016 おねえさんとの相部屋 中編
王立グランディーヌ学園の寮は部屋の変更が可能となっている。その条件は変更したい生徒と変更先の生徒が同意すること。二人の同意で変更申請を行う事で部屋のチェンジが可能になる仕組みだ。もちろん3年生と1年生の組み合わせは崩せないので同じ学年間だけ。二人の同意といっても同室の生徒の承諾は必要ない。
つまりは、退学を盾に部屋のチェンジを迫ったシルキー・ルザリンちゃんと、スィータンだけの申請で部屋の変更が決まってしまう。
「さ、早く出て行きなさい」
そう言われて荷物をまとめさせられたスィータン。
「あぁ、早くアネファお姉さまがお戻りにならないかしら」
シルキーちゃんはすでにアネファの事で頭がいっぱいのようである。
ピンク色の短いツインテールの髪をフリフリとしながら、うっとりするように目を瞑っている。褐色の肌からは健康的な運動系の雰囲気を醸し出しているのだが、当の本人は小悪魔系。見事にスィータンを騙しきったのだ。
「あんたまだ居たの? なに? あんたの部屋は312よ」
そう言われ、背中を押されて部屋を追い出されてしまった。
突然の事でアネファには何も言っていない。ちゃんと話をしないと、とスィータンは思いつつも、アネファの帰りが遅いことは朝に伝えられていて。シルキーちゃんがすでに部屋に居座ってしまったので、アネファが帰ってくるまで部屋にいることもできずに、スィータンはチェンジさせられた新しい自分の寝床へ向かうしかなかった。
◆◆◆
312号室。
新しいスィータンの部屋である。
アネファと同じく3年生が住んでいるはずである。だけどシルキーちゃんからは何の話も聞いていない。
人見知りのスィータンにとって、知らない人との交流はとても難しい。もちろんしゃべれないことがそれに一役買ってしまっていることは間違いない。
それゆえに、なかなか部屋へと入ることが出来ないスィータン。
そんな荷物を抱えたまま寮の部屋の前でたたずむ姿を不審そうに他の寮生が眺めては通り過ぎていくのを何回も繰り返していた。
向こうから開けてくれればどんなにいいことか、と思いつつも、そんな都合のいいことは起こっていない。
そしていつまでもこうしているわけには行かないと思い、意を決してドアをノックした。
――コンコンコン
そのノックに応対は無い。
――コンコンコン
もう一度ノックしてみるが何の音沙汰もない。
もしかして今は留守なのではないか。と言う考えがよぎって不安になるスィータン。
――コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
気が動転してドアを連打し続けてしまう。
「おいっ! うっせーぞ! 押し売りならよそでやれよ!」
ガチャリと扉が開いて、中から女の子が現れた。
くすんだ金色の髪。その髪は耳元あたりまでで短くそろえられている。
日焼けしたような褐色の肌。なぜか短い制服を着ており、腹が出ている都合上へそが丸出しであり、スカートもやたら短く、風が吹けば下着が見えそうなほどだ。
「ああん? なんだてめーは?」
そしてひたすらに口が悪い。学園には上級貴族が来ているはずなので、初等教育で貴族としての振る舞いは教え込まれているはずだ。
にも拘わらず、スィータンはギロリと睨まれている。
コミュニケーションを取る取らないの話しではなく、大きくてガラの悪い上級生に普通に怯えてしまうスィータン。
もちろん声など出ようはずもない。
「何とか言ってみろよコラ! まあこのアタシ、ハンザ・ヤクシャ様にびびってんじゃあしかたねーか。わかったらどっか行きな! あたしゃ寝てたんだ。それを邪魔しやがって」
格下の女に興味を無くしたのか、部屋に戻って寝ようとするハンザ。
「ああん?」
さっさとドアを閉めて二度寝するか、と思ったハンザだったが、ドアが閉まらなかったので振り返った。
なんと、ドアの隙間にはスィータンの足が差し込まれていたのだ。
荷物で両手がふさがっていたスィータンはとっさに足を出したのだ。
「テメエ……。そのリボンの色、1年か。もしかして、お前が同室のやつか?」
ふたたびギロリと睨まれたスィータンは、首を縦に振る。
「チッ、せっかく一人で気楽にやってたのによ。しかたねえ。追い出して先公にグチグチ言われるのもめんどくせーしな」
実は本来同室のシルキーはこの部屋にいたことは無く、ハンザと同室になったと分かったときからずっと学園外のホテルで寝泊まりしていたのだ。
なのでハンザはスィータンが最初から同室のやつだと思っている。
「お前のベッドはそっちだ。あと、雑用は全部お前がやれ。アタシに迷惑をかけるな。あと声も出すな。喋りかけるな。話はそれだけだ」
そう一方的に言うだけ言って、ベッドに寝転がってしまった。
スィータンの名前を聞くことも、同室として友好を深めることも無かった。
途中入学組のスィータンは知らないことだが、ハンザは学園内でも恐れられている子。
言葉遣いも態度も攻撃的で、お嬢様というには程遠い。淑女を目指すおしとやかお嬢様たちとは相いれないのだ。それでいて名の通った家の娘だというのだから質が悪い。
その影響力を無視できない理由から、今日も今日とて恐れられていると言うわけだ。
その夜の事。
スィータンは寝付けなかった。
ハンザが高圧的だという理由もあるが、単純に枕が変わったから寝付けないのだ。
ふと隣のベッドを見る。
そこには背中を向けて眠る同居人、ハンザの姿がある。
(一緒に寝てもらおう)
ふらふらと起き上がって、ハンザのベッドに近づくと、布団をめくってその中へと潜り込んだのだ。
昨日までアネファから甘々接待を受けていたスィータンは、夜は上級生が一緒に寝てくれるのが普通だと思っているのだ。
スィータンが自分のベッドに入って来てもハンザは目を覚まさないほどぐっすりと寝ている。
人の温もりを求めてスィータンはハンザに抱き着き……そしてぐっすりと眠った。
お読みいただきありがとうございます。
両手が荷物で塞がっているわりに、激しくドアのノックができるスィータン。
細かいことは気にしてはいけません。
次回をお楽しみに!




