025 スィータン総番親衛隊
スィータンが総番となって数日後の事。
ここは男子禁制の女子寮。男子にとっては秘密の花園である。
女子寮と言ってもホテルのように大きな建物の中に部屋があるのではなく、アパート形式で通路は外に面している。
そんな女子寮の312号室。スィータンと同居人のアネファが生活している部屋である。
もうすぐしたら登校時間が始まるという時間帯。
そんな中、312号室の前には3人の男子生徒がいた。
一人は背が高く、一人は太り気味の体型であり、一人は背が低い。三者三様のその男子生徒の一人がコンコンコンと312号室のドアをノックしたのだ。
「はぁ~い」
部屋の中から間延びした口調の声が聞こえてきたかと思うと、ガチャリとドアを開いた。
中から現れたのは、3年生のお姉さん生徒アネファ。
ニコニコとした笑顔を崩さずに、どう見ても不審である3人を見つめてこう言った。
「キミたち、女子寮は男子が入っちゃ駄目ですよ。見なかったことにしてあげるから帰りなさい」
「お待ちください! 我々はスィータン総番の親衛隊。常にスィータン総番におつきし、身の安全を守るのが役目です」
「親衛隊? スィータンちゃんからは何も聞いていないわよ? あなた達、スィータンちゃんに許可をもらったの?」
「そ、それは、これからもらうところです! ですが、我々、トール、サイド、ショーンの3人はスィータン総番に忠誠を誓っております!」
「うーん、言い分は分かるけど、朝方に女子の部屋まで押しかけるなんて礼儀がなってないわよ。まずは女子寮から出なさい。それと、スィータンちゃんにちゃんと許可をもらいなさい。いいわね?」
「で、ですが」
「い い わ ね」
「「「はいっ!」」」
返事がそろった三人。
普段はぽやぽやお姉さんのアネファだが、怒らせると怖い。
今その片鱗を垣間見た3人は、これ以上押すことはできないと感じ取り、すごすごと退散していった。
そんな出来事があったとはつゆ知らずのスィータン。
制服に着替えて身だしなみを整えて、授業に向かうために女子寮を出発した。
いわゆる女子寮の範囲を抜けたところで、スィータンは3人の男子生徒を見かけた。
何故か三人が横一列になっていて、片膝を着いて恭しく首を垂れている。
その様子だけみると、明らかな不審者。
もちろんスィータンもそう思ったので、三人から距離を取って足早に去ろうとしたところ――
「スィータン総番、おはようございます! 我々は総番親衛隊! お供を許可いただきたい!」
急にしゃべりかけられたので、びくっと体を震わせてしまったスィータン。
「我々親衛隊はあなた様の元で、あなた様が学園を導くお手伝いをいたします!」
背の高い男子が腹の底から声を出してきた。
そんな事をされたので足を止めてしまったスィータンだったが……
残念ながら、スィータンには彼らが言っていることが理解できなかった。
そしてもちろんしゃべれないため返答もできない。
理解できたのは朝っぱらから厳つい男子3人に絡まれれているということだけ。
そんなよろしくないイベントを、やんごとなく回避しようとして……そのまま無言で彼らの横を通り過ぎていくスィータン。
彼らが総番と崇めるスィータン。
会うのは今日が初めてであるため、詳しい人となりを知らない。
なので、スィータン総番に対して無口で硬派であるという勝手なイメージを三人は抱いている。
その結果、スィータンの行動を無言の許可と受け取ってしまったのだ。
「おい、お前ら行くぞ。総番にお供するんだ」
三人は立ち上がるとタタタと駆け出して……スィータンの左右と後ろに陣取るように、共に歩いて教室へと向かった。
何故かついてきた3人のことを、気にしない様に、気にしない様に、と繰り返し心の中で思いながらスィータンは歩き続け……そして教室にたどり着く。
教室に入ったスィータンは空いている机へと座る。
すると先ほどまでと同じように、スィータンを取り囲むように、左右と後ろに3人が座る。
もちろんその光景は普通の者からすると異常に見える。
「お、おい、あれ見ろよ」
「ああ、スィータン総番がお供を連れているぞ。もしかしてあれが親衛隊じゃないのか?」
「とうとうスィータン総番が親衛隊を結成したのか。実は、いつになるか楽しみにしてたんだよな」
「ああ、俺もだ。親衛隊ができたのなら安泰だな。3年生の魔の手から守ってくれるに違いない」
誰もかれもが、親衛隊を認知していた。
総番は親衛隊を連れているもの。それが学園内での総番に対する認識。
もちろんスィータンは認知していない。
どうして三人の男子に囲まれているのか、まだ理解できていないのだ。
そしてもう一人。
(親衛隊? スィータンさんは許可したのか?)
学園時代からの知り合いであるナギィ君である。
彼はずっとスィータンの事を見てきた。だから座っているスィータンの様子を見ていて薄っすらと感じたのだ。
スィータンが戸惑っていることに。
それを感じ取ったナギィは座っているスィータンの席へと近づき――
「あの……スィータンさん」
心配してそう声をかけたのだが――
「なんだお前は! 軽々しく総番に話かけるんじゃねえぞ」
「そうでやんす。総番はお前みたいなやつは相手にしないでやんす」
「けつまくって帰えんな、だっぺ」
3人が次々と口にしたのだ。
ナギィは武闘派ではない。心優しく大人しい頭脳派。通常であればスィータンに声をかけるのだってためらわれるお年頃。
そんな彼が強い態度で出られたら、怯えるのは仕方がない。
「ぼ、僕はスィータンさんに話があって」
「お前はそうでも総番はそうじゃないでやんす」
「総番の邪魔をするのなら容赦しねえぞ」
「で、でも!」
「でももへったくれもあるか!」
「ちょっと面貸すっぺよ」
そう言って3人はナギィを連れて教室の外へと出て行ってしまった。
そんな様子を訳も分からず眺めていたスィータン。
脇を固めていた名も知らない男子たちに囲まれていた所をナギィが助けてくれたと思って、ナギィへの好感度が少し高まったのであった。
(お昼ご飯は何かな。デザートあるかな)
とはいえそれは、お昼ご飯のメニューが何なのかを考えるのに負けてしまう程度。
まだまだ色気より食い気の8歳なのであった。
お読みいただきありがとうございます。
総番活動(?)を開始した(された)スィータンちゃん。
総番が何なのか分かってない彼女に一体何が起こるのか。
次回、外に連れて行かれたナギィ君のお話。
お楽しみに!




