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ガンテツ 滅亡のパラドクス  作者: ちみあくた


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第三章 5



 月の裏側、地球の死角となる位置に出現した直径500キロメートルにも及ぶ大光輪には、殆ど質量と呼べる物が無い。

 

 雨の後、空にかかる虹の架け橋のように、或る種の現象として捉えた方が良い存在である。その為、重力の影響を受ける事無く、AI制御のトラクタービームに牽引されるまま、月軌道から地球の軌道近くまで緩やかな移動を続けていた。


 今や観測するのも容易だ。

 

 適切な時間を選べば、地球のどの地域からでも、家庭用望遠鏡で輪を成す七色の光芒を確認する事ができる。






 『彼岸』の戦闘艇の内、この時、付近の警護に当たっていたのはおよそ200隻。


 最高司令官にして完全に機械化された艦隊中、唯一の生命体でもあるベクターΔ(デルタ)は、旗艦のブリッジに腰を据え、静かに光輪を眺めていた。

 

 輪の中心部を通し、向う側を覗く事はできない。揺らめくプラズマと歪曲した空間が障害となる。


 だが、Δには荒廃した向う側が、目に浮かぶようだった。


 そこは滅びの運命が支配する場。


 前世紀の末から頻発するようになった時空間の歪みと、その急激な回帰現象に伴う領域異常・時空震が、彼らの属する恒星系の太陽を内部から侵し、寿命を大幅に縮めてしまった世界だ。

 

 年老いた恒星は、膨張した後、ある質量以上ならブラックホールに、それ以下なら赤色巨星になる。


 故郷を旅立つ直前に見た、肥大化する太陽の不気味なシルエットをΔは思い出した。


 いつか赤色巨星化した太陽は周囲の星を呑み込むだろうが、彼らの住む第三惑星が滅ぶまで、それほど時間は掛からない。


 恒星が元の大きさの1.2倍になった時点で、いかなる生物も生存を維持できない地獄が現出する。


 避けられない運命を星の寿命と見なし、従容として受け入れるか、如何なる危険を冒してでも生存の道を模索するか?


 そんな不毛な論争が一度は巻き起こったものの、圧倒的な死への恐怖が自ずと進路を決定する。


 時空震が生み出し、一定期間、継続して存在する時空の裂け目=『光輪』を利用して、その向う側、いわゆるパラレルワールドをなす別次元の彼方へ、全ての人類を避難させようと言うのだ。


 幸い、新たな技術革新は必要無い。


 本来、時空震制御の為に開発されたグローバルスペース・アナライジング・アンド・ノーマライジング(空間の包括的調査、正規化)、通称GANシステムの技術による大型バイオマシンとヒューマノイドを流用する事で、光輪内を生きたまま通過できる工作員を送り込み、別次元での作戦計画が遂行できるようになったのである。


 バイオマシンには自己修復・進化を可能とする高度なAIが積まれる。


 光輪の反対側では時間の流れが遥かに早い為、潜入後、AIが独自の研究開発を継続する事で、空間転移の期限までにより高度な技術レベルへ到達できる可能性もある。


 そうなれば、計画の遂行は一層確実となるだろう。


 しかし、ここで問題が生じる。空間転移による避難計画がスケールアップし、別次元の惑星と周囲の空間ごと入れ替える手段が有力視され始めた時、強硬に反対する勢力が現れた。


 己が生き残る為とは言え、異世界に住まう人々を滅亡の身代わりにするのは許されないと主張する連中だ。

 

 反対派の中心にGANシステムを開発した科学者がおり、GAN―TETUと呼ばれる最新バイオマシンと、彼の娘を素体とするヒューマノイド=GAN―7の供出を拒否された為、計画の進行は困難になった。


 結局、GANシステムのプロトタイプであり、環境への適応力が高い反面、進化プロセスが不安定で暴走リスクを孕む事から開発中止へ陥っていたGAN―VECTORの転用が決定。ケアと管理の為、優れた兵士を複数ヒューマノイドに改造し、同行させる事となる。

 

 しかし、計画実行の期日を知ったGAN―7は一足先に光輪へ突入を果たした上、力づくで妨げようとした。GAN―TETU固有の能力により、異世界の側から光輪を閉じてしまった場合、宙域転移どころか次元間の行き来さえ不可能になってしまう。


 移住遂行派からすると、それだけは何としても阻止しなければならない。かくして今日に至るまでの、GAN―TETUとGAN―VECTORの戦いが始まったのだが……






 この期に及んで正論へ固執する反対派を、Δは軽蔑していた。


「まず己が生き残ってこその理想、博愛……それを理解できない奴らは所詮、現実から目を背ける偽善者に過ぎない」


 答える者など誰もいないオートコントロールのブリッジで、Δが独り言を口にした時、宙域監視システムが警報を発した。


「何だ!?」


 時空の歪みを可視化できるモニタースクリーンに、大光輪の他もう一つ、やや小型の光輪が現れる。


 その中央を潜り、艦隊正面に出現したのは所属不明の戦闘艇だ。付近に母艦の形跡は無く、機体のデータも一切存在しない。


 そのシルエットは、機甲自衛隊が開発したVC・虎鉄と良く似ていた。


 複座式のコクピットも同じだが、虎鉄には大気圏外で行動する能力は無い。何より、サイズが違う。全長55メートルの巨体は虎鉄の二倍を優に超えていた。


「こちら機甲自衛隊……いや、コクーンベース・ガンテツ隊所属、重機動VC『大蛇』(オロチ)。我々に戦う意思は無い」


 謎の機体から通信が入ってきて、受信してみると、モニターにパイロットの姿が映し出される。


「何者だ、貴様?」


 Δに問われるまま、パイロットはヘルメットを取り、阪田由久の温厚そうな素顔をさらした。


「……ベクターγ(ガンマ)……生きていたのか」


「今の俺は、その名を捨てた」


「コード名を捨てるとは、使命を放棄したという事だな、裏切り者め!」


「……俺に裏切る意思は無い。だから、戦う前に交渉しにきた」


「言うな! 貴様など、海の藻屑になれば良かったのだ」


「あのねぇ……実際、そうなりかけたんヨ、三佐は!」


 いきなり通信に女の声が割り込んだ。


 モニターに現れたのは、生来の喧嘩っ早さを抑え、穏やかな表情を作ろうとして頬をピクつかせている黒岩美貴だ。


「二尉、ちょっと待ってくれ」


「は?」


「君が出しゃばると、まとまる話もまとまらない」


「……そりゃ失敬」


 力一杯、ふくれっ面になった美貴がモニターから消え、阪田の脳裏に五か月前の記憶が蘇った。


 確かにあの時、生き残れたのは奇跡だと自分でも思う。


読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
お騒がせカップルの登場ですね(#^.^#)
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