新幹線
上司夫婦と一緒に妻は娘を連れて京都へ向かった。
夫は京都駅で待っているはずだ。
生まれて初めて新幹線に妻は乗った。
幼い娘は大喜びだった。
娘にとって、今回の京都行は生まれて初めての旅行である。
燥ぐのは当たり前のことだった。
燥ぎ疲れたのか京都駅近くになって娘は寝てしまった。
この愛らしい寝顔を妻は何時までも……と思った。
京都駅で夫は待っていた。
直ぐに妻と娘を迎える為に入居している家に向かった。
夫に会って大喜びの娘を見ていると、⦅三人家族に戻るべきなんだろうな……。⦆と妻は思う。
ただ、信頼など消えてしまった夫と元のように戻れないと知っていても、尚、娘の為だけを見ないといけないのだということだ。
夫が「ここだよ。三人で暮らす家だ。」と言って、妻達を家の中へと……まるで洋画に出て来るような紳士のように手を家の中へ向けた。
団地の一室で3DK。
娘は「おおきいね、おちゃーちゃん。」と目を輝かせている。
台所と6畳の部屋が一つの我が家とは違い広くて綺麗だと娘は思った。
夫は「会社からも近いんだ。こっちで就職したけど、東京への転勤を願い出る為にも、勤務年数が経ってからにしたい。それまで不慣れだろうけど京都で暮らして欲しいんだ。」と……妻子が京都へ来ることを拒まないで居て欲しいと願いながら言っている。
そして、今は夫だけが住んでいるこの家に、今日は上司夫婦と妻、そして娘が泊まった。
1泊することになったのだ。
妻は思った。
⦅もう、この敷かれたレールの上を行くしかない。⦆と……。
京都を発ち、帰りの新幹線の中で上司夫婦に「これから、どうする?」と聞かれた妻はゆっくりと言葉を選びながら答えた。
「私の気持ちは、もう元には戻れません。
ただ、恵子のことを考えると……母として我慢しなければならないと思いまし
た。
このまま恵子と二人で暮らしたいです。
もう信じられませんし、また捨てられないと言えませんから………。
でも、私は自分の心を殺して恵子の為だけに京都で3人で暮らすしかないと思っ
ています。」




