第二章 2
操縦席の機械を眺めていたナナが、急に溜息つきました。
えらく気落ちしてるンで、話さ聞いだら、敵が海の底の深~い溝へ逃げ込んでしまい、出てくるまで待つしがないと言ったんです。
「……できれば、GANベクターがここへ来るまでに食い止めたかったのですが」
「はぁ? がんべく?」
「GANベクター。そして、私達が乗っているこの巨人をGAN―TETU……ガンテツと言います」
「がんべくた、って何か呼びにくいから、怪獣風にベクラっての、どうすけ?」
「……呼び方はどうあれ、現空域の下方、日本海溝最深部には、莫大なエネルギーの鉱脈があります。GANベクターは、ガンテツの組織を僅かながら取り込みましたし、エネルギーの補給を済ませ次第、より強力な形態に変化し、挑んでくるでしょう」
「……つまり、この辺りの海で、あんなのが暴れる!?」
「ガンテツで迎え撃ちます」
「……んだ」
「この次元を、私達の世界が抱くエゴの犠牲にはできません」
下を向いたまま呟くナナは、えらく思い詰めた顔しでました。狭い操縦席で二人きり、こんな近くさ、いて、俺がてんで見えてねぇ気がした。
コイツ、一人ぼっちだな、と……
つまるとこ、霞ヶ丘競技場で巨人が突っ立ってたのは、この娘が途方に暮れてたせいだって、わかった気さ、しだんです。
「……俺、黒岩轍冶」
自己紹介の後、深くお辞儀しだら、ナナ、目ぇ丸くした。
「宮城の生まれで、大田区の、徳寛電機って町工場さ、勤めでます。よろすく」
ポカンとしてっから、もう一回、お辞儀すっと、ナナも自然にお辞儀さ返した。
あぁ、この娘も日本人だなって、そん時、思ったでがす。
「私、ナナ」
「それはもう、さっき聞いた。あんた、一体何処から来たんだ?」
「言った所で、あなたにはわからない」
「……失礼だな、あんた」
「ささやかな見解の相違です」
「じゃ、どうして巨人と一緒に東京さ、来だの?」
「答える必要を認めません」
俺が訊く度、ナナは冷たくあしらい、まともに応えねぇ。やたら、上から見下ろされる気ぃ、したなや。
「じゃ、苗字は? それ位なら、答えられるっぺ?」
「ありません」
「無い?」
「……だって、私は『ヒト』ではないから」
「え?」
「私は作られた『モノ』。生物学的な構造が、あなた方と根本的に違っている」
「はぁ!?」
「従って、コミュニケーションを試みても、無駄な努力と思われます」
「……俺と話すのは時間の無駄ってか?」
サラリとソッポ向かれ、俺、ムカッ腹、立った。何か言い返してやっぺ、って力んで考える内……きっと力み過ぎたんだべな。
腹、鳴ったっちゃ。
競技場で弁当食い損ねた事、俺、改めて思い出した。
「……何か、食うもん無いすか?」
「ここに食料は積んでいません」
「あんた、飯、食わねぇの?」
「私にも基本的な生理現象は存在し、栄養を摂取する必要があります」
「なら、何か、あるべ?」
「二つの次元を繋ぐ特異点……あなたが光輪と呼んだ物を通過する前提に立った場合、ガンテツ、及びその母艦であるコクーンベースに食糧を積んでも無意味なのです。光輪通過時、機体内に搭載した有機物は、組成が変化してしまう」
「……ゆ、ユウキブツ?」
「即ち、通常の生物は光輪を通過する過程で生存を維持できず、食物は食用に適さない無機物へと変化する」
ナナの話は難しく、チンプンカンプンだったけんじょ、素直にわからねぇ顔すンのは悔しぐでなんね。
会ったばかりなのに、何でか、この娘の前じゃ見栄張りたくで、粘ったべし。
「え~、つまり」
「はい」
「もし俺が、あの光の輪っか、無理に通り抜けようとしたら?」
「生きて出る事はできません」
「あんた、何で平気なの?」
「ヒトでは、ないので」
「……それもよくわかんねぇども、じゃ、通り抜けた先ってのは何処だ?」
「別の次元。異なる時空間」
「だから、その、ジゲンってのは何?」
「……だから、あなたに言ってもわからないと申し上げました」
「ホント、失礼な人だな、あんた!」
「ヒトではないので、どう思われても構いません」
身も蓋もない言い方って、こういう事かと、俺、つくづく思ったなや。
「では、理解できないと御理解頂けた所で、あなたには降りて貰いましょうか」
「……こんな海の真ん中で!?」
「勿論、近くの陸地までお送りします。一旦、コクーン・ベースで海へ潜り、人目につかないよう配慮して」
「そら困る」
「何故?」
「東京へ戻る金が無ぇ」
「個人の都合に興味ありません」
「……東京まで歩いて帰れってか?」
それには答えようとせず、ナナはガンテツの繭さ、海へ潜らせました。
俺は巨人から降りて、繭の中さ入った。
どうなってるかと思えば、幾つも寝泊まりできる部屋が用意されてて、旅館より居心地、良いくれぇです。
どの部屋にも外の景色さ映す色付きテレビが備え付けてあり、陸地へ近づいたら繭の外側が掘削機みたいに震えて、器用に土ン中、潜って行ぐのがわかった。
何せ直径60メートルのモグラだ。きっと上じゃ、地鳴りぐらいしたべな。
その操作をしている間、ナナはダンマリ決め込んで、何ンも言おうとしねぇ。
ヒトじゃねぇって自分で言うくれぇだし、やっぱり血も涙も無ぇ女だと思ったなや。一文無しで放り出される事、俺、内心、覚悟を決めたんでがす。
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