絶望
それからは、どうすれば良いのか分からなかった。
夫が帰って来なくなって、義両親に相談した。
「帰って来ないだとぉ―――!」
「はい。」
「あんた、何をしたんだ!」
「何もしてません。」
「親が居ない子なんかと結婚したのが悪かったのよ。」
「そんな………。」
「妻として支えてなかったからじゃないか?」
「私が至らなかったからだと?」
「そうに決まっている!」
「あの………こちらには連絡がありました?」
「……無い!」
「そうですか……もし、連絡があったら教えて下さい。
お願いします。」
「………それは、あれの考えによる。」
「そうですか……。」
「あの子が帰って来なければ、あんたのせいだからね。
絶対に私は許さないんだから!」
「お義母さん。」
「金をくれと言われても渡さないぞ。
生まれてきた子は女の子だ。跡取りじゃない。」
「本当に役立たずよね。跡取りも産めないなんて!」
「分かりました。助けて頂こうとは思いません。お邪魔しました。」
◇◇◇◇
夫が家を出てから、どのくらい経ったのだろうか。
一通の手紙が届いた。
封を開けると、夫からの手紙だった。
「済まない。
俺の人生で一番愛した女性が余命宣告を受けた。
最期の日まで傍に居てやりたい。
済まない。
恵子のことは頼む。」
便箋に書かれた文字は、たった、これだけだった。
そして、会社から通達が来た。
「退職により、社宅を月末までに退去して頂きたい。」という内容だった。
夫と暮らしていた家は社宅だった。
「会社を辞めてまで……その女性の所へ行ったのね。
あ……ははは……捨てられたんだ。私……。
生まれて間もない娘まで捨てても平気だったんだ。」
貯金通帳を見る。
残高で暮らすしかなかった。
仕事を見つけるまでは………。
乳飲み子を抱えて、どうしたら生きていくことが出来るか――それだけを考えた。
絶望しかなかった。
仕事など見つからないと思った。
「お母ちゃん、頑張るからね。
泥水を啜っても……育てるからね。」
泣いている我が子を抱き締めながら、そう誓った。
「どんなに苦しくても、食べられなくても、この子だけは飢えさせない。
私が食べなければいいだけのこと。
どんな仕事でもする。
やらなきゃ生きられない。
この子の為にだけ生きる。
絶対に……育て上げてみせる。」
そう誓った。
乳飲み子を抱えたまま、社宅を出た。
引っ越し先が決まるまで会社は待ってくれた。
事情を説明して、退去迄の期間を延ばしてくれた。
古いアパートに引っ越した後、職業安定所に通い続けた。
敷金も礼金も、引っ越し代金も全て夫が残した通帳から支払った。
支払ったら残高が不安なほど少なくなった。
退職金も振り込まれているが、年数が短いので定年退職者の金額には遠く及ばない。
通帳を見る度に絶望しか感じられなかった。




