第三章 7
さて、件のバカップルと一暴れ参りましょうか!
追憶が胸をよぎったのも束の間……
月軌道と地球軌道の中間付近で静止する『大蛇』のコクピット内に、複数の敵からロックオンされた事を示す警報が鳴り響いた。
敵旗艦を含む戦艦級41隻、巡洋艦級65隻、砲艦・駆逐艦級が98隻。大光輪から地球に降下した際、迎撃に向う大国の連合軍を無傷で蹴散らした戦力だ。
繭に蓄積された技術を結集し、機甲自衛隊のVCをベースに急遽製造されたカスタム機『大蛇』には、光輪を操り、衝撃を和らげるガンテツ譲りのポテンシャルがある。
それでも、まともに敵艦の集中砲火を受ければ、一巻の終わり。
阪田は額に汗を浮かべ、通信モニター上の元同胞へ語りかけた。
「Δ、俺達は間違っていた。従来の計画、大光輪による宙域転移を最後まで遂行してはいけない」
「他に選択肢があるとでも?」
「ある!」
「……まさか、GANシリーズが本来持つ能力、重力波による時空制御に頼るなんて話じゃあるまいな」
Δの険しい眼差しが、モニター越しに阪田を睨みつけた。
「何度もシミュレーションが行われた結果、恒星全体に生じた時空間の歪曲を正すには不十分な出力しか得られないと判明したじゃないか? 第一、今更、矯正を試みた所で、恒星の寿命は縮んだままだ」
「……バイオマシンで恒星の対流層、放射層を突破して奥深く入り込み、単に周辺の歪みを矯正するのみならず、星の中心核を光輪で包み込む。そして、正常化するまでピンポイントに時間を巻き戻す」
「はぁ!?」
Δは冷笑を浮かべ、あからさまに蔑みの表情を作った。
「太陽の中に突入するだと!? そんな事が出来ると本気で思っているのか、貴様?」
「確かに以前なら、到底不可能だった。だが、こちらの世界で35年の時を費やし、ガンテツは力を蓄えている。時空制御技術も従来とは比べものにならない。ナナが可能だと俺に断言したんだ。今のガンテツなら試す価値はある!」
「フフ、俺に話すより、βを説得してみたらどうだ」
「……あいつは俺を嫌ってる。初めから、まともに話を聞こうとしない」
「成程、賢明な判断だな」
その時、阪田は、Δの腕が微かに動いているのに気付いた。目立たぬようコンソールをモニターカメラの死角で操作、艦隊の配置を変更している。
会話に応じる振りをして、何隻か『大蛇』の背後へ回りこませ、十字砲火の餌食にしようと企んでいるらしい。ロックオンの警報が、今やコクピットの中でうるさい位に反響している。
「……交渉の余地無し、か」
「撃て!」
撃墜の準備を整え、Δは各艦艇を制御するAIへ総攻撃の命令を下した。
忽ち無数の砲火が重機動VCへ集中するが、一つたりとも着弾の手応えは無く、エネルギーは虚空で拡散する。
『大蛇』は狙点から消えていた。
βとの通信中に美貴が非活性状態の小光輪をこっそり周囲へばら撒いていたようで、その間を転移し、攻撃を逃れたのだ。
同時に人型へ変形を果たすものの、その姿は「人」と呼ぶには異形に過ぎる。
爬虫類を思わす縦長の頭部で三連カメラアイが妖しい燐光を放ち、上半身から伸縮自在のマニュピレーターが八本伸びて、それぞれに備わったレールガンの砲身から帯磁金属粒子を超高速で撃ち出す。
あたかも古の魔獣が、四方へ怒りの業火を放つが如く……
7隻もの砲艦が初手で戦闘不能に陥り、『大蛇』の包囲は呆気なく崩された。
「そんな、馬鹿な!?」
思わずΔが呻いた瞬間、旗艦前方に小光輪が現れ、他の光輪から転移した『大蛇』が飛び出してくる。
「三佐、セパ宜しく!」
通信機のスピーカーから黒岩美貴の声が流れ出し、続いて『大蛇』の胴体部から一機の戦闘機が分離。反転離脱したかと思えば、鋭角的なデザインの人型へ変形を遂げている。
その名は『草薙』。
『大蛇』と一体を成す合体・分離型VCであり、美貴の並外れた反射速度と100%シンクロできる神速の機兵だ。
頭部中央の六角センサー、その下の二連モニターカメラを覆う透過装甲など、以前の愛機『小鉄』に外観こそ似ているが、武装は全く違う。
手ぶら、なのだ。アサルト・カービンのような銃器は一切所持していない。
その代り両肩に、長剣の鞘を思わせるビーム兵器が二門装備されていて、それらを体の両側面までスライドさせ、それぞれ違う方向へ閃光の矢を乱れ撃つ。
「う~、久々の快っ感!」
操る美貴の瞳が青く燃えるのは何カ月ぶりだろうか?
普段の五割増しで燃え盛る炎を更に滾らせ、『草薙』の動きは加速を継続。射撃と並行して行う回転運動へ移行した。
「ハイッ、いつもより沢山回っておりま~す」
通信機から洩れる美貴の声は、『大蛇』のコクピットへ盛大に伝わってきて、
「オイ……頼むから、やり過ぎないでくれよ……」
そう呟きつつ両手を合わせる阪田の心配を他所に、優雅な円を描く『草薙』から数えきれない程の光の矢が放たれた様は、さながら宇宙空間に咲き誇る深紅の花を思わせた。
そして攻撃はそれだけでは終わらない。旗艦周囲の艦艇を半減させたと見るや否や、両肩の兵装を分離。組み合わせた瞬間に、それは機甲自衛隊『村雨』装備のものより遥かに長い高周波の太刀となった。
明らかに近距離特化型の武器で、有効な距離へ近づくより早く長距離砲撃の餌食かと思われたが、
「おりゃ、振れば玉散る氷の刃っと!」
美貴は阪田の『大蛇』と連携して周辺宙域へ夥しい小光輪を発生させ、その中心へ突入。光輪内の異空間を目まぐるしく跳躍し続ける事で、敵に狙いを付けさせない。
言わば宇宙空間の八艘飛び、だ。
目に留まらないどころか、AIの反応すら及ばず、撃つより早く剣が舞う。高周波に加えて伸縮自在の光刃を伴うその怒涛の連撃は、如何なる装甲をも容易く切り刻む。
まさにバッタバッタと戦闘艇を薙ぎ倒す大立ち回りを演じた末に、『草薙』は狼狽えるΔの眼前、旗艦の正面に立ちはだかった。
「まさか、我が艦隊がこうも一方的に……」
Δの嘆きも空しく、『草薙』は甲板上で立ち並ぶ砲塔をことごとく斬り払い、最早、成す術の無い艦橋へ向けて大きく振り被る。
「へヘッ、チェックメイトだ、ベクラのアンちゃん。次に何ンかしたら、問答無用でぶった切る!」
凄んだ美貴の脅しは、グッとドスが効いていた。
夢にまで見た阪田とのコンビネーション復活でテンションが上がりまくったらしく、明らかにノリノリである。
でも、その声は敵の耳に届いていない。
舞踏にも似た華麗な『草薙』の一挙手一投足に、この時のΔは恐怖を感じる暇さえ無く、只、見とれていたのだ。
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