014 王立グランディーヌ学園
王立グランディーヌ学園。
王都にある由緒正しい学校だ。上級の貴族たちが集まるその学校はこの国の最高峰の学校である。
スィータンはこの学園の中等部に入学することになった。
スィータンにとっては初めての王都。そして初めての中等学校となる。
そして初めてづくしであって、何が何だかわからないまま今に至る。
「あらあら。あらあらあら。あなたが今日から同室の子ね。よろしくね」
これから3年間住む部屋だと言われて連れていかれたそこ。
ドアを開けると出迎えてくれたのは笑顔の素敵なおねえさんだった。
スィータンは口をパクパクしながら、思いを声に出そうとするが……いままで通り声が出ることは無い。
「無理しなくていいのよ。スィータン・アルゲンちゃん。あなたの事は知っているわ。私はアネファ・リーラ。お姉ちゃんって呼んでいいのよ? あ、ごめんなさい。声は出ないのに呼んでっていうのはおかしいわね。お姉ちゃんって思ってね」
アネファと名乗ったのは同室の先輩。
ここは学園の女子寮。全国からやってくる生徒のために用意された寮の部屋だ。
中等校の寮は二人で1室。伝統的に新入生である1年生と最上級生である3年生がペアとなって住むことになっている。
学園生活ベテランの3年生が1年生を指導する形だ。
部屋の中に案内されたスィータンは、自分のベッドへと腰を下ろす。
ベッドは一人用。この部屋の中には二つのベッドと二つの机が置かれている。
アネファから簡単な説明を受け終わった後。
分からないことがあったらなんでも聞いてねと言われたものの、情報量が多くてスィータンはパンク状態。
小休止を兼ねて、ベッドに倒れ込んだというわけだ。
《いろいろ覚えることが多すぎて、よくわからないわ……》
《まあ休憩休憩。そんなに急ぐことはないよ》
《でも、アネファお姉ちゃんがずっと教えてくれてるのに》
《アネファだって言ってただろ。急には覚えられないから少しずつでいいって》
《そうだけど……》
ちらりと横に顔を向けるスィータン。
鼻歌を歌いながら上機嫌でお茶を入れているアネファの姿が見える。
子供のころは1年違っても圧倒的な差がある。3年違うアネファはスィータンと比べると背も高く、体もしっかりと成長しているお姉さん。胸の辺りに抱き着いたら柔らかい感触が返ってきそうだとスィータンはちらりと思った。
茶色の髪は肩の辺りまで伸びており内側にカールしている。
アネファの匂いなのだろうか、甘いような香りが微かに部屋の中には漂っている。
スィータンはまだそれを知覚できるほど気持ちが落ち着いてはいないが、その匂いを嫌いだと思う事はないだろう。
それからアネファが用意してくれたお茶を飲みながら世間話。
スィータンはしゃべれないので、一方的にアネファがしゃべっていただけだったが、それだけでもスィータンがアネファに心を許すには十分だった。
一服したあとは、アネファに連れられて学園の中を案内された。
明日から授業を受ける教室だとか、ご飯を食べるための食堂だとか。
今日は疲れているだろうということで最低限の場所を一緒に回って、そして食堂で夜ご飯を食べて、部屋へと戻ってきた。
「それじゃあスィータンちゃん、おやすみなさい」
夜も更けてきたころ。ランプの光を落として就寝となる。
今日はたくさんの事があった。
スィータンの頭の中は、今日の事を整理するので精一杯。こんなにたくさんの事を覚えられるのだろうか。ここで一人でやっていけるのだろうか。などとグルグルと頭の中を回りまくる。
それに知らないベッド。
自分用だとあてがわれたベッドは、実家の部屋にあるベッドよりも柔らかく寝心地はよい。だけど、今までと違うものであることには間違いない。
そのため、慣れないベッドでごろごろと眠れないまま寝返りをうちつづけていたのだ。
「スィータンちゃん、眠れないのかな?」
優しい声ではあったが急に声をかけられたので、ビクッとしてしまうスィータン。今ので完全に目が覚めてしまった。
「こっちに来る? 一緒に寝よう?」
アネファが笑顔でそう提案する。
8歳の子が親元を離れて一人で知らない土地にいるのだ。不安で寝れないこともあるだろう。
いつだってアネファの声は優しい。それでも今の声は一段と優しかった。
スィータンはアネファが寝るのを邪魔してしまったということを恐れているのかもしれない、とアネファは考えている。
だから、そんなことは無いんだよとばかりに、自らの布団を開いてスィータンを招く。
一人に慣れているスィータンではあるが、それは慣れ親しんだ場所でのこと。
知らない場所で知らないベッドでは、やはりそうもいかない。
スィータンはふらふらとアネファのベッドへと近づくと、招かれたとおり居場所をつくってくれた布団の中へとすっぽり収まる。
「ようこそおねえちゃんのベッドへ」
言葉はそれだけだった。あとは言葉は必要ない。優しくスィータンの頭をなでで、なでて。
スィータンの寂しさを紛らわそうとしてくれたのだ。
そんな歓待を受けたスィータンは、じきにすやすやと眠り始める。
その様子を見てアネファはほほ笑む。
きゅっと、短い手を伸ばしてアネファの体に抱き着いているスィータン。
ともすればアネファが眠るのには邪魔になる行為だが、そんなことは気にせずにアネファも眠りについたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
同室のお姉ちゃんは聖母!
お先は明るいね、スィータン。




