娘の披露宴
娘・恵子の挙式が終わり、披露宴になった。
元夫の席は、親族の席ではあるが、その両隣の席にも前の席にも誰も居ない。
親戚が無いから、こんな席を用意出来た。
恵子は披露宴の最中、⦅呼ばれただけラッキーって思って欲しいわ。お祝いを貰ったから呼んだの。……会うようになったけど、父親だけど育てて貰った訳じゃない。……話す相手も居ないことだし、席の周りに誰も居なくていいわよね。⦆と思っている。
披露宴が終わりに近づくと、花嫁の感謝の手紙を読む場面になった。
恵子は母への感謝の気持ちを手紙に書いた。
「お母ちゃんへ
お母ちゃん、いっぱい苦労して育ててくれて、ありがとう。
嫁いでも私は、お母ちゃんの娘です。
……………うっ………ううう…………。」
手紙は途中から新郎が読み上げた。
妻はずっと泣いている。止めどなく涙が溢れて来る。
最後に恵子は泣きながら「お母ちゃん………お母ちゃん………ありがとう。」と言った。
妻は深く頭を下げた。
「上野君、どうか、どうか恵子をお願いします。上野さん……不束な娘ではございますが、何卒よろしくお願い致します。」と言いながら………。
その祈りにも似た言葉が上野の耳に届いてはいないだろう。
泣いて頭を下げている母親の背中に手を当てて賢一が支えている。
花束を、恵子は上野夫妻に、上野和宏は恵子の母に渡した。
それを見ていた上司夫婦もハンカチを顔に当てたままだった。
一番遠くから元夫は一人寂しく見ていた。
披露宴が終わり、新郎新婦が披露宴会場の出口で見送っている。
一番最後に元夫……恵子の父が新郎新婦の前で娘に言った。
「恵子……おめでとう。」
「ありがとう。」
「招いてくれて本当にありがとう。」
「うん。」
「………幸せになってくれ。」
「うん、ありがとう。」
「お義父さん……ですね。」
「あ………はい。」
「初めまして、上野和宏です。」
「恵子を頼みます。どうか幸せにしてやって下さい。」
「お任せ下さい。恵子は僕が幸せにします。」
「ねぇ、二人で幸せを掴むのよね。」
「あっ! そうだね、うん! 二人で掴むんだ。」
「二人で…………。」
「そうでしょう。お父さん、夫婦二人で幸せを掴むの。
私は夫に幸せにして貰うんじゃなくて、夫婦二人で手を取り合って掴むの。
それが夫婦でしょう。」
「………そうか………そうだな。
二人で幸せになってくれ。」
「はい!」
披露宴が終わり、新婚夫婦は友人が集まる二次会の会場へ向かった。
元夫は最初の妻に声を掛けた。
「あのな………少し時間あるか?」
「………ええ、ありますけど……。」
「お父さん、何? 母さんに何の用?」
「賢一……そんなに心配か?」
「そりゃ、そうでしょう。」
「……そうだな、賢一も一緒に………時間あるか?」
「あるよ。母さんが都合付けるなら………。」
「どこかで話しをしたい。」
「分かりました。賢一、どこか場所あるかしら?」
「この近くの店で、どう?」
「静なら助かるよ。」
「分かった。じゃあ、付いて来て。」
賢一と二人で妻は、元夫の話を聞くことになった。




