028 スィータン、鼻を鳴らす 前編
ナギィが校舎裏で親衛隊の3人にボコボコにされた。
そんな事が行われているとは、つゆ知らずのスィータン。
今日はあの3人組がいないのでのびのびと授業を受けられていいな、などと思っていた所……ナギィを打ち負かして3人組が戻ってきたのを見て、眉間にしわを寄せてしまった。
実の所、スィータンはこの3人組をそれほど良く思ってはいない。
だけど、委員会だから仕方ないと思っている。
未だスィータンは『総番』を委員会だと思っているのだ。
他の委員会にはたくさんのメンバーがいるのを知っている。だから『総番』にも自分以外にメンバーがいるのだと思っていて、メンバーが彼らなのだと勘違いしているのだ。
「総番、そちらにおられましたか!」
三人はスィータンを見つけると定位置に陣取る。スィータンの左右と背後だ。
幸いスィータンの周りに他の生徒は座っておらず、健全に席に座ることが出来た3人組。
そんな3人組の様子を見て、スィータンは思わず鼻を手で覆った。
匂うのだ。
それもそのはず、彼らは汗だくであり、男の匂いがするのだ。
武家の娘ではないスィータンはそんな匂いに慣れてはいない。
特に左に座っている太っちょのサイドの匂いは厳しいものがあった。
「あ、総番、どうしたんでやんす?」
スィータンは立ち上がった。
そして右にいるショーンを見下ろす。もちろん無言でだ。
この教室は一人一人の机が別れているのではなく、固定された長机の教室。机の真ん中辺りに座っている人は、映画館のように外側の人がどかなければ移動することができない。
ショーンはスィータンが外に移動するのだと思い、立ち上がり席を空けた。
隣の席が空いて通行可能になったスィータン。
だが、彼女の歩みは長く続くことは無く、自分の一つ隣の席であるショーンが座っていた席に移動すると、ストンと着席したのだ。
スィータンは別に外に出たかったわけではなく、真横に座るサイドから距離を取りたくて、一つ席を空けたのだ。
ショーンは己の見立てが外れていたのを恥じると共に、再びスィータンの隣に座った。
そして残念なことに、匂いの元凶であるサイドも立ち上がると、わざわざ緩衝地帯としてスィータンが設けた彼女の隣の席に座りなおしたのだ。
「!!」
スィータンは驚愕した。先ほどと何も変わらないことに。
そして左からのスメルがスィータンの鼻を直撃した時、彼女は息を吸う事を止めて立ち上がった。
「そ、総番?」
何故かまた立ち上がられて睨まれている。ショーンは理由が分からなかった。
総番はお怒りなのか。前髪で隠れているため表情を窺いにくいこともあるが、基本的には3人はスィータンの事を恐れ敬っている。
そんなショーンはまた立ち上がる。
そしてスィータンは一個横の席に座る。
それを見た親衛隊は、またスィータンの隣の席に座る。
ループのように、匂う→立ち上がる→隣の席に座る→親衛隊も移動する→匂う、と一連の行動が繰り返し行われてしまう。
それを何度も繰り返した結果……とうとうスィータンは机の端まで来た。
もはや右隣にショーンの座る席は無い。
そして、これ以上スィータンが移動できる席も無い。
わなわなと振るえるスィータン。もはやこれまで、と覚悟を決めた。
とはいえ息を止めたままでいることもできない。
スィータンは首を匂う方とは逆側に向けて大きく息を吸いこんだ。
「!?」
その瞬間、スィータンは辺りを見渡し始めた。
そして、立ち上がると、ツカツカと歩を進め、一人の男子の前で立ち止まる。
「え、スィータンさん?」
それは先ほど親衛隊の3人にボロボロにやられたナギィ。
彼にしてみれば、突如好きな女の子が目の前に来たのだ。それなりに長く彼女の事を見ているが、スィータンが自分の前にくることはあまりない。
つまりはドギマギしてしまう。
そんなナギイを見て、スィータンは何を思ったのか、ナギィの体に顔を近づけたのだ。
「す、スィータンさん!?」
スィータンの顔はナギィの肩のあたりで止まる。
密着するという距離ではないが、そこはナギィのパーソナルスペースの内側。
急にそんなアクションを起こされたため、何がどうなっているのかと混乱するナギィ。
そんなナギィの様子を気に留めもせず、スィータンは目を閉じて……スンスンと鼻を鳴らして彼の匂いを嗅いだのだ。
お読みいただきありがとうございます。
長くなったので前後編に分けました。引き続き後編をお楽しみください。




