017 おねえさんとの相部屋 後編
翌朝。スィータンが目を覚ましたらハンザの姿は無かった。
どこに行ったのかは少しは気になるが、よく眠れてスッキリしたスィータンはそのまま一日を始めることにした。
またその日の夜。
スィータンはハンザのベッドに潜り込み……ぐっすりと眠った。
またまた朝起きるとハンザはいなくなっており、日中も特段「人のベッドに入ってくるな」と怒られることもなかった。
そんな夜が数日続いたある日のこと。
「あらあらあら、どうしたのハンザちゃん。そんなに目にクマを作って」
「どうしたもこうしたもあるかよ。頼むアネファ! アタシと部屋を代わってくれ!」
人気のない場所で、ハンザとアネファお姉さんが密会していた。
「どういうこと?」
「理由は聞かないでくれ! 頼む! アタシとお前とのよしみじゃねーか!」
(言えるかよ。このアタシが同居人と合わねえとか)
実はハンザは毎夜毎夜スィータンがベッドに潜り込んでくることに参っていた。
豪胆な性格のハンザもスィータンに抱き着かれては目を覚まさないわけはない。
ぎゅっと抱き着かれたことで目をさましてイラッとしたので、最初はその手を引きはがそうとしたのだが……思ったよりぎゅっとしがみつかれていたのでうまくいかず。
最終手段としてスィータンを起こしてどけようとしたのだが……何をやってもスィータンは全く目を覚まさなかった。
(それだけじゃねえ)
ぎゅっとしがみつかれているだけならまだ耐えられたかもしれない。だがそれだけでは無かったのだ。
スィータンは無意識のうちにハンザの胸に顔をうずめて、ちゅうちゅうと吸い始めるのだ。
(あんなことをされて寝れるかよ!)
朝方になるとスィータンの拘束は緩み、その隙にハンザはベッドを出てシャワーへと向かう。
さすがに胸を吸うなと直接言うのははばかられるため、遠回しに吸うのをやめろと言ってみたが――
(あいつ、きょとんとした顔してやんの)
身に覚えのない事を言われているのと、ハンザに対する怯えもある。それに、もともと声の出ないスィータンなのでそうなってしまうのも止む無しなのだが、彼女の様子をハンザはそう捉えていた。
「頼む! アネファ」
顔の前で両掌をくっつけて必死の形相のハンザ。
「あらあらあら。あなたがそこまで言うのは珍しいわね。わかったわ。部屋を代わってあげる。でも、条件があるわ。もちろん私の同居人のことよ。シルキーちゃんと仲良くすること」
「わかったわかった! それでいいから」
こうしてハンザとアネファは部屋を交代した。
◆◆◆
「またよろしくね、スィータンちゃん」
312号室にやってきたアネファにスィータンは目を丸くしていた。
そんな愛らしい顔を見せる後輩を見ながらアネファは思っていた。
(また一緒に寝られるわね。うふふ)
実はアネファもスィータンの寝相の事は知っていたのだ。
スィータンがそんな寝相になってしまったのもアネファが原因なのだが、それはそれ。
アネファはハンザ程胸が弱いわけではないので、包容力を持って受け入れているのだ。
もちろん何も感じないわけではない。日によっては朝からシャワーが必要な時もあるが、それはそれ。
なによりスィータンの事を可愛く思っているのだ。
ぽかんとしているスィータンを連れて部屋の中に入り、さっそく膝の上に乗せて持参したお菓子でお茶会を開くのであった。
◆◆◆
アネファとスィータンが元々いた168号室。
「おい、今日からアタシがお前のペアだ。いいか? アタシはアネファとは違う、雑用はお前が全部やれ。あとしゃべるな、話しかけるな」
「な、な、な、な、なんでぇ~~~~~~~~~!」
「おい、言った傍からしゃべってんじゃねーぞ!」
シルキーちゃんは因果応報でハンザと同室に戻ってしまった。
(やっばい! せっかくあの田舎者に押し付けたのに!)
このままでは学園生活が破滅すると思ったシルキーちゃん。
この部屋から逃げ出して、また学園外のホテル生活に戻ろうと抜き足差し足で、部屋を出ようとするが……ピラリと一枚の紙を落としてしまった。
(あああああ!)
その紙は突如吹き込んだ風にあおられて、ベッドで寝ているハンザの顔の上に落ち――
「ん? なんだぁ?」
顔の上に落ちてきたものの正体を探るハンザだったが、あることに気づいた。
「てめぇ、アタシの元の部屋の1年じゃねえか……」
その紙は、シルキーちゃんの部屋割りを知らせる学園からの通知。
でかでかと部屋名と同室の先輩の名前が記載されていたのだ。
「てことはだ。てめえがアタシのパシリから逃げた挙句、あいつをアタシに送り込んできやがったってわけかい。覚悟はできてるんだろうな?」
「ひえぇぇぇぇぇぇぇ」
鬼の形相で立つハンザの怒気に腰を抜かして、シルキーちゃんはその場にへたり込んでしまう。
「怯えるなよ。仲良くしようぜ、な?」
ガタガタと振るえる後輩の前まで歩を進めて、しゃがんで視線を合わせ、怯えた顔の後輩の顎に手を触れて、ニコリと笑顔をプレゼントするハンザだった。
◆◆◆
「お前聞いたか? あのアネファさんに気に入られた外からの1年女子がいるらしいぜ」
「俺が聞いた話だと、あのハンザさんにも一目置かれてるって聞いたぜ? 同室だと争いが耐えなくなるからハンザさんが身を引いたって」
「まじかよ! いったいどんな奴なんだろうな。ハンザさんと戦えるくらいなんだ、ムキムキのアマゾネスに違いないぜ」
「いやぁ、アネファさんが猫かわいがりするくらいだから、外見は天使なんじゃないか?」
「天使の姿をした悪魔ってことかよ……」
「おっかねえ。今年の1年女子には要注意だな」
「名前は確か――」
悪名高いハンザ・ヤクシャが部屋を代わった。
その噂は静かに学園に広まった。
その相手、スィータン・アルゲンの名は静かに学園に広まって行くのであった。
お読みいただきありがとうございます。
このお話は全年齢対象です!
さてさて、次回はとある男子生徒のお話となります。
お楽しみに!




