019 なんかすげえやつ 前編
時間は少し遡り、スィータンがシルキーちゃんに陥れられて部屋をチェンジさせられる前のこと。
「ここ、皆さん分かりますか?」
授業中である。
今は歴史の授業。この国の歴史を学んでいるところだ。
1年生の最初の授業であり、内容は簡単なもの。ここまでの先生の話を聞いていれば問題なく答えられるだろう。
「それじゃあ、誰かに答えてもらいましょうか。どうですか?」
歴史の先生が説明を止めて教室の中を見回す。
自ら発言を促すタイプの先生のようだ。
もちろん自主的な生徒がいれば手が上がり何も問題ない。
だけど今は中等部になってすぐ。初等部からの人たちは大体クラスメイトの人となりを知っているけど、外から入学している人たちはそうではない。
つまりお互いに様子を見あっている状態。だれが自主的で、誰がそうでないかを計っている状態だ。つまりは手など上がらない。
そうなると先生は生徒を当てなければならない。
「では、あなた」
そして不幸にもその犠牲になったのは、我らが主人公のスィータンであった。
スィータンはガタリと慌てた様子で立ち上がった。
「答えは何ですか?」
先生が問いに対する答えを求める。
だが、スィータンはそれに答えない。
5秒、10秒と沈黙が続く。
ざわざわと教室がし出す。
それもそのはず、先生が出した問題は簡単なものだ。日本史で言うと中国から銅銭を輸入して使っていた、というのと同じくらいの。
「あいつ、もしかして分からないのかな」
「ぷっ、大丈夫か頭」
「外から来たヤツだから程度が知れてるな」
いつまでも答えないスィータンに、クラスメイト達がひそひそ話を始める。
残念ながらこのクラスメイト達はスィータンがしゃべれないことを知らない。そして不幸なことに、この先生もスィータンがしゃべれない事を知らなかったのだ。
「どうですか? 分からないのですか? 今説明したところですよね?」
助け船を出すどころか、話を聞いていなかったのかと言わんばかりの圧をかけてくる先生。
そんな圧をうけてスィータンはアワアワと慌てだす。
慌てるスィータンの様子を見て、先生がこの子は自分の話を聞いていなかったのだという認識をして、
「はーっ、そんなに先生の話は面白くありませんでしたか?」
大げさにため息をついた。
それをみてアワアワしていたスィータンはさらに怯えてしまうが――
突然、何かを閃いたかのようにタタタと席から駆け出して、
教室の一番前にある黒板に行くと、
チョークを手に取って……
サラサラと黒板に答えを書き始めたのだ。
「えっ!?」
その行為に教室内の全員が驚きを隠せなかった。
スィータンが書いた答えはもちろん合っている。それぐらい答えられて当然の難易度だ。
「あ、あなた、文字が書けるのね……」
先生が驚いているのも無理はない。
皆は、急に走り出したスィータンの奇行に驚いたのではなく、彼女が黒板に文字を書いたということに驚いているのだ。
驚いているのは先生だけではない。
「おい、あれ、なんて書いてるんだ?」
「馬鹿野郎、習ってもいないのに読めるかよ」
教室の中の生徒のほとんどがスィータンの書いた文字を読めていないのだ。
手紙のやり取りを行うことの多い貴族にとって読み書きは必須。さりとて、表面的なマナーよりは重要度が落ちるため、5歳から8歳の初等教育では教えずに、9歳からの中等教育で読み書きを教える。
つまり、まだ彼らは文字の読み書きを教わっても覚えてもいない。
そんな中でスィータンは黒板に文字を書いて見せた。
先生が驚くのも無理はない。
ご存じのとおりスィータンは幼い頃から本を読み続けている。
本を読むというのはもちろん言葉が読める前提。
もちろん誰一人としてスィータンに言葉を教えてはくれなかったが、本を読むために独学で勉強して、すでに5歳のころには読み書きができるようになっていた。
「バルシュム1世がガリニャルドを建国し、建国王と呼ばれた。はいその通りですね。素晴らしいです。満点ですよ」
なでりなでり。
普段からお堅いことで有名な先生。
その先生が、あまりの出来事をしたスィータンの頭を笑顔で撫でたのだ。
「あいつすげぇやつだな……」
「あぁ。髪の毛で目が隠れてて陰気臭そうなやつだけど、すげえやつだ」
――リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン
授業終了の鐘の音が鳴る。
授業を終えた先生が去って行くのはもちろんのことだが、注目を浴びてしまったスィータンも逃げるように教室を後にしていた。
「さっきの子、誰だか知らないけどすごかったな」
「ああ」
「何言ってるんだよ、あれくらい俺だってできるぜ」
もちろんごくまれに家庭の事情で文字教育をされている場合もある。この男子もその類で、先ほどスィータンの代わりに当てられていたとしても同じことができたのだろう。
「多分違うよ」
その会話に大人しそうな女子が入っていった。
「違うってどういうことだよ」
「あの子はもっとすごいの。だってこの前――」
そう言うと女の子は話し出した。
先ほどの子、スィータンに出会った時の事を。
お読みいただきありがとうございます!
銅銭を中国から輸入して使っていたことが簡単かどうかは置いといて、
スィータンは文字で表現することを覚えた!
これからはホワイトボードを持ち歩けば解決ですね!(持ち歩かない
次回、後編。いったい何が待ち受けているのか。
お楽しみに!




