元夫・神原昭雄
元夫・神原昭雄は3回結婚したが、3回共、離婚に至った。
最初の結婚の妻は、和子。
最愛の人・恵子の余命宣告を受け、家族をそのままに家を出た。
それから帰って来て、やり直した。
だが、最愛の人・恵子に似ている恵子の姪・恵との出逢いが、不倫に繋がり、また家族を捨てた。
二番目の妻は、恵。
昭雄の両親との同居が上手くいかず、同居して間もなく別居、そして離婚に至った。
三番目の妻は、両親が進めた縁談で結婚した相手だった。
両親の勧めで結婚したが、両親との折り合いが悪く、別居だったのに離婚に至った。
昭雄は髪に白い物が増えた今、後悔している。
思い出すのは最初の妻・和子だけになっている。
もう最愛の人・恵子の面影は薄れて思い出すことさえ無くなった。
それなのに、何故だか和子のことばかり思い出す。
共に暮らした日々を……幼い恵子の顔を姿を……お腹が大きくなった妻・和子のことを……思い出してばかりだ。
両親は看られないので、老人ホームに入れた。
会社で働きながら自宅で介護など不可能だからだ。
昭雄に恵との間の子は面会も出来ないままだ。
恵の再婚相手が拒否したからだ。
和子は恵と違い、昭雄が子どもと会うことを拒否しなかった。
だから、今、娘・恵子と息子・賢一には電話をして会いに行っているし、会いに来てくれる。
今の昭雄は、孫に会うのが楽しみで、子ども達に出来なかったこと……おもちゃを買ってあげることを……している。
年を重ねると、孫はゲーム機やソフトを欲しがり、昭雄はその度に全く分からないから、子どもに……恵子に、賢一に店まで連れて行って貰い購入している。
孫達の七五三の祝いなどで和子にも昭雄は会えていた。
その時には、いつも和子に言われる。
「あの日はね、晴れてたのよ。
恵子さんの元へ走った日も、戻って来てから離婚した日も……
雲一つない晴天だったの。
私は泣いてるのにね。
お空は綺麗な青……笑顔みたいだと思ったわ。」
「…………良く覚えてるな。」
「傷つけられた方は覚えてるのよ。」
「……済まない。」
「……捨てたのに、ね。若い頃に捨てたのに……よ。
この人ったら……よりを戻そうって言うのよ。
馬鹿なの?って思うわ。
あんな目に遭わせておいて、何が籍を入れようよ!
ねぇ、そう思うでしょう。」
「………そう思うか。」
「何が、そう思うか、よ。」
「まぁ、こんな風に会えれば……生存確認が出来ていいよな。」
「生存確認する必要、ある?」
「あるよ。」
「ふぅ~~~ん。」
昭雄はその度に「あの日は晴れていたんだ。」と言う。
すると、和子は決まって「そりゃ、あなたは捨てた方だから記憶に残ってないのよ。捨てられた方は……忘れられないのよ。」と言う。
不思議なものだ。
離婚して離れていたのに、子どもが繋がっているから、自ずと繋がった。
そして、いつの間にか話せるようになっていた。長い時を経て……。
◇◇◇◇
桜が満開の春。
昭雄は恵子と賢一に呼び出された。
昭雄に会って直ぐに恵子と賢一は目を合わせて軽く頷いた。
「どうした? 何か用か?」
「お父さん、私達から話しておきたいことがあるの。」
「何だ? 改まって。」
「お父さんに私達の子どもは良くして貰ってるわ。」
「本当に感謝してるんだ。」
「当たり前だろう。孫なんだから……。」
「良くして貰ってるけど……お父さん。」
「うん?」
「私達はお母さんの介護をするけど、お父さん……。
お父さんの介護をする気持ちは無いの。」
「!……………そうか……。」
「僕達は母さんがどんなに大変だったか、辛かったか、見て来た。
僕達を育ててくれたのは、母さん一人。
だから、母さんには何でもしてあげたいんだ。
出来得る限り最期まで寄り添いたい。
でも、父さんには……そんな気持ちは芽生えない。」
「お父さん、私達、お母さんが夜中に泣いている姿を見て来たの。
賢一は知らないけど、私は覚えてることがある。
お父さんが帰って来なくなってから、どんなにお母さんが泣いてたか。
それは幼心に覚えてる。
不倫したのよね。
離婚の原因はお父さんよね。
だから、私達はお父さんの介護をする気持ちになれないの。」
「…………分かった。」
「孫と会うのは今まで通りよ。」
「それを変える気は無いよ。僕達も今まで通り会うよ。」
「………分かった……孫達に会わせて貰えるだけで充分だ。
お前達とも会えるんだな。」
「うん、それは変わらないから………。」
「充分だ、ありがとう。」
「話は、これだけ………。」
「そうか………。」
「お昼ご飯、お父さん、一緒に食べようね。」
「この店の天婦羅は美味しいよ。」
「そうか………。」
昭雄は子ども達と別れて「自業自得だ。」と吐き出すように呟いた。




