元夫の願い
賢一が連れて行ってくれた店は静で落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。
一番奥の席が空いていたので、そちらに座った。
賢一が妻の隣に、そして賢一の前に元夫が座った。
「なに?」
「………何故、再婚しなかったんだ?」
「えっ?」
「再婚せずに……二人も育てて……大変だったろう。」
⦅どの口が!⦆
「恵は……離婚して2年後、再婚した。子どもも……再婚相手が育てた。
俺の三回目の結婚相手も離婚後、割と直ぐに再婚したらしいし……。」
⦅それが! どうしたっていうのよっ!⦆
「だから、どうして再婚しなかったのかな……って不思議で……。」
「再婚出来ると思ってるの?」
「俺が結婚した相手のうち二人は、再婚したから………。」
「親が要れば、見合いとかあるかもしれないけど……。
私には親が居ないから無理ね。」
「そ……そうか………。」
「それに、子どもが居るのよ。二人!
子どもが居る30近い女を誰が妻に迎えるのよ。」
「……そうかな?」
「第一、再婚相手がとんでもない人間だったら、子どもが可哀想よ。」
「とんでもない?」
「自分の気分次第で子どもを叩く人だったり………簡単に捨てる人よ!」
「…………恵の再婚相手はとんでもない人間じゃないけど………。
俺の三回目の結婚相手は、どんな相手と再婚したか知らないなぁ……。」
「恵さんは恵まれてるの。それだけよ。」
「ねぇ、お父さん。それだけ言う為に母さんの時間、奪ったのか?」
「いや、そんな……違うんだけどな………聞いてみたかったからなんだ。」
「ふぅ~~ん、で、それだけ? 終わったんなら出て行こう、母さん。」
「待ってくれ!……待ってくれないか。」
「他に何かあるの?」
「あのな……俺、結婚してないんだ。」
「お父さん、それ、知ってるから。母さん、帰ろう。」
「賢一、話はまだ終わってない。」
「何なんですか? 早く言って下さい。」
「あの……親が……その……具合が悪くてな。
お前なら任せられるんだ。」
「え………………。」
「だからな、元に戻らないか。俺達………。」
「へ? 何言ってるんだよ。母さんがどんなに苦労したか分かってないんだな!
母さん一人で子どもを二人育てさせて、何もしなかったくせに……。
今更、何言ってんだよっ!」
「賢一、これはな。子どもが口を出す話じゃ無い。」
「…くそっ!………母さん、帰ろう。相手にする必要ない!」
「あなた………。」
「うん、籍を入れよう。」
「はぁ~~~っ!」
「年を重ねても身勝手なのは、お変わりないようですね。」
「えっ?」
「お断り致します。」
「待ってくれ! 過去には……色々あったが、乗り越えられると思う。」
「過去を乗り越えられる? 無理ですよ。
そんな気は全くございません。
丁重にお断り致します。」
「お前………。」
「あなたのご両親を、あなたの妻に戻って、同居して看る?
誰がそんな苦労を背負い込みます?
そんな方、どこにもいらっしゃいませんよ。
恵さんとの離婚理由、お忘れになりましたか?
妻と親との間に入る気が無い配偶者なんか同居する権利すらないわ。」
「お前…………。」
「賢一、帰りましょう。」
「帰ろう!」
まだ飲んでも居ないコーヒー代を妻はテーブルの上に置いて息子と共に店を出て行った。
その後を元夫の追いかける声が聞こえた。
「待て………待ってくれ。」と………声が聞こえても妻も息子も後ろを振り返ることなく歩みを進めた。




