離婚
夫が選んだのは妻と子ではなかった。
18歳の恵を選んだ。
妻は娘とお腹の中の子と、再び捨てられた。
上司夫婦は「あの時に離婚していた方が良かったのに……京都へ行くよう言って本当に申し訳ない。あんな奴とは思わなかった。」と妻と幼い恵子に謝った。
妻は恵子に話した。
「お父ちゃんとはね、お父ちゃんのお仕事で一緒に居られなくなったの。」
「お仕事?」
「そうよ。お仕事………。
だから、恵子とお母ちゃんはここから引っ越すの。」
「引っ越すの?」
「そうよ、ごめんね。お友達とお別れすることになって……。
恵子………本当にごめんね。」
「ごめんね。」と言って泣いている妻を幼い娘は、タオルを持って来て「お母ちゃん、泣かないで。」と涙を拭いてくれた。
⦅恵子とお腹の子を守り抜く。私だけが……私だけ……で……。
守り抜いて育て上げる!⦆
引っ越し先は夫と妻が出逢った職場の近くにした。
上司夫婦がアパートを見つけてくれた。
「私達の責任は重い。出来得る限りのことをさせて欲しい。」と言ってくれたのだ。
妻の就職先も何とか探すと約束してくれた。
もう今の妻には縋るしかなかった。
夫が帰らなくなってから、引っ越しまでの間に、夫と会ったのは二度。
その度に恵子は大喜びだった。
その喜ぶ姿を夫はどう思ったのか……何も感じなかったのか……。
夫から貰ったのは引っ越し代金と一月の生活費だけだった。
長じた娘と息子からは「慰謝料と養育費請求出来たのに!」と言われたが、その当時の私には「慰謝料」も「養育費」も言葉すら知らなかった。
引っ越しの日、夫はやって来た。
夫が帰らなくなってから二度目だった。会いに来たのは……。
「恵子………ごめんな。」
「お父ちゃん、お仕事、頑張ってね。」
「うん、お父ちゃん……頑張るよ。」
「お父ちゃん、お仕事終わったら帰って来る?」
「…………また、いつか……恵子に会いに行くよ。」
「うん!」
「恵子………勉強、頑張れよ。」
「うん!」
「恵子、もう行くから……。」
「うん、お母ちゃん。
お父ちゃん、行ってきます。」
「………うん、行っておいで………。
無事、出産してくれ。産まれたら知らせてくれ、頼む。」
「……………知らせて……意味があるの?」
「……………父親だから…………。」
「………………恵子、行こう!」
「元気で! 元気で居てくれ!」
「お父ちゃんも! 元気でね。恵子、勉強、頑張るよ!」
「…………恵子……………恵子………お父ちゃんを許してくれ。」
夫の最後の言葉「許してくれ。」は小さくて誰の耳にも届かなかった。




