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029 スィータン、鼻を鳴らす 後編

こちらは本日2話分公開した部分の2話目となります。

1話目を呼んでいない方はお戻りいただき、1話目をお読みください。

「す、スィータンさん、駄目だよ、匂ったら恥ずかしいから……」


 奇行に走るスィータンに対して弱々しい声で反論するナギィ。

 だが彼は紳士たるためにシャワーで汗を流してきている。汗のにおいはしないはずなのだが、自分では気づかない匂いがあったら、と恥ずかしがっているのだ。


 その行為に満足したのかナギィの言葉に理解を示したのか、理由がどうなのかは分からないが、スィータンはナギイの体から顔を放すと……おもむろに彼の腕を引いたのだ。


「あ、あの? スィータンさん?」


 何が何だか分からないままナギィは立たされて、体を引かれて、スィータンに引っ張られるまま歩いていく。

 もちろんスィータンは男子を力づくで引っ張っていけるほど剛力の持ち主ではない。

 ナギィがスィータンの意図を組んで紳士的に着いて行っている状態。


 しゃべれないスィータンは無言のまま歩を進める。 


 そして元々スィータン達が座っていた席に戻ってくると、スィータンは匂いの元凶であるサイドにもっと奥に座れとにらみを利かせる。


 無言の圧力により、サイドは机の奥に座ると、スィータンはその隣にナギィを配置し、そしてその隣に自分が座ったのだ。つまりはサイド、ナギイ、スィータンの順番に座っている。


 そしておもむろに隣のナギィの匂いを再び嗅ぎ、納得したかのようにうんうんと首を縦に振っていた。


 一方、何がなんだかわからないまま席を移動させられて座らされたナギィだったが、ここにきてようやくスィータンの行動の理由に思い当たる。


「お、おいお前、汗臭いぞ!? あのままシャワーも浴びずに来たのか? それで女の子の隣に座ったら駄目だろ!」


「な、なにぃ?」


 思わず強く言ってしまった。

 この匂い、ナギィにしてはそれなりに耐えられるとはいえ、お嬢様であるスィータンにしたら苦痛だったに違いない。

 そんな辛い思いをスィータンにさせたという事が、普段温厚な彼にこう言わしめたのだ。


 ナギィの言葉に、トールとショーンも慌てて自分の匂いを確かめ始める。


「匂うんだって」

「ヤダわね」

「もうちょっと離れよっと」


 そんな様子に教室がざわめき始める。

 特に女子たちは清潔さには敏感で、3人を汚いものを見るような目で見ている。


「く、くそっ! 覚えてやがれ!」


 注目の的となったサイドは顔を真っ赤にして教室を飛び出していった。

 そして、その後を追うようにトールとショーンも逃げ出していった。


 彼らに辱めを与えるためではなかったのだが、結果としてそうなってしまった。


 言いすぎてしまった、と思い、自分の行為を反省しながら着席したナギィ。

 ふと右の席に座っていたスィータンに目を向けてみる。

 相変わらず前髪で目は隠れていて、表情をうかがい知ることは難しい。でも、他の人には分からないだろうが、ナギィは長年の経験から彼女がとても嬉しそうな表情をしていることを感じ取った。


 そして次の授業が始まった。

 そこには授業中に何度かスィータンに顔を寄せられて匂いをかがれるたびに、恥ずかしがっているナギィの姿があった。


 ◆◆◆


 夜。女子寮のスィータンの部屋のベッドの上。

 スィータンはいつも通り、ごろんとベッドに寝転がり、精霊フラと会話していた。


 《なんかね、ナギィ君からいい匂いがしたの》


 《匂い? フラは匂いとか分かんないよ精霊だから》


 《私も今まで気づかなかったけど、今日急に気づいたの》


 《ふーん? よくわからないや》


 《うーん、なんかね、匂いの流れ、みたいなのが分かるようになって、いい匂いと悪い匂いがあるみたいで、よくわからないんだけど、ナギィ君はいい匂い。他にも、いい匂いの子がいる感じがしたんだけど、どの子かは分からなかった》


 どうしてかな、と首をかしげるスィータン。


 彼女自身は分かっていないが、匂いで相手の善悪やら好意やらを嗅ぎ分ける能力を発現したのだ。スィータンの好きな匂いがする人は、スィータンにとって良い結果をもたらしてくれる人。


 そんな力を得たとはつゆ知らずのスィータン。


 この日からスィータンは、常に自分の隣にナギィを配置するようになった。

 理由の第一は突如匂うようになってしまったサイドからの匂い除け。


 机に座る時はもちろん、歩いて移動するときも帰る時も。

 護衛と称して四六時中総番親衛隊が着いてくるので、結果としてずっとだ。


 それだけ長時間拘束していたら普通は迷惑なはずだが、ナギィがそんなことを思うはずもない。そして、彼も自分がサイドからの匂い除けであるとは分かっている。

 どんな理由であれ彼にとってスィータンの隣にいられることは嬉しいことだから。


 そんな風に過ごしているうちに、ナギィが副総番ではないかとのうわさが広まっていた。


「総番が直々に指名したんだってよ」

「確かに、いつも隣にいるし、間違いないわね」

「総番に次ぐ実力の持ち主か。どれくらい強いんだろうな」

「これでスィータン総番の統治も安泰だな」


 そんな噂はまだナギィの耳には入らないのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ボコボコにされたナギィ君でしたが、逆転大勝利!

スィータンのためなら口が悪くなってしまうのもしかたないですよね。男の子ですし。

さてさて、急に変わった力を得たスィータン。

まさかの主人公ムーブなのか。

次回、スィータンは久しぶりに実家に帰ります。

お楽しみに!

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