031 実家に慣れているスィータン 後編
こちらは本日2話分公開した部分の2話目となります。
1話目を呼んでいない方はお戻りいただき、1話目をお読みください。
久しぶりに家族が全員そろっている。
家長であり父親のラックス、義理の母ココーク、その息子フォレーラは今5歳。そして学園の高等部に通っている13歳の姉のピアラも珍しく実家に戻って来ているのだ。
スィータンを除いて和やかな会話をしている中、食事は進んでいる。
「それでね、お父様。ジリアーノ様が、今度私とデートに行ってくださるの」
「よくやったぞピアラ。お前が侯爵家に嫁げば私も鼻が高い」
「ふふん、私の美貌があれば侯爵家の一つや二つ、簡単なんだから」
「ジリアーノ様は次男とはいえ、何があるかわからんからな。将来は二人の子が家督をつぐかもしれない」
「やだぁ、お父様ったら、子供だなんて、まだ早いわ」
「おぉ、すまんすまん。だけど、必ず孫の姿を見せておくれ」
姉のピアラは容姿端麗。綺麗な金色の髪と情熱的な赤い目で、しゃなりしゃなりと歩く姿は王族とも引けを取らないほど。その性格に目をつぶれば美少女で間違いない。
とはいえ、貴族女子たちは概ね性格が悪いのが相場なので、通常の美少女という感覚でもある。
そんなピアラは他国と国境を接する領地を持つシュヴァイン侯爵家の次男、ジリアーノに猛烈アタックをかけていた。
ジリアーノは色恋沙汰には興味が無く、ピアラのアタックは無謀にも思えたが、それ故に彼を狙うライバルも少なく、狙いを定めたピアラの猛攻を受けており、それが鬱陶しいから渋々デートを受けたという経緯もある。
つまり好感度は友好的以下。ここからいかに頑張ってジリアーノを落とすのかはピアラの手際によるところが大きい。そして、ピアラの性格は油断も隙も無いもの。
今後の二人の攻防はどうなるのかは未知数だ。
「でもでも、ねえさま。フォレーラはねえさまを取られたくはありません」
いじらしい表情を見せる美少年のフォレーラ。
その目は僅かに涙で潤んでいる。
「可愛い事言ってくれるじゃないフォレーラ。でも私の心はジリアーノ様のものよ」
「そんなっ! フォレーラは姉さまをお慕いしております!」
声変わり前の声。
義母から生まれたスィータンの弟は、ピアラお姉さま大好きの大のシスコンなのだ。
「フォレーラ。ピアラさんを困らせるものではありませんよ。フォレーラも成長したら立派な殿方になって、侯爵と言わず、王族を妻に迎えるくらいになってもらわないといけませんからね」
「でもでも、母上、それだったらスィータンにやらせておけばいいじゃないですか。フォレーラはピアラ姉さまと結婚したいです」
「もう、フォレーラったら。私の事が好きすぎるのはいいとして、この愚図でのろまなスィータンができるわけ無いわよ。上位貴族を狙うどころか結婚すらも怪しいわ」
そしていつもの通り、いやがらせのターンが回ってきた。
当のスィータンはナイフとフォークでお魚と格闘中。もちろん家族の会話など聞いちゃいない。
「聞いてるの? スィータン! あんた馬鹿なんだから話しぐらい聞きなさいよ!」
ピアラに怒鳴られてようやく、話しかけられていたことを知るスィータン。
もちろん話について行けるはずもなく、魚をフォークにさしたまま停止する。
「本当に腹が立つ妹ね。あんたなんか結婚できるはずもないわ!」
「そう言うなピアラ。スィータンはスィータンで、ロッド伯爵家の3男を目標に学園の中等部に行かせている」
「うそっ!? あんた、学園に行ってるの?」
目を見開いたピアラ。
「ああそうだ。情報によると、3男はスィータンに好意を持っている」
「本当なのお父様!? あはっ! こんな女を好きになる男がいるんだ! 物好きね。大丈夫なのかしらロッド伯爵家っていうのは。
まぁ? 私は侯爵家なんですけどね。伯爵家なんて眼中にも無いわよ」
アハハと馬鹿にするような笑い。
スィータンは未だ事情を掴めておらず、口を開けたままポカンとしている。手には魚をさしたフォークを持ったまま。
「何? 何か言いたいわけ?」
そんな様子に苛立ったのか、ピアラがギロリとスィータンを睨みつける。
貴族令嬢らしく表面上つくろっては見たものの、まさかスィータンがそんな事になっているとは思ってもいなかった。
ピアラはスィータンの事に何一つ興味が無かったので、今の今まで学園に通っていることすらしらなかった。
それに、まさか男子から好かれているなんて、という思いもあった。
自分は必死に、それこそ死ぬ気でアプローチをして、ようやくデートを勝ち取っただけ。血のにじむような泥臭い努力を見えないところで繰り返してそれに至ったのに、こんなワカメの亡霊みたいな女が将来安泰になりそうだなんて。
見下していた妹が自分より上を行っているなどと認めたくはないし認められないのだ。
「文句があるなら言ってみなさいよ!」
頭に血が上ったピアラは、魚の乗った皿を手に取ると、皿を振り抜くようにしてスィータンに魚を投げつけた。
「!!」
そんな事を予測できようはずもなく、スィータンの顔に魚がびちりと直撃して、顔も前髪もソースまみれになる。
「ふんっ! アンタにはその姿がお似合いよ!」
「そうだ! お前なんかがピアラ姉さまと口を利くな!」
逆サイドから追加で魚が飛んできた。フォレーラがピアラの真似をしたのだ。
左右から飛んで来た魚で魚臭くなってしまったスィータン。
「やめなさい!」
父ラックスが怒鳴る。
学級崩壊ならぬ家庭崩壊だ。魚が空を舞うなど貴族の作法としてあってはならない。
いかに目に入れても痛くないくらい可愛い娘だとしても、それはあってはならない。
「ですが、お父様!」
「スィータン、お前もだ。真に淑女を目指すのなら、こうなることを避ける努力をしなさい。そして、もう部屋に戻りなさい」
ピアラの言い訳を遮ってラックスは言う。
家長の言う事は絶対。
スィータン8歳はいつもどおりにメイドに引っ張られて食事部屋を退席させられたのであった。
ぼふん。といつもなら聞こえてくるところだが、魚のソースにまみれたままベッドに飛び込むと致命的なことになるため、スィータンはそうはしなかった。
《水浴びしに行く?》
《そうする》
《しかしまあ、ピアラもフォレーラももったいないことするよな》
《うん。お魚食べ損ねた》
《髪にソースついてるよ》
《ソースだけじゃお腹がふくれないわ》
《じゃあ水浴びしたついでになんか食べるもの拝借しようよ》
《うーん、今日はやめておくわ。ばれたらまた怒られそうだから》
《スィータンが貴族じゃなかったら落ちた魚も食べれるのにね》
《貴族じゃなくても床に落ちた魚は食べないかな》
《ふーん。あ、先には誰もいないよ》
《ありがとうフラ》
そうして風呂場にたどり着いたスィータンはソースまみれになった服を脱ぐと、服を水洗いし、そのあと自分の体を洗い始めるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
実家に慣れているスィータンちゃんではありますが、彼女にとってそこは安住の地では無いのです。
次回は学園でのお話です。
気分を変えていきましょう!




