030 実家に慣れているスィータン 前編
夏の長期休暇がやってきた。
この国は夏が暑く、そんな中で貴族たちが勉強できるはずがないというわけで、学園も長い休暇を設けている。
休暇になるということは、食堂も購買も閉まってしまうということ。つまりは実家に帰って親に顔を見せるようにという無言の圧力でもある。
家から離れてのびのび過ごしていたスィータンも例外ではなく、食糧難によって実家へ帰宅せざるを得なかった。
地方にあるアルゲン子爵家の屋敷。
実家のあるザルシーという名前の町は、王都に比べると田舎ではあるが生活には不自由しないくらいの規模感である。
同じランクの子爵家や下位の男爵家なんかもいくらかあって、それなりに栄えているのである。
学園が用意したザルシー行きの馬車に乗り込んだスィータンは、数か月ぶりの実家へと戻ってきた。
学園から事前の帰宅連絡がいっているにも関わらず、スィータンが屋敷に付いた時に誰の出迎えも無く、いつもどおりスィータンは一人で自分の部屋に、えっちらおっちらと向かったのだ。
ギギギと音を立てる見慣れた自室のドアを開けて中へと入る。
――ボフン
少し離れていたとはいえ、これまで長い間やってきた行動は変わらない。
スィータンは慣れ親しんだ自室のベッドへダイブしたのだが――
――ゴホッゴホッ
当然だれも掃除をしてくれておらず、舞ったほこりを吸い込んでしまったのだ。
《大丈夫? スィータン》
《だいじょうぶじゃない》
――ゴホッゴホッ
せき込みながらでも思いが伝えられるのはフラとの会話のいいところ。
それが特に役に立った記憶はスィータンには無いけれど。
《掃除するしかないね》
埃の隙間をスッスッと避けるように飛び回るフラ。
フラに実体は無い。だから埃に当たったり触れたりすることはないので、これは意味のないアクションである。
《フラは簡単に言うけど、掃除するのは私なんだから》
《フラは掃除できないからね》
《雑巾とか貸してくれるかしら……》
《ジョアンもミッシーもケチ臭いよね》
フラが言った名前はアルゲン家のメイドの名前。日ごろからスィータンへの当たりは強い。
スィータンの小さい頃からの記憶には、ギロリと睨まれるか、無視されるか、肩に担がれて部屋へと連行されるか、そんな思い出ばかりがある。
《勝手に借りるしかないかな。きちんと戻せば大丈夫だよね》
《フラに任せて。いつもみたいに居るかどうか見て来てあげる》
《うん、お願いフラ》
フラがスィータンに先行して飛び、いつものようにメイドが留守であることを確認して、こっそりと掃除の道具を拝借して、ドタバタと部屋の掃除をしたスィータン。
道具を返しに行ったところで、お化けを見たかのような目をしたメイドに見つかり、無言でギロリと睨まれて、手に持っていた道具をひったくられた。
そんなこんなで部屋に閉じこもっていたスィータン。
基本的にスィータンは一人で屋敷の外に出ることは許されていない。スィータンの外出に同行するメイドがいないのが理由だ。
仮に一人で外出させて、もしもの事があったら困る。ワカメみたいな前髪をしているが一応貴族令嬢なのだ。
拉致られて身代金を要求されたり、政略結婚できない体にされたりしたらアルゲン家としては目も当てられない。そう言った理由で外出が許されていないのだ。
スィータンの腹時計が鳴り始める。
夕食の時間になってはいるが、もちろん誰も呼びに来てはくれない。
夜ご飯を食べるために、いつもどおり一人で向かう。
家族が集まる食事部屋へと。
「アハハハハ、それでね、それでね」
スィータンが扉を開けると、聞こえていた歓談がピタリと止む。
いつものことなので、スィータンは気にせずに自席へと着席する。
そんな様子を忌々し気に見ていた家族だったが、すぐに無視して会話に戻っていた。
お読みいただきありがとうございます。
長くなったので今回も2話に分けました。
引き続きお楽しみください。




