022 はじまりのまえ
――王立グランディーヌ学園中等部 男子寮のとある一室
バタンと勢いよく扉を開けてその部屋に入ってきた3年生は開口一番焦った様子でこう言った。
「おい、ナギィ! 大変だ。ワルーガが帰ってきちまった!」
「ワルーガ? 誰ですか?」
先輩の慌てた様子に動じることも無く、同室の1年生ナギィ・ロッドは読んでいた本を開いたまま、そう答えた。
「お前ら1年は知らないかもしれないが、あいつはヤバイやつなんだ。あのワルーガ・ノークは。暴力によって俺たち3年生を支配していたワルで、あいつに修道院送りにされた奴は数知れず。暴力沙汰が表に出て今は停学中だったはずなのに!」
「そうなんですね。気を付けます」
一通りの説明を聞いて、ナギィは読んでいた本に視線を戻した。
「気を付けます、じゃねーよ! なんで俺がこんなに慌ててると思ってるんだ。お前の女じゃないのかよ、スィータン・アルゲンは!」
「えっ!? スィータンさんに何かあったんですか!?」
ナギィは聞き返した。
彼とスィータンとはまだ何もなく、彼女でも婚約者でもないのだが、先輩の誤りを追求する以上にスィータンの身を案じたのだ。
「ワルーガの野郎、スィータン・アルゲンはどこだって言いながら学園を徘徊してるらしいんだ! ワルーガにボコボコにやられて倒れてたやつに直接聞いたから間違いない。ワルーガはスィータンを狙ってるんだ!」
「っ!」
「おい、ナギィ! 待てって!」
先輩の話を最後まで聞かずに、ナギィは部屋を飛び出した。
ワルーガという狂人がどんな奴かは知らない。だけど、自分が思いを寄せる女の子に危険が及ぶというのなら身をもって止めるのが男だ。
その思いに埋め尽くされた体が勝手に動き出したのだ。
「ナギィ! 待てよ!」
そしてその後を先輩が追う。
ナギィの様子から、必ずワルーガとぶつかるであろうことを分かってしまったからだ。
ナギィが怪我をするのは火を見るよりも明らか。そうなる前に止めなくてはいけないが、止めるべきなのかどうか。
その答えを出す暇は無かった。彼が答えを考えている間に最悪の事態に発展するだろうから。
◆◆◆
――リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン
授業の終了を告げる鐘の音が鳴る。
映画館のように後ろに行くにつれて階段のように上がっていく形状の大きな教室。
授業を終えた教師が部屋を出て、生徒たちは終わりを喜びざわめき出す。
3年生と1年生の合同授業が行われていたその階段教室にはスィータンもいた。
後ろの方の高い位置にある席でひっそりと授業を受けており、今まさに部屋に帰ろうとするところだ。
《通れない……》
授業の机は長机でそこに複数の椅子が置かれている。
通路のすぐ隣の席に座っていればすぐにでも帰れたのだが、通路のところでキラキラ女子の先輩たちが話をしていて机から出る道が塞がってしまっている。
《あー、逆も出れないか。机を跨げば?》
精霊フラが返事を返す。
逆側に出ようにも、逆側にはまだ本を広げて座っている生徒がいる。フラの言う通り、またいで前の列に行くしかない状態だ。
《もう、そんなことできるわけないじゃない》
《じゃあ、そこの女の子たちにどいてって言えばいい》
《それこそできるわけないじゃないの!》
もともとしゃべれないスィータンだが、そもそもキラキラの女子たちに話しかけるような勇気はない。
通りたい事を気づいてもらうために、近くで立ち止まって、その意図をもじもじとアピールするだけだ。
残念ながらキラキラ女子たちは話に夢中でスィータンの存在には気づいていない。
そんな中、明らかにガラの悪い3年生の男が教室へ入ってきたのだ。
お読みいただきありがとうございます。
とうとうワルーガとスィータンが邂逅する!
君はこの先の出来事をしっているか?
次回、「そして運命は変わった 前編」をお楽しみに!




