012 いつもの晩餐
アルゲン子爵家。
上位の貴族かと言われるとさすがにそうでもなく、中位か下位すれすれの位置にある地方貴族である。
地方貴族といっても領土を持っているわけではなく、役人として伯爵家の補佐としての意味合いが強い。
そんなアルゲン家の屋敷には、当主のラックス、後妻のココーク、その息子フォレーラ、そしてスィータンが住んでいる。長女であるピアラは王都の学校に行っているため、めったなことでは帰ってこない。
そんな4人は夕食をとっていた。
「ピアラ姉さま帰ってこないかなぁ……」
「フォレーラはピアラさんの事が大好きね」
「うん。ピアラ姉さまはキラキラしてて好き」
5歳となったスィータンの弟フォレーラがつぶやくと、母ココークがにこやかな笑顔でそれに答えた。
スィータンが学校に通う前の弟はまだ2歳。簡単な単語を放し、立って歩くくらいであった。
それから段々と自我が確立する上で、姉のピアラ大好き弟に育っていった。
「ピアラ姉さまとずっと一緒にいたいのに、家にいるのはワカメ見たいで暗いスィータン。スィータンじゃなくてピアラ姉さまがいればいいのに」
「そうね。何を考えているかわからないから気味が悪いわ。今だって家族の会話に入らずに一人で食事を続けているし……」
義理の母ココークの言葉に耳を貸さずに、スィータンは食事を続けている。
実際のところは必死にテーブルマナーを守ろうとして他の事まで気が回らないだけなのだが。
「聞いてるのかよ、不細工スィータン!」
弟に怒鳴られてようやく気付いたスィータン。驚いてビクリと体を震わせた瞬間に、スプーンを床に落としてしまった。
「ビビりだなスィータンは。ピアラ姉さまとは大違いだ。絶対に俺の近くに来ないでくれよな。同じ家だと思われたくないからな」
「本当よね。その前髪うっとうしいったら無いわ。アルゲン家の名を落とさないでちょうだい」
いつもの悪口が始まったと思って、スィータンは気にせず落ちたスプーンを拾おうとする。
「スィータン! 何故スプーンを拾おうとしているのだ! お前は学校で何を学んできたのだ!」
落ちたスプーンを自分で拾うのはマナーに反する。
本来であればメイドさんに伝えて拾ってもらい代わりのスプーンをもらわなければならないのだが、しゃべれないスィータンはそれが難しい。もちろんしゃべらなくても手を挙げてメイドさんを呼べばいいのだが、メイドさんはスィータンには協力的ではない。
つまりはスィータンは自分で何とかしなくてはならないので、スプーンを拾おうとしたのだが、そんな様子を見た父ラックスに激怒されてしまった。
「怒られてやんの。本当に愚図だなスィータンは。ピアラ姉さまを見習ったらどうなんだ?」
「スィータン。部屋に戻りなさい。これ以上お前に与える夕食は無い」
父がそう言うと、いつもどおりメイドがスィータンを引っ張っていき、部屋から退室させられる。
手を引っ張られて廊下を連れて行かれるスィータン。
無言のままメイドは歩を進め、スィータンの部屋にたどり着くと彼女を部屋に放り込んで、バタンと扉を閉めた……。
――ぼふん
スィータンはベッドにダイブした。
空腹の途中で食事を止められたのでお腹が悲鳴をあげている。
《フォレーラが話しかけなかったら失敗しなかったのに……》
《毎度毎度、フォレーラも飽きないよな》
《ピアラお姉さまが大好きだからね》
《会えなくて寂しいからってスィータンに当たらなくてもいいのにな》
《お腹が減った……》
《今日はいい調子だったのにな》
《昨日はメインディッシュまで行ったのに……》
《マナーはよくわからないけどさ、手で食べたらいいんじゃない? そしたらスプーンを落としたりしないよ》
《無理よ、無理無理! そんな事をしたらお父様に怒られるどころか、屋敷から追い出されてしまうわよ》
《じゃあ、きちんとやるしかないんじゃない?》
《自信がないわ》
《スィータンならできるって。ほら、デザートまで行けた日もあったじゃないか》
《あの時はすごかったわ。甘くておいしかったの》
《一回できたんだから、何回でもできるって》
《できるかな?》
《できるできる。何回でもデザート食べ放題だよ》
《デザート食べたい。私、頑張る!》
やる気を出したスィータンは、本棚からテーブルマナーの本を取り出して読み始めた。
実際の所、スィータンのテーブルマナーは悪いという訳ではない。
通常の環境であれば年相応として普通に完食できるものだ。通常であれば。
如何せん家庭環境が悪いので、スィータンの成功体験にはつながっておらず、自信を無くしてしまっているというわけだ。
そんな中でも、精霊フラの激励によって、スィータンは挫けずに前を向いて進んでいるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
小さかった弟が憎たらしく成長してしまいました。
今のアルゲン家の状態のお話でした。
次回をお楽しみに!




