021 暴王の帰還
「ふん、戻ってきてやったぜ」
学園の校門で一人の男がそう独り言ちた。
金色のボタンが付いた黒色のジャケットを着るわけでもなく肩にかけて、着ているのは薄手のノースリーブシャツのみ。ジャケットと同じく黒いスラックスは履いているものの、足首の辺りは激しく擦り切れてボロボロになっている。
そんな青い目をした金髪の少年。
少年はそのまま校門をくぐり校舎の中へ消えて行った。
旧校舎にある小部屋。
事情によって使われなくなった校舎には近づく者も無く、人気も無い。
そのはずなのだが、それはある種の者たちにとっては都合がいい状態とも言える。
学園の教育に合わないもの、落ちこぼれたもの、家から見捨てられているもの等々。そんな不適合者たちが集まっているのがこの小部屋だ。
部屋の中には着崩した制服の男子たちがたむろしている。
学校の規則で禁じられている賭け事をやったり、持ち込んではいけない食べ物を持ち込んだり、ナイフで指と指の間を連続で突き刺す遊びをしている者もいる。
立派な紳士を目指すという学校の方針には興味が無く、やる気なく日々を生きている彼ら。事情は様々だが、浮かび上がることを諦め、地に這いつくばる事を選んだのだ。
そんな中、ガラリと小部屋のドアが勢いよく開いた。
「けっ、相変わらず辛気臭い奴らだぜ」
入ってくるなり悪態をつくのは、先ほど校門をくぐった少年。
部屋の中を一瞥するなりそう言ったのだ。
「わ、ワルーガ! お前、停学中じゃなかったのか!?」
「そ、そうだぜ! なんでここに!」
部屋の中の男たちがハチの巣をつついたように慌て出す。
「なんだ、気にしてくれたのか? お前らはそんな気持ちは持ち合わせてないって思ってたんだがな。まあ、気になるなら教えといてやるよ。停学は取り消された。今日から復帰ってわけだ。分かったらそこをどけよ」
たむろしている男たちを見下ろす位置に設置されている椅子。
そこは停学前にワルーガが陣取っていた場所。つまりはこの集まりのテッペンを意味する。
そこは空席ではなく、一人の男が座っていた。
ワルーガはギロリとそいつを睨みつけて言ったのだ。そこをどけと。
「急に帰って来て偉そうな口を叩くな。今はもうここは俺の場所だ」
「ほう。あんなに俺に怯えていたクムリーが、えらくなったもんだなぁ」
「ほざけ。ここにお前の場所は無い。素直に帰るなら見逃してやるよ」
クイッと親指を出口へ向けるクムリー。
「ククク、能書きはいい。めんどくさいからな。ほら、さっさとかかってこいよ。タイマンを張る気概も無いんだろ。いいんだぜ? 全員でこいよ」
「言いやがったな! お前ら、やっちまえ!」
「そ、そうは言ってもな、相手はワルーガなんだぜ?」
「馬鹿野郎! 相手は一人、こっちは10人以上。何をビビってんだよ!」
怖気づいて動かない手下を怒鳴り散らすクムリー。
それでも手下は顔を見合わせるばかりで積極的に動こうとはしない。
「程度が知れるな。俺がこええやつは引っ込んでろ。時間の無駄だ。それよりもクムリー、お前はお高いところにふんぞり返って偉そうに言うだけか?」
「くっ! お前ら、あのことを先公にチクるぞ? やれ! こいつをやっちまえ!」
ワルーガをぐるりと囲む様に男子たちが陣取る。
どんな秘密を握られているのかは分からないが、戦いたくないと思うワルーガと戦わざるを得ない程の効果はあるようだ。
「みんなまとめてやってやるよ。来なっ!」
そんな状況にニヤリと笑うワルーガ。
男子たちをあざ笑うかのように一咆えする。
「ワ、ワルーガ覚悟ぉぉぉぉ!」
一人のあげた雄たけびを合図に一斉に飛びかかる男子たち。
だが――
「お前らが束になったところで俺に敵うかよ」
まるで後ろに目でもついているかのように、後方からの襲撃者の腹に一撃を入れ、前から迫る男子の顔にパンチをぶち込み、一歩踏み込めなかったやつらに容赦のない蹴りを入れる。
まるで的宛ての人形のように、一人また一人と倒れて行って、時間もかからずに最後の一人が崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!」
「ちょっと会わない間に俺の力を忘れちまったのか? なぁ、クムリー」
「ふ、ふざけるな! 俺だってやれるんだ! お前がいない間に取得したこのスキル、月華陣をくらいやがれっ!」
高い場所に位置する椅子から跳び上がるクムリー。
「ほぅ。スキルの取得は高等部に上がってからだって聞くが」
「うはははは、お前はもうおしまいだ!」
クムリーの体が光のオーラのようなものに包まれる。身体能力を何倍にも上げるオーラを纏うスキルだ。
「馬鹿が! いくら能力が上がろうとも、動きが素人だぜ!」
飛びかかってきたクムリーの懐に入り込み、ボディにキツイカウンターを食らわせた。
「ぐ、はっ」
それ以上クムリーはしゃべることも動くこともなくなった。
「ちっ。ただ様子を見に来ただけなのに、無駄な時間を食っちまったぜ。お前らの相手をするために学園に戻ってきたわけじゃねーんだ」
ワルーガは自分のジャケットを拾い上げると、倒れた男子たちに背を向ける。
「……さて、待ってろよ、スィータン・アルゲン」
ワルーガはそう独り言ちると、その小部屋を後にしたのだった。
お読みいただきありがとうございます!
突如現れた、どこかで聞き覚えのある名前の悪漢。
誰なんだ彼は! という人は一話から読み返すとすぐに分かりますね。
さてさて、我らが主人公スィータンちゃんの名前を口にした彼。
いったい彼は何を考えているのか!
というところで毎日更新は終わります!
このあとは不定期更新になります。
とりあえず皆様方にはここいらで一息入れていただいて、感想、ブクマ、評価★、をよろしくお願いいたします!
とても応援いただけると更新がはかどると思われます!(他人事のように言う
次回「はじまりのまえ」をお楽しみに!




