035 ドラゴンズダッシュ開催! 前編
(こんなはずじゃなかったのに!)
スィータンはそう思った。
それはドラゴンズダッシュ当日のこと。
ドラゴンズダッシュ会場
昔スィータンが通っていた初等学校には運動する場所は無かったものの、この学園には何故かドラゴンズダッシュ専用の会場が存在していた。
それは建国王バルシュム1世の意思。
侵略によって国土が荒廃していた中、力によって侵略者を打ち倒し国を起こした建国王は、健全な体に健全な魂が宿るようにとドラゴンズダッシュを生み出し、国民に奨励した。
その歴史が脈々と受け継がれてきたのがこの、王立グランディーヌ学園なのだ。
そんな理由で王都にありながら巨大な敷地を有するドラゴンズダッシュ会場は、円形の中央会場を中心に野球場のように階段席が設けられている石造りの遺構である。
今日はドラゴンズダッシュの開催当日。
会場にはメイン実施の中等部生徒だけではなく、伝統行事を楽しむために一般の人たちも観覧参加している。
そんな中央会場。高さにして地面から3mの所にスィータンはいた。
騎馬戦の騎馬役。そう表現するのが適当とは言えない。
なぜならこのドラゴンズダッシュは10人で組む騎馬、つまりドラゴンを模した状態に組んだ状態で戦う競技なのだから。
土台の基礎となるのは3人。通常の騎馬戦のように先頭一人、左後ろ右後ろの二人が先頭の肩を持つ。その上に一人が乗る。
ドラゴンはそれだけではない。基礎の騎馬の後ろにさらに二人が前の騎馬の人の肩に手を置き、そのさらに後ろにもう二人が同じように前の二人の肩に手を置く。つまりその4人はドラゴンの胴体役。
そしてその後ろに一人、胴体役の二人の肩に両手を置いた尻尾役。
これで9人。そして10人目はというと、先頭の騎馬に乗っている人に肩車をされた状態になるのだ。ドラゴンの首と頭を模した部分であり、リーダー役である。
そこにスィータンはいた。
こんなことになるとは思ってもいなかった。
ずっと走る大会だと勘違いしていたからだ。
まさか10人でドラゴンを組んで戦うなんて思ってもいなかった。
しかも一番上。高くて怖い。
「総番、準備はいいでやんすか?」とショーンが言った後、あれよあれよとこの形に組みあがったのだ。
先頭は背の高いトール、左右はサイドとショーン、そしてその上にナギィが乗り、スィータンはナギィに肩車をされている。
当初、背の高いトールはスィータンを肩車する役目で、ナギイは騎馬部分だったが、重さにナギイが耐えられなかったので上に回された。
元々仲の良い3人が下のほうがバランスがよく、戦力的にもそのほうがいいということにもなった。
(スィータンさんを絶対に落とさないようにしないと!)
ナギイは気負っていた。
スィータンが一番上になることは決まっていた。だから誰かに肩車されるのは間違いなかったが、肩車とは即ち密着。上の人の足をしっかり手に持って落ちないようにしなければならないのだ。
スィータンが誰かに肩車をされることを考えたらチクリと胸が痛んだが、いざ自分がそれになってみると、そのテンパりようは並じゃなかった。
普段は触れる事なんて全くない。それが逆にしっかり触れて支える必要があるのだ。
恋をしたことのある男子諸君なら分かるだろうが、どう考えても脳がバグる。
「ちょ、ちょっと、スィータンさん、く、くるしい……」
そして高い所に恐怖しているスィータンは落ちないように太ももをぐっと締めてくるのだ。
「総番! ナギィのやつは頼りないですが、少し我慢してやってください。俺たちが総番の手を煩わせることなく全部叩き潰してやりますから!」
トールが顔を上に向けてしゃべる。
頼りないナギィにスィータンが活を入れていると思っているのだ。
もちろんスィータンはそんな言葉は聞こえていない。
太ももをぐっと締め、両手はナギィの頭をがっしりと掴んで離さない。
ナギイはナギィで必死にスィータンを支えることで手いっぱい。
戦う以前の問題だ。
なぜ事前に練習をしておかなかったのか。
もちろん当日までにその提案はあった。
「総番、メンバーがあつまりやしたんで、一度練習しておきやすか?」
ショーンからそんな話をされたスィータンだったが、タイミングが悪かった。
授業が終わったところだったのでトイレに行きたかったのだ。
「総番、どうしやす?」
足早にトイレへと向かうスィータン。その後を追うように親衛隊が付いてくる。
女子にとっては羞恥に耐えられない場面。
スィータンは恨みがましい視線を親衛隊へと向けたのだ。
「ひっ! す、すいやせん! 俺たちだけで練習しておくでやんす!」
無言で睨まれたショーンは脊髄反射で謝る。
天下無敵のスィータン総番に向かって差し出がましくも練習が必要だなどと、その力を疑う発言をしてしまったことに気づいたのだ。
「さ、さあ、練習、練習! 行くでやんす!」
と、親衛隊を連れて去って行った。
男子の取り巻きがいなくなり好機が訪れたスィータンは急いでトイレへと駆けこんだのだ。
とまあそんなことがあったので、練習はしていないし、トイレに行きたい思いで一杯だったスィータンはその時の事なんか覚えてもいない。
そのまま本番を迎えたというわけだ。
実はスィータンが勘違いしているんじゃないかという事を、ナギィは薄々感づいていた。
長くなったので分割しています。
続きをお楽しみください。




