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ガンテツ 滅亡のパラドクス  作者: ちみあくた


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第三章 6



 『繭』内で死闘が繰り広げられた1999年7月20日、ガンテツ、小鉄の連続攻撃により、阪田の搭乗機・村雨は大破した。


 肉体もヒューマノイドの再生力を超えるダメージを受け、意識が遠のいていく。

 

 霞む瞳に映ったのは、コクピットを覗く美貴の姿だ。

 

 子供の様に泣きじゃくる顔を見上げ、滴り落ちる泪の温もりを感じ、阪田は歓びを禁じ得なかった。

 

 失いかけた絆は、まだ切れていない。

 

 諦めようと必死で目を背けてきた恋慕が堰を切り、胸一杯に溢れ、このまま死んでも良いとさえ思った。

 

 その時、耳障りな音が聞こえる。

 

 村雨の体内に埋め込まれた自爆装置が、ガンテツの攻撃に反応、自動的に起動してカウントダウンを始めていたのだ。

 

 βの小細工が加えられているらしく、手動では止められない。強烈な熱と衝撃波を発するサーモバリック爆弾が、繭の密閉空間で爆発した場合、中にいる者は誰一人助からないだろう。

 

 ましてや、今、俺の上でワンワン泣いている狂犬娘なんか、一瞬で……






 重い使命も故郷の人々への誓いも、最早、阪田の脳裏から消え失せていた。


 破壊された操縦桿の代りに、触手化した指先を端子へ差し込んでアクセス、村雨を戦闘機に変形させる。


「二尉、どけっ!」


 仰天した美貴が退くのを見極め、阪田の村雨は使用可能なエンジンをブーストし、繭の天頂部へ舞い上がった。


 排気口から出て、外で爆発させる……


 彼の狙いはそこにあったが、傷ついたメインエンジンは、やはり出力不足だ。排気口手前で失速してしまい、錐揉み状態に陥った直後、自爆装置が作動する。


 凄まじい爆風が、排気口を繭の天井ごと吹き飛ばした。


 阪田もコクピットの外へ放り出され、炎に包まれたまま、落下する。

 

 しかし、爆風と熱は繭の上部へ抜け、内部には殆ど伝播していない。

 

 轍冶のガンテツが咄嗟に小光輪を発生させ、下から爆発が起きた空間を包み込んで衝撃を遮断、それ以上の破壊を防いでいたのである。

 

 転落した床の上で、阪田は繭が揺らぐのを感じ、海面に接触する轟音を聞いた。

 

 美貴は無事なのか?

 

 それだけでも確認したかったが、彼の身を包む残り火が網膜を焼き、視界が暗転すると同時に何も考えられなくなった。

 

 これが死か、と阪田は思った。






 後で聞いた話によると、海底に潜伏する繭の医務室で、阪田はそれから2週間、生死の境を彷徨っていたそうだ。


 脳を含む一部の臓器が微小のバイタルサインを発する程度で、ケアを怠れば何時死んでもおかしくなかった。


 と言うより、生きている方がおかしい。


 その時の阪田の外観を、美貴は「赤飯のオコゲ」と表現していたそうだ。身も蓋もない言い方ながら、人の外観を留めていなかったのは良くわかる。


 そして、それでも、美貴は彼から離れなかった。


 敵だから、怪物だから、放っておけ、という周囲の声に背を向け、付き添いを続けた。

 

「死んだら殺す、死んだら殴る、死んだらデコピン……」


 眉をしかめた仏頂面で、そんな意味不明な呟きを一晩中続けていたと言う。






 負傷から4週間後、失った肉体の再生を果し、ようやく意識を取り戻した阪田は、自分が天国にいると思った。

 

 目を開く瞬間に見た美貴の笑顔が、それまでの記憶に無い優しさで満ち、天使のように輝いていたからだ。

 

「二尉……ずっと俺の側に?」


 答える代りに、少しはにかむ。


 これも始めて見る表情で、新鮮だなぁと思う内、美貴が不意に腰を落とした。


 あ、ヤバい。


 不吉なデジャブを感じた瞬間、十分に捻りを加えた右ストレートが飛んでくる。喜びの頂点に達すると、問答無用で放つ美貴渾身の一撃である。


 あぁ、そうそう……そう言えば、そういう娘だったんだよなぁ……


 まともに喰らった阪田は再び一週間の昏睡状態に陥り、次に目を覚ました時は、流石にお互い自重した。


 一言二言、言葉を交わす。


 正体を偽り、繭を襲撃した俺を許せるのか、と阪田は俯いたまま、訊ねた。

 

 今すぐ殺されても文句は言えない。


 苦しげに訴える元相棒に対し、美貴は不思議そうに首を傾げる。

 

「……三佐、あんた、まだ私の敵?」


 慌てて首を横に振ると、美貴は強烈なデコピンを一発だけ阪田に食らわせ、あっさり会話を終了させた。


 まだ愛しているか、とはお互い訊けない。言い出せない。

 

 美貴は勿論、阪田の恋愛経験値も、二つの時空で長い時を生きたにも関わらず、足りているとは言い難いのだ。

 

 

 

 

 

 自分の足で歩けるようになった時点で、阪田は知りうる全てを、黒岩家や工場の従業員に打ち明けた。


 轍冶や真希の怒りの視線を浴びながら、滅びゆく故郷や、βと一緒に遂行してきた過去の暗躍について話した。


 戦う意思は既に失っている。


 故郷の人々を見捨てたくはないが、かといって、35年間過ごしてきたこちらの世界を破滅へ導く事にも、最早、加担できない。


 全てが終わるまで幽閉して欲しい。決着がついた後、こちらの世界の法律に従い、俺は裁きに服する。


 そう申し出、美貴に連れられて独房代わりの予備倉庫へ歩き出した時、阪田は思わぬ人物から協力を要請された。

 

 三次元映像の形で現れたGAN―7=ナナが、二つの世界を同時に救う方法がある、とはっきり言い放ったのである。


読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
起死回生の方法と言う事ですよね! それにしても……美貴は強烈!! さすが、ちみあくた様の推しキャラですね! (^_-)-☆
ちみあくた先生へ。 いよいよ、終わりに近づくにつれ、最早、登場人物が勝手に、物語の中で、動いているのが、手に取るように、分かります。 これ程、見事に完成された作品は、ほとんど無いのです。 後は、…
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