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捨てられた女  作者: yukko
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帰って来た夫②

上司夫婦に同席して貰って、妻は夫と会った。

夫は両親と一緒だった。

場所は社宅の上司夫婦の家。

最初に頭を深く下げて夫は謝罪した。「済まなかった。」と………。

上司夫婦は妻が食べるものにさえ困窮していたことを話した。

義両親が「息子は悪くない。」と言うと、上司が「妻子を路頭に迷わせるようなことをする夫が悪い!」と言い切ってくれた。

そして、「親御さんは口を挟まないで頂きたい。」と釘を刺した。

すると、義両親は黙った。

「その人、今はどうされているの?」という問いに夫は「………亡くなった。」と涙声で話した。


「いつ?」

「去年。」

「去年……………。」

「うん。」

「法要を済ませて……戻って来たの?」

「……うん。」

「……そう……ご愁傷さまです。」

「…………うん……ありがとう。」

「…………何故、知ったの?」

「えっ?」

「何故、その女性(ひと)が余命宣告を受けたって知ったの?」

「………共通の友人から聞いた。」

「何時?」

「家を出る一週間前。」

「……一週間前………。」

「うん。」

「そうなんだ………。

 ……分かった、離婚のこと話し合いましょう。」」

「離婚! そんな話で来たんじゃないんだ。離婚なんか考えたこと無い。」

「でも、出て行ったでしょう。何も言わず……。」

「………うん……でもっ! 

 離婚したいと思ってないし、そう思って出たんじゃない。

 恵子が亡くなったら戻るつもりだった。最初から………。」

「えっ? あなた……今、何て言ったの? 恵子? 恵子って誰のことよ!」

「付き合っていた彼女、亡くなった女性(ひと)。」

「あなた! 正気なの! 娘の名前、その人と同じじゃない!」

「あっ!………けど、いい名前だろう。恵まれる子って意味だから。」

「本気なの? 本気で結婚する前に付き合っていた女性の名前を娘に付けたの?」

「…………いい名前だから……。」

「違うでしょう………忘れられなかったからじゃないの?

 生涯で一番愛した女性の名前だからじゃないの?」

「…………ち……違う……いい名前だから……それだけなんだ。本当に!」

「信じられないわ! 有り得ないわ!」

「それくらい大したことじゃないでしょう!」

「お母さん、口を挟まないで頂きたい。お願いします。」

「うっ!………分かりました!」

「…………会社を退職した時の退職金は、使ったのよね。」

「……う、うん、使った。」

「全部使ったの?」

「うん………多くなかったから、直ぐに無くなった。」

「何に使ったの?」

「恵子の医療費…………ごめん。」

「…………名前……変えたいわ!」

「そんな………変えて欲しくない。」

「娘の名前を呼ぶ度に、私と娘を食べることにさえ事欠いた生活にした女を思い出

 すわ。 あなた……平気なのよね。」

「そ……それは………。」

「私は耐えられないわ!」

「………ごめん………。償うから!

 償うから……だから、一緒に暮らそう。」

「はっ?」

「娘に父親が必要だと思う。父親として責任も義務もある。

 俺は責任も義務も果たしたい。」

「何言ってるの?

 今まで責任も義務も全く果たしてないじゃないの!

 そんな人の言葉を信じられると思ってるの?」

「信じて欲しい。頼むから……信じてくれ。」

「無理!………離婚して頂戴!

 苦しくても頑張って育てる!

 男の子じゃないから跡取りでもないし、望まれてないのは分かった。

 望まれてないから………可哀想よ………。」

「俺は望んだよ。女の子とか男の子とかより五体満足で、って思ってた。」

「五体満足じゃなければ要らないってこと?」

「そういう意味じゃないよ………そういう意味じゃないんだ。」

「もう! いいっ!」

「!」

「もう………無理よ………無理………ううっ………ううう………。」


泣き崩れた妻を見て、これ以上話し合えるかどうか上司は不安になった。


「泣くほどのことかっ! 男が外に女を作れるのは甲斐性というもんだ!」

「お父さん! 何と言うことを仰るのですか!

 今直ぐに出て行って下さい!

 話し合いの邪魔でしかありませんから!」

「こっちが出て行きますよ! 媒酌人の労を思って来ただけだ!

 こんな言われ方をする場に居たくも無い!

 帰るぞ!」

「ええ、帰ります。」


義両親は夫にも「帰るぞ!」と声を掛けて出て行ったが、夫は「先に帰ってくれ。」とだけ言い、出て行かなかった。

「馬鹿がっ!」と吐き捨てて、義父は義母と共に出て行った。


涙を拭った妻は上司夫婦に「…………済みません、娘のことが気になるので………。」と言った。

そして、夫の方に顔を向けて「離婚して下さい!」と言った。

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