027 ナギィと親衛隊 後編
「なにぃ? 親衛隊に入りたい? お前がぁ?」
「ケッ、お前みてえなモヤシが役に立つわけないべ」
「帰れ帰れ。総番の名を汚すことになるでやんす!」
翌日、意を決して入隊を決めたナギィだったが、3人の答えは取り付く島もないものだった。
確かに自分は武闘派ではなく頭脳派。彼らの言っていることも一理あるとナギイも思う。
だけど、三人組の背の低いキャラ、ショーンの言葉にはすごく引っかかった。
「今、総番の名を汚すって言ったな?」
昨日のナギィとは違う、強く芯のある声。
目も泳いではいない。じっとショーンの目を見ている。
「ああ、言ったでやんす。お前のような弱そうな奴が親衛隊だと総番の強さも疑われるでやんすよ」
「じゃあ、お前たちは名を汚してないっていうのか?」
「もちろんだ。俺たちはお前と違って強い。かつてはトール、サイド、ショーンの三位一体戦法でワルーガの猛攻を防ぎ切ったこともある」
3人のリーダー格であるトールが腕を組み、そう答えた。
3対1で引き分けて自慢になるのか、とナギィ君は思ったが、強さは問題ではないのだ。強さは。
ナギィの頭脳が回転し、次に来る言葉を紡ぎ出していく。
「お前たちはスィータンさんの事を何も分かっちゃいない」
「なんだと?」
「スィータンさんが目指すのは可憐な強さ。踊るような体捌きで優雅に華麗に相手を仕留める。そこには憎しみも偏見も横暴さも無い。だけどお前たちはどうだ? そんなスィータンさんの親衛隊として華麗に振舞えているのか? さもスィータンさんが指示しているかのように、相手を威圧するだけ威圧していて、それこそスィータンさんの名前を汚してるんじゃないのか?」
かなりのでっち上げである。
ナギィは実際にスィータンがワルーガを仕留めた時の事を見てはいない。
周囲の噂と脳内スィータン(美化している)から導き出した答えなのだが、自分で言っていても何を言っているか分かっていない。
ただ勢いだけで押し切ろうとした。
さすが頭脳派。
「な、なにをぅ!」
そして、頭脳派の作戦に引っかかる、ちょろい親衛隊たち。
そこをさらに畳みかけていくナギィ。
「だったら試してあげるよ。お前たちがスィータンさんの親衛隊にふさわしいのかどうか」
もはや文脈も繋がりも何もない。
そのように見えるが、実はナギイはそうなるように計算してもいる。
「面白い!」
そしてナギィの思惑通り食いついてきた。
「トール! 本気だべか!」
「なに、こいつの言う事は一理ある。俺たちとて総番のお目こぼしで傍にいさせてもらっているに過ぎない」
「そうでやんす。俺たちだってこれからもっと強くならなければならないでやんす」
「確かにそうだべな」
「それで? どうやって試すっていうんだ?」
あちらさんは意見のまとまりを見たようなので、そのままナギイは言葉を紡いでいく。
「僕は一人。君たちは三人。さすがに三人いっぺんには無理だから一人ずつ。
やってもらうのは僕を捕まえることだ」
「それで何が分かるっていうんだべか」
「僕だって男だ。好きな女の子を守るために訓練だってしてる。見せてあげるよ。力だけが強さじゃないってところを」
言い切った。
さも当然のように言い切ったナギィ。
「面白い。まずは俺から行こう」
3人の中で一番背の高いトールだ。
彼は背が高い分、足も手も長い。リーチという意味では圧倒的に分が悪い。
「さあ、こい!」
そう言うと、ナギィは右手を真っ直ぐに前に出し、左手は肘を引いて右手と並行を維持する奇妙なポーズを取った。
「ふん、ほえ面かくなよ?」
「そう言うところだよ。スィータンさんにふさわしくないのは」
「ほざけ!」
トールがナギィ君に跳びかかる。完全に顔面を狙ったパンチを繰り出していて、捕まえるというかボコってやるという感情がにじみ出ている。
だが、ナギィは体をゆっくり動かすだけで、トールの拳をかわして見せた。
「やるじゃねえか、ならこれはどうだ!」
長いリーチを生かした回し蹴り。だが今度も伸ばした右手をうまく使って攻撃をいなし、クルリと回転したかのようにして攻撃を避け切った。
そして、その後も何度も何度も攻撃を繰り出したトールだったが、攻撃が当たることはなく――
「トール、交代だっぺ。今度は俺がやるべ」
3人の中で一番横に広い、つまりは太っているサイドが挑戦することになる。
だが、結果は同じ。
トールよりもリーチが短く、身のこなしが遅いサイドにナギィが捕まえられることも無く……順番が3人目のショーンに移った。
「はあっ、はあっ」
さすがのナギィ君も息が切れている。
体力を消耗しない様に計算して動いていたものの、頭脳派である彼の基礎体力は脳筋である彼ら親衛隊と比べるまでもない。
「悪く思うなでやんす」
3人の中で一番スピードのあるショーンが最後に残っていたのは不運でもある。
素早い手刀がナギィをかすめるが――
「な、なんで当たらないんでやんす!?」
意外にも結果は同じものだった。
「ええい、3人でやるぞ!」
「だどもよ、トール」
「馬鹿にされたままで終われるわけがない」
トールもサイドもかなりの汗をかくほど動いていた。
少し休んだからと言って、その汗が引くわけではない。
とはいえ、格下だと思ってるやつに負けたままで終われるわけもない。
(こうなるとは思ってたけどっ、やるしかない!)
それはナギィの予想の範疇だった。
とはいえ、ずっと動き続けているナギィ君はすでに体力の限界。心臓はバクバクと言っており、汗も滝のように流れている。
「死ねぇ!」
悪役のようなかけ声を上げて3人が一斉にナギィに飛びかかる。
相手の体幹の動きや視線から攻撃の軌道を読む。
ナギィの風変りな体勢は、相手の攻撃を誘い、その読みをより一層やりやすくするためのもの。
だが――
さすがに3人を相手にするのは難しい。
最初の一二発はかわすことが出来たナギィだったが、さすがに前後に挟まれて攻撃されたのではひとたまりもない。
瞬く間に掴まって地面に倒されてしまった。
「ど、どうだ。参ったかよ」
「ふうっ、ふうっ、大きな口ききやがったが、こんなもんだっぺよ」
「まあ3対1だったでやんすがね」
ナギイもそうだが、彼らも激しく全力で動いていたので吐き出す息も荒い。
「これで俺たちが総番の親衛隊にふさわしいって解っただろ。これに懲りたら二度と総番に近づくんじゃねえぞ」
そう言って、3人組は去って行った。
(駄目、だった……)
難しいことは理解していた。だけど男として勝負するしかなかった。
そして負けたのだ。
地面に伏せたまま、ナギィは腕で目を覆った。
その隙間から、汗なのか涙なのか区別がつかない液体がきらりと流れ落ちたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
男の子、ナギィ君の譲れない戦いでしたが、結果はこのとおり。
スィータンのようにうまくは行きませんでした。
次回もこの続き。
ようやく主人公であるスィータンが登場します。
お楽しみに!




