! 総番ドラゴンは大ダメージだっ!』
「大丈夫か!」
トールは前方を向いているので後方の様子は分からない。首を後ろに向けても角度的に尻役までは見えない。
「な、なんとか。だけど何度もくらったらヤバイです」
だいぶ強がりを言った尻役。
当たり所が悪かったので腕の痛みが引かない。何度か耐えられるどころか次で終わりだろう。
「尻尾の攻撃に備えろ! 素早く向きを変えて対応するんだ!」
ここにきて総番ドラゴンは行動を変える。その場で足踏みして小刻みにドラゴンを回転させることで、後ろを取らせない作戦に出たのだ。
「はっ! 甘い甘い! 攻撃が尻尾だけだと思うな!」
同行会長が何かを取り出した。
それは巻物のようであり、赤く長い布が丸められた形をしている。
「ドラゴンブレスを食らえっ!」
赤長布の反物の先端を握ったまま、それを総番ドラゴンに向かって投げつける同好会長。
まるでドラゴンの火炎放射のように、中央会場に赤い一条の帯が伸びていく。
「うぉぉぉぉぉ!?」
その布はまるで意思を持っているかのように総番ドラゴン前方ポジションのトールへと向かって行き――
「もがっ!」
そして絡みつく様にトールの顔に巻き付いて視界を奪ったのだ。
『なんと熟練されたドラゴンブレスでしょうか! ドラゴンズダッシュに唯一持ち込みが可能なブレス用の反物。ドラゴンのブレスを模した赤色の長い布ですが、とにかく扱いが難しく、狙った的に絡みつかせるのは至難の業。それをこうも簡単に操って見せるとは、さすがドラゴンズダッシュ同好会長を名乗ってはいません!』
「トール! 大丈夫だべか!?」
「もがっ! もがっ!」
司令塔の視界も塞がれて声も封じられた。
それだけで大ピンチだということは観客でも分かってしまう。
「まだまだっ!」
すかさずの追撃。同好会長が第2第3の反物を投げつける。
司令塔を失った総番ドラゴンは成す術も無くそれを受けてしまう。
『おおーっと! 総番ドラゴン前方横二人へのドラゴンブレス攻撃だ! これは厳しい!』
司令塔を補佐する二列目ポジションのショーンとサイドの二人にも反物が巻き付いてしまい、完全に司令塔機能がマヒする。
「いくぞ! タイプQ、12、5、その後、タイプXだ!」
同好会ドラゴンの熾烈な攻撃が始まる。
指令の無い総番ドラゴンは成す術も無くその攻撃を受け続ける。
致命的な一撃はもらっていないものの、ダメージは累積し、反撃に移るための力は失われていく。
ドラゴンの頭を落とせば勝利になるのに、何故致命的な一撃を放たないのか。
同好会長の作戦だと言えば聞こえがいいが、その理由はひとえに同好会長の内側にあった。
同好会長は戦いが始まった当初からこう考えていた。
(総番と言えど女の子! 競技だからって女の子に触るなんて無理無理!)
彼は根っからの体育会系。男子の中で育ち、男子世界しか知らない。だから女子と話す免疫を持っていないし、触れるなんてなおさらのことだ。
勝負をかけるためには、頭部で組み合わなければならない。それはすなわち、スィータンに触ってしまうという事。
免疫の無い彼にはその方法がどうしても採れなかった。
だからチマチマとダメージを稼いでドラゴン本体の討伐を狙っているのだ。
「「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」
戦いのクライマックスを感じさせる展開に、会場から大きな歓声があがっている。
そんな様子を観客席から冷静に見つめる一人の女子がいた。
ダークネス・ヴァインの参謀、フーカちゃんである。
「このまま終わってしまうのかな? だとしたら期待外れだよ。せっかく用意した策も無駄になってしまう。まぁ、どうせ潰すつもりだったから早めに消えてくれて正解かな」
ポツリとつぶやいた言葉は観客席の怒号のような声援にかき消されてしまい、だれの耳にも届かなかった。
お読みいただきありがとうございます。
大ピンチのスィータン総番ドラゴン。
このまま負けてしまうのか? いやいや、我らがスィータン総番がここで終わってしまうはずはない。
次回をお楽しみに!




