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第34話 牙を剥く嫉妬と、敗北の記憶

1.ピッチの上の孤独と、甘い挑発


夕闇が迫る深海大学の広大なサッカーグラウンド。

全体練習が終わった後も、御影瞬は一人ピッチに残り、ゴールネットに向かって無言でフリーキックを蹴り込み続けていた。


ドスッ!パンッ!


強烈なカーブを描いたボールが、正確にゴールの四隅を打ち抜いていく。

圧倒的な足元の技術と戦術眼を持つ彼は、プロチームのスカウトからも注目される天才ミッドフィルダーだ。

その端正な顔立ちと独創的なプレーで、練習用グラウンドには常に多くのファンが訪れ声援が絶えない 。

だが、今の彼を取り巻く空気は、ファンすらも遠ざけるほどにトゲトゲしく、重く沈んでいた。


(……クソッ!

どいつもこいつもうるせえ)


瞬は、乱暴に前髪を掻き上げた。

彼の胸の奥で、鋭く尖った多面体のEgo Cubeがギリギリと嫌な音を立てて軋んでいる 。

インカレの公式アンバサダーとして現れた葛城奏音との対談。

あの蠱惑的こわくてきなヴァイオリニストは、瞬の心の奥底に隠していた最も痛い部分の一つでもある『嫉妬』の感情を、容赦なく抉り出し、増幅させていった。


『あの子、最近ずっと、あのキャリア支援室に足繁く通ってるわよね』


『彼女の心は、あの男のほうに向かおうとしている』


奏音の言葉が、呪いのように脳内でリフレインする。

幼馴染であり、互いに才能を認め合ってきた風見凛。

陸上という孤独な競技の中で張り詰めた糸のように生きてきた彼女が、最近、ひどく女らしい息遣いを見せるようになったことに、瞬は気づいていた。

その変化をもたらしたのが自分ではなく、あの新任のメンタルトレーナーであるという事実が、瞬のプライドをズタズタに引き裂いていた。


「……瞬」


不意に、背後から声をかけられた。

振り返ると、グラウンドのフェンスの脇に、凛が立っていた。


「……凛。

お前、まだ残ってたのか」


瞬はボールを足元に止め、ぶっきらぼうに応じた。

だが、次の瞬間、彼は息を呑んで立ち尽くした。

そこに立っていた凛は、いつもの「期待を背負った優等生のアスリート」ではなかった。


大学指定のウィンドブレーカーのジッパーは無造作に胸元まで下げられ、汗ばんだ鎖骨が艶めかしい影を作っている。

その瞳には、十九歳の女性としての色香と、飢えたような闘争本能が入り混じった、ゾクッとするほど美しい光が宿っていた。


「私、もう逃げないことにしたの」


凛は、フェンス越しに瞬を真っ直ぐに見つめた。


「誰かの期待に応えるためじゃない。

私が走りたいから走る。

……あなたに、私から目を離せなくしてやるから」


その声は、微かに熱を帯び、瞬の皮膚を直接撫で回すような生々しい響きを持っていた。

瞬の心臓が、早鐘のように打ち始める。

彼女が発する圧倒的な「女としての熱」に、男としての本能が激しく揺さぶられる。


「……お前、急にどうしたんだよ。

何かあったのか」


瞬が動揺を隠すように低く尋ねると、凛はフフッと艶やかに笑った。


「教えてもらったの。

神野太陽さんに。

……私の中にあるドロドロした欲求も、全部前へ進むエネルギーになるんだって」


その名前が出た瞬間だった。

瞬のEgo Cubeを覆っていた無数のトゲが、一斉に真っ黒な『嫉妬と闘争本能』の波形となって爆発した。


「……あの野郎ッ!」


瞬は、足元のボールをフェンスに向かって思い切り蹴り飛ばした。


ガシャァァンッ!!


金網が激しく鳴る。

凛が驚いて肩をすくめるのを横目に、瞬はグラウンドに置かれた自分のスポーツバッグを乱暴に掴み上げ、血走った目で校舎の方へと歩き出した。


「ちょっと、瞬!?

どこ行くの!」


「……決まってんだろ。

あの胡散臭い詐欺師の化けの皮を剥がしに行くんだよ!」


自分の欲求をごまかして斜に構えているから足元をすくわれる。

欲しいなら真っ直ぐに牙を剥け。

奏音の吹き込んだノイズが、瞬の理性を完全に焼き切っていた。



2.攻撃性を増すエゴ


バンッ!!!


特別キャリア支援室のドアが、蹴り破られんばかりの勢いで開かれた。


「……神野太陽!!」


瞬が怒鳴り込み、肩で荒い息を吐きながら部屋の真ん中に立ち塞がる。

その全身からは、周囲を威圧し、拒絶するような鋭いトゲだらけのEgo Cubeの波形が、目に見える黒いオーラとなって立ち昇っていた。

デスクに座っていた太陽は、驚く様子もなく、静かにタブレット端末を置いた。

彼はすでに、Ego Cube観測システムで瞬の異常な波形の接近を予測し、次なる対話のシミュレーションを進めていたのだ。


「いらっしゃい、御影くん。

……ずいぶんと息が上がっているね」


太陽は、立ち上がってウォーターサーバーからグラスに水を注ぎ、ソファのテーブルに置いた。

その穏やかで、決して相手の怒りに巻き込まれない大人の余裕が、瞬の苛立ちをさらに加速させる。


「ふざけんな。

俺はあんたのお茶会に付き合いに来たわけじゃねえ!」


瞬は、太陽の胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで距離を詰めた。


「あんた、凛に何をした!?

あいつにどんな洗脳まがいのことを吹き込んだんだ!」


「洗脳なんて人聞きの悪い。

僕はただ、彼女が自分自身を縛り付けていた重力から解放されるための、支援をしただけだよ」


太陽は、目を細め、瞬の鋭い視線を真っ直ぐに受け止めた。


「彼女は、自分の中に眠っていた『熱』を自覚した。

それだけだよ。

……御影くんが今そんなに激昂しているのは、僕が彼女に何かをしたからじゃない。

彼女が君よりも先に、自分の本能と向き合い、君の手の届かないところへ行ってしまうのが怖いからだろう?」


「……ッ、知ったような口を利くな!!」


図星を突かれた瞬は、ついに太陽のシャツの胸ぐらを両手で乱暴に掴み上げた。

プロからの注目を集めるアスリートの握力と、二十歳の若く狂暴な闘争本能。

だが、太陽は一切抵抗せず、掴みかかられた状態のまま、低く、静かな声で言葉を紡いだ。


「それが怖いのは、誰でも一緒の普通のことだよ」


「……あ?」


瞬は、太陽が抵抗も説教もしてこないことに、思わず動きを止めた。


「君は、ピッチの上で自分のパスに追いつけないチームメイトを見下しているわけじゃない。

もしかしたら『相手に合わせたパスを出すことは、妥協して手を抜くことだ』と怖がっているんじゃないか?」


太陽のEgo Cube「テッセラクト」は、瞬の瞳の奥、怒りの裏側に隠された『劣等感』を静かに観測していた。


「俺が、怖がってるだと……?!」


瞬の手に、ギリッと力が入る。


「学生の頃の僕も、それと同じような感情を抱いていたことがあるから、多少分かるんだ。

もちろん君と比べたら環境もレベルも違うけど、人の抱く感情は大体一緒だよ」


太陽は、掴まれた自分の胸ぐらにそっと手を添え、ゆっくりと、だが決して逆らえないほどの静かな力で、瞬の手を解きにかかり、瞬の手を優しく払い除けると、シワになったシャツの襟を整え、ゆっくりとソファに腰を下ろした。

そして、向かいの席に座るよう、瞬に視線で促す。

太陽の放つその異様なまでの「体温を伴った言葉」に、舌打ちをしながらもドサリとソファに座り込んだ。



3.自己開示が必要な理由


太陽は、ゆっくりと自分の過去を語り始めた。


「僕も学生の頃、結構本気でスポーツに取り組んでいて、それなりに才能はあったんだろう。

どんどん上達していくのが楽しかった。

その半面、他のチームメイトとの差は開いて行ったんだ。

もちろん全員が同じじゃないからね」


自分のことを語り始めた太陽の自己開示に興味を持ったのか、瞬は素直に聴き始めた。


「その頃の僕は、今の君と似たような感情を抱いていたと思う。

自分が抜き出た才能を持っていることで、周囲との差を感じる苛立ち。

それは多分、君が本来持っている優しさからきている感情だよ」


「優しさ」

その言葉を聞いた瞬は反射的に否定を始めた。


「俺は優しくなんてねえよ。

俺のイメージについて来れねえ奴らに常にイライラしてる。

だからパスを出したくないだけだ!」


「そうか……。

じゃあなぜチームメイトにそのことを言葉で伝えないんだい?」


「そりゃぁ……。

そんなこと言われたら誰でも気分悪くなるだろ……」


視線を横に逸らしながら、瞬は小声で答えた。


「そう……。

やっぱり一緒だね」


太陽は、瞬がやっと自分の考えを言葉にてくれたことに笑顔で応えて語り続け、彼の感情を自身に投影し始めた。


「そのときとった行動を今でも後悔しているんだ……。

僕は『相手に合わせる』ことを選択してしまった。

わかりやすく言うと、わざとミスをしたり、相手の取りやすい所にボールを出したりするようになってしまった」


瞬は、ハッとした表情で太陽の顔に目を向けた。


「最悪だろ?

それ以来僕は、自分の成長を捨てたような「卑屈」な気分になってしまった。

その上、それでチームメイトと調和がとれたかというと、全くそんなことは無かった」


「……それからどうしたんだよ?」


太陽に自分の感情が投影されていることで、思うところがあったのだろう。

瞬は食いつくように問いかけてきた。


「どうもならなかったよ。

チームメイトを見下していたわけじゃないしね。

自分に対する情けなさでいっぱいだったし、その選択は最後まで何も生み出さなかった」


「そうか……」


瞬は考え込み始めた。


「だからと言って、自分一人で全てを解決しようとするのは、強さじゃない。

誰かに裏切られたり、誰かに先を越されたりする恐怖から逃げるための、ただの防衛本能だ。

……そしてそれは、恋愛でも同じだよ」


瞬は急に話を変えた太陽に敏感に反応した。


「何が関係あるんだよ!」


太陽は笑いながら、話を別の方向へ展開していった。


「気になる人が自分以外の誰かに影響を受け、変わっていく姿を見るのは……気が狂いそうになるほど、恐ろしいことだと感じるのは分かるよ」



4.共有される「泥水」の記憶


太陽の声は、張り詰めた部屋の空気を少しずつ溶かしていくような、低くて深いバイブレーションを持っていた 。

それは、凛の時と同じように、相手の感情を自身の経験として投影し、自身を客観視して追体験させるための彼特有のカウンセリングの手法だった。

太陽は、用意しておいたグラスの水を一口飲み、静かに語り始めた。


「これからする話と同じことを風見さんにも話したんだ」


その言葉に、瞬の眉がピクリと動いた。


「僕も普通の男だ。

……僕にも、深く愛している女性がいて、彼女は、全てを包み込むような優しさを持った人だ。

……でも、だからこそ僕は、常に恐れている。

彼女が他の誰かの魅力に気づき、僕の元から離れていってしまうんじゃないかってね」


太陽は、自らの胸の奥にあるEgo Cube「テッセラクト」の感触を確かめるように、シャツの上からそっと手を当てた。


「誰か他の男が彼女に興味を示した時。

……僕の頭の中から、論理や理性なんてものは一瞬で吹き飛んでしうよ」


太陽の横顔に、男が持つどうしようもない「脆さ」が滲み出す。


「激しい嫉妬で気が狂いそうになる。

僕だけを見てほしい、誰の手にも触れさせたくない。

狭い部屋に彼女を閉じ込めて独り占めしてしまいたい。

……そんな、自分でもゾッとするほど醜くて、生々しい『男としてのドロドロした欲求』が、僕の奥底にも確実に存在している」


瞬は、目を見開いて太陽の顔を見つめた。

自分を正論で説き伏せに来ると思っていたこの男の口から、自分自身が今まさに心の中で渦巻かせている「醜い嫉妬の泥水」と全く同じ感情が、包み隠さず吐露されたのだ。


「……あんたでも、そんなこと考えるのかよ」


瞬の声から、先ほどの威圧的なトゲが抜け落ち、代わりに戸惑いと、どこか安堵に似た響きが漏れた。


「もちろん考えるさ。

人間だからね」


太陽は、少しだけ自嘲するように目を細め、静かに微笑んだ。


「御影くんが風見さんに対して抱いている『誰にも渡したくない』という強烈な嫉妬も、チームメイトに対する『俺の思い通りに動け』という苛立ちも、根本は同じだ。

……それは決して、汚い感情じゃない。人間が生きるための、最も強力で純粋なエネルギー源なんだよ」


太陽の言葉は、嘘のない本物の感情として、瞬の肌に直接伝わっていた。

年上の男が見せた「隙」と「敗北の記憶」。

それが、瞬の心の中に張り巡らされていた分厚いプライドの防壁に、スッと入り込んでいく。


(……この人は、俺のこの情けない焦りも、嫉妬も、全部分かった上で受け止めようとしているのか……)


瞬のEgo Cubeを覆っていた、周囲を拒絶するような無数のトゲが。

太陽のその深い共感の温度に触れ、少しずつ丸みを帯び、赤黒かった波形が本来の純粋な「熱」へと変化し始めているのを、太陽の瞳は正確に観測していた。



5.『なにか×誰か』の仮説


「……俺は」


瞬は、両手を膝の上で固く組み、うつむいたまま重い口を開いた。


「俺はただ、あいつに……凛に、俺の最高のプレーを見せたいだけなんだ。

誰にも文句を言わせないくらい圧倒的な結果を出して、あいつの視線を俺だけに釘付けにしたい。

……でも、パスを出してミスされたら、俺の描いた完璧なゴールが壊れちまう。

それが……許せない」


他人に弱みを見せることなど決してなかった孤立の天才が、初めて自らの口で「自分の弱み」を吐き出した。

太陽は深く頷き、沈黙を共有した。

それを察した太陽は、手元のタブレット端末を引き寄せ、一本の数式を静かに書き込んだ。


「アインシュタインの一般相対性理論では、質量の大きな星が存在すると、その周囲の空間は重力によって歪む」


太陽がタブレット端末を瞬の方へ向ける。


「御影くんの心の中にも今、『風見凛さん』という、とてつもなく大きな質量(引力)を持つ星が存在している。

その強大な『愛という名の重力』が、君の『サッカーをする』という行動の軌道を激しく歪ませ、チームメイトとの繋がりを断ち切らせているんだ」


「愛、という名の重力……?」


「そうだ。

その引力は消すことができない。

葛城姉妹が引き出した生々しい本能の炎は、理屈では消せないからね」


太陽は、タブレットに書かれた変数『A』と『P』を指差した。


「行動(Action:なにか)と、対象(Person:誰か)。

この二つを掛け合わせた時、人間は信じられないエネルギーを生み出す。

だが、そのためには、歪んだ空間そのものを安定させるための『定数(Congruence:自己一致)』が必要なんだ」


「自己一致……」


「君がチームメイトを信じられないのは、自分のエゴを相手に預ける『パス』という行為の本当の意味を知らないからだ。

……パスは、妥協や逃げじゃない。

他者のEgo Cubeと波形を繋ぎ、一人では到達できない未来を創り出す。

『信頼』と言い換えても良い」


太陽は、デスクの引き出しを開けた。

そこから取り出したのは、スポーツ人類学の三枝教授から借り受けたアーティファクトの一つ。

中世ヨーロッパの動物の膀胱を縫い合わせて作られた、古びた革のボールだった。


「……なんだ、その古臭いボールは」


瞬が怪訝な顔をする。


「サッカーの起源と呼ばれる、中世イングランドの『モブフットボール』で使われていた物のレプリカだそうだ。

……御影くん。君のその素晴らしい『熱』と『嫉妬』を、ピッチという枠組みの中で正しく爆発させるために。

少しだけ、昔の景色を見に行こうか」


太陽は、革のボールをテーブルの上に置き、自らのEgo Cube『テッセラクト』を静かに回転させ始めた。

彼の持つ強靭な共感力とシミュレーション能力が、言葉とアーティファクトを媒介にして、瞬の脳内に圧倒的なリアリティを持った「投影の追体験」を作り出していく。


「目を閉じて。

この革と泥の匂いを、一緒に嗅いでみよう」


太陽の低く、心地よい声に導かれ、瞬はゆっくりと瞼を閉じた。

すると、エアコンの効いた支援室の匂いがフッと消え去り、代わりに、むせ返るような泥の匂いと、大勢の男たちの汗と血の匂いが、鼻腔を強烈に突き抜けた。


『……今から数百年前の中世イングランド。

サッカーの起源は、戦術も何もない、村と村がボールを奪い合う暴動モブのようなものだったそうだ』


太陽の声が、脳内に直接響く。瞬の閉じた視界の裏側に、ルール無用で泥まみれになりながら、一つのボールを求めて殴り合い、押し合いへし合いする男たちの野蛮な熱狂が浮かび上がってきた。


『彼らは、ただ自分の力を誇示するため、エゴを剥き出しにしてぶつかり合っていた。

……今の君がピッチでやっているのと同じ、単なる「孤立した暴力」のようなものだ』


「……ッ!」


瞬は、追体験の中で、泥だらけの男たちの群れの中に自分が立っているのを感じた。

四方八方からぶつかってくる暴力的なエゴ。

ボールを独り占めしようとすればするほど、群衆の波に飲み込まれ、身動きが取れなくなっていく。


『そんな暴力のぶつかり合いの中で、考えることを諦めなかった人は気づいた。

……自分一人でボールを抱え込んで潰されるよりも、隣の仲間にボールを預ければ、自分も自由に動けるようになって、遥か遠くのゴールへ空間を切り裂くように到達できることに』


太陽の声と共に、目の前の景色がスローモーションのように変化する。

泥まみれの男の一人が、絶望的な囲みの中から、仲間を信じてボールを空高く蹴り上げた。

そのボールが美しい弧を描き、空間の歪みを切り裂いて、もう一人の足元へとピタリと収まる瞬間。


『パスという概念の誕生。

それは、人間の闘争本能が、他者への「信頼」を獲得した瞬間だ』


太陽の声が、瞬の耳元で熱く囁く。


『君の嫉妬も、彼女に見せつけたいという欲求も、すべてエネルギーに変えればいい。

……そして、その強大なエゴを、失うことを恐れずに君のパスで仲間に託す。

そうすれば、君たちのプレーは、誰にも止められない想像性を生み出す』


「……ハァッ……ハァッ……!」


現実の支援室のソファで、瞬は額から滝のような汗を流し、激しく息をしていた。

彼の閉じたまぶたの裏で、孤立のトゲは完全に崩れ去り、代わりに、他者と繋がり、一つの強大なエネルギーを生み出す「パスの軌道」が、黄金の光となって、今まで持てていなかった連携プレーの鮮明なイメージを描けていた。


「……俺の、エゴを……仲間に託す……」


目を開けた瞬の瞳には、もはや周囲を拒絶する王様の傲慢さはなかった。

自分の弱さを認め、他者と波形を同調させる覚悟を決めた、本物の「ゲームメーカー」としての静かで熱い炎が宿っていた。

相対性理論をヒントに『キャリア理論の方程式』を導き出すための証明が、いよいよ現実のスタジアムで試されようとしていた。

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