033 これは機会を逃した時事ネタ
基本的に王都は人ごみにまみれている。街中を走るのには適してはいない。
スィータンが目指すのは河原だ。王都を流れる川は入り組んだ街中よりもまっすぐであり、ごみごみしていないため走る練習には最適だ。
河原にたどり着いたスィータンは、キリリと表情を引き締める。
ドラゴンズダッシュというくらいだ。速度を求められる競技に違いない。仮に名前がドラゴンズランだったら持久力を求められたに違いない。
どちらでも自信はあるけど、と、そんな事を考えたスィータンは、スタート体勢を取って――
脳内で鳴らした拍手を合図に、おもいっきり駆けだした。
左右の景色がぐんぐんと後ろに消えていく。
それにつれて眼前の景色が次々と切り替わって行く。
走るのが好きだと言っても、何か目標がなければ走る練習もしない。
そのため実に数年ぶりの走る練習だが、ブランクを感じさせないすばしっこい走り。
広場を越え、橋を越え、小さな畑を越え、そしてまた広場を越えて。
思いのままに駆けているスィータン。
途中、必死の形相をして走っている二人組の男を見かけた。
(大人も走る練習をするんだ)
などと思って、自分が大人になっても走る練習をしてもいいのだという事に気づいたスィータンは、一層やる気になって走る走る。
衛兵とすれ違う。老人とすれ違う。ペットの散歩をしている人を抜き去る。
そうして、全速力で走るにはそろそろ力が尽きてきたころ。
《あれ? 何か光った》
《ん? どこ?》
《なんだろう》
河川敷の草むらで何かが光った気がして、ちょうど疲れて来てもいたのでスィータンはそちらへゆっくりと進んで行く。
《宝石が落ちてるわ》
きらりと光ったものの正体。それはアクセサリだった。
金の鎖の先にあしらわれた大きな宝石の首飾り。それが3つ。どれも赤い宝石が付いている。
《落とし物かな。置いとくわけにはいかないよね》
《そうそう。淑女は清く正しく、だったっけ?》
《無くして困ってるかもしれないからね》
落とし主は困っているだろうと思い、衛兵の詰め所へ持っていくことにした。
しかしまあ、落とし主はよっぽど赤い宝石が好きなんだなと、3つともまったく同じ首飾りを持ったスィータンはそう思った。
タッタッタ。
もちろん走る練習も忘れない。
少し走った先。河川敷に面したところにある兵士詰め所が見えてきた。
はっはっは、と息を荒らげながら詰め所に駆け込んだスィータン。
そんな様子で詰め所に駆け込んだら、通常なら緊急事態かと思われるところだが、幸い詰所の中には誰もいなかった。王都を守る詰め所にしては不用心である。
《誰もいない》
《うーん、出かけてるのかな? どうする?》
《いつ戻ってくるのか分からないし、帰るのが遅く鳴ったらアネファお姉ちゃんに心配かけるし、置いていく》
いないのであればしかたない。
机の上に三つの宝石を置いて、落とし物です、というメモ書きをして、詰め所を後にして、再び走り出したスィータン。
「今の子……」
走り去る体操服少女の姿をちょうど詰め所に帰ってきた兵士が見かけた。
その兵士は詰め所の中に入ると――
「こ、これは! 盗まれた首飾り! あの捕まえた二人組、途中で落としたとかふざけたことを言っていたが本当だったのか!」
兵士たちが留守だった理由。それは王都の宝石店で発生した強盗犯の逮捕のためだった。
入口近くにあったショーケースをハンマーで破壊し、首飾り4点を盗んだ二人。
捕まえた時には1点しか持っておらず、3点は落としたとか言っていた。
もちろん鵜呑みにする衛兵ではなく、他に仲間がいて受け渡しをしたり、掴まった時のために別の場所に隠していたりしているのだと疑っていた。
実際のところ犯人は草むらに隠していて、後で回収するつもりだったのだが、それをスィータンが見つけてしまったというわけだ。
次の日。
【体操服の少女、お手柄】
というタイトルで王都の新聞をにぎわせたのだが、新聞なんか読まないスィータンはそのことにはまったく気づかないのであった。
お読みいただきありがとうございます。
日本も物騒な世の中になってきた時事ネタでしたが、公開するまでに時間が経ってしまいなんのこっちゃ、と思われる方もいるかもしれませんね。
さて、ドラゴンズダッシュが始まる前にもう一つ短いエピソードを挟みます。
次回は明日更新予定。お楽しみに!




