帰って来た夫④
娘を抱き締めている妻の手は自ずと力が入っていく。
娘は「いたい………いたい……おちゃーちゃん、痛いよ。」と言った。
妻は驚いて娘に「ごめんね、ごめんね。」と謝った。
妻はどんなことをしても娘を夫に取られたくなかった。
離婚して娘を一人で今までのように育てたい。
夫の世話になどなりたくなかった。
「今更………。」と知らぬ間に呟いていた。
「おちゃーちゃん?」と呼ぶ娘の愛らしい瞳に会い、「ご飯食べて、お風呂屋さん行って、寝ようね。」と言う。
娘の「うん。」という返事に妻はホッとした。
だが、次の瞬間、娘の言葉に妻は驚いた。
「おとちゃんは?」
たった10分にも満たなかったのに、娘はもう夫のことを父親だと受け入れている。
その事実が妻には恐ろしく悲しかった。
◇◇◇◇
上司夫婦は夫に色々聞いた。
そして、それを妻に話した。
「京都に居たんだそうだ。
京都で就職したと聞いた。
京都で親子3人暮らせる家を見つけて、こちらに帰って来たと言っていた。
………辛いかも知れないが、相手の女性のことも聞いたから話すよ。
その女性は彼の初恋の人……だそうだ。
22歳の時に別れたそうだ。
理由は相手の親御さんの反対だったそうで、直ぐに見合いして結婚したそうだ。
それから、相手の女性の夫が……暴力を奮う男性だったそうで………。
離婚したそうだ。
離婚してから、もう一度、彼に会いたいと、共通の友人に話していたそうだ。
それから月日が経ち、彼女は子宮頸がんになっていたそうで………。
発見が遅くて分かった時には余命宣告を受ける末期の癌だったそうだ。
彼に話した共通の友人は、彼女の会いたい!という願いを叶えたくて彼に連絡し
たということだ。
………辛くて耐えられないかもしれないが、それが真実のようだ。
これから先……本当に一人で育てられると思うかい?
それは無理なことだと思うんだが………。
父親が居た方がいい。
そう思う日がやって来ると思うよ。
離婚しないことも視野に入れてみては……どうだろうか。
女一人で子どもを育てるのは大変だ。
夫婦で育てれば、学歴も付けてやれる。
君が苦しんできたのも、辛い日々を送って来たのも知っている。
だけど、恵子ちゃんの為に離婚しないということも考えてやれないだろうか。
もう二度と無責任なことをしないと約束を取り付けて………。
どうだろうか………。」
妻は嫌だった。
もう愛情など欠片も無い夫とどうして暮らすのだろうか……経済的には楽になるだろう。
では、妻の心は? 妻の心に誰一人として思いを寄せてくれなかった。
それが悲しく寂しかった。




