第二章 3
地下の繭から、先がドリルになってる太い管さ、地上へ通し、そこから俺とナナは人気のない丘に出ました。
お互い口利かねで、しばらく海沿いの道さ歩ぐ内、女川の漁港が見えてきた。
「送っでもらって、ありがとう。こっからは一人で行けるすけ」
「……街まで、お送りします」
「もう良いよ」
「私には責任がありますから」
「何の?」
「あなたをここまで連れてきた責任です。野垂れ死には、やはり困る」
言うだけ言って、又、ソッポさ、向く。
トコトン、可愛げの無い娘だと思ったけんじょ、俺が早足で歩き出したら、慌てて後からついて来た。
時々、緊張した目で辺り見回してな。
ガチガチに体固くしてる分、歩き方も何ンかトボトボって感じがしてなす。子供の頃、道端に捨てられてる子犬さ拾った時の事、思い出しました。
んで、気が付いたんです。
憎まれ口叩いてっけど、コイツ、もしかして、心細いだけなんじゃねぇべか?
夕焼け空の下、女川町の路地に入ってもナナは俺の後さ、ついてきた。
女川は漁業が盛んで、午後より朝方の方が賑わう所だけんじょ、丁度、夕飯の買い物時で人出が多かったんです。
水着みたいなカッコじゃこっちが恥ずかしいで、間に合わせに俺のシャツ、羽織らせてな。汗臭いだの、垢抜けないだの、何かと文句たれるけんど、そっただ問答無用だなし。
んで、誰かとすれ違う度、ナナの奴、ちっとだけ俺の側さ寄る。その癖、珍しい物見つけっと目ぇキラキラさせて、近寄ってく。
まんま修学旅行の女学生さんだ。
「……町さ着いたども、あんた、まだ俺と一緒で良いのけ?」
ちょぃとからかったらナナは唇を尖らせ、大急ぎで冷たい顔さ、こしらえた。
「今は偶然、私とあなたの進む先が同じであるに過ぎません。敵の出現を待つ間、私には物資を補給する必要がある」
「つまり、買い出し、け?」
「はい」
「この町の事、全然知らねぇ癖して、一人で大丈夫?」
「……問題ありません」
「ホントに? 一人で心細くねぇの?」
「そういう感情は、既に捨て去っています。だって私は」
「ヒトじゃねぇから?」
「……はい」
「んじゃ、俺はここでさいなら、だ」
わざと冷たく言ってナナに背を向け、俺、さっさと駅の方へ歩き出した。んで、十まで数えて、振返る。
正面から目ぇ合いました。ポツンと立つナナの、寂しそうな瞳と。
「なぁ、あんた」
「……はい」
「取引、しねか?」
「はい?」
「あんたの買い物、手伝うから、俺の旅費さ出してけれ」
「……了解です。問題、ありません」
もう、ネコまっしぐらの勢いでな。ナナが俺ッとこ駆け寄ってきて、それからしばらく二人で通り、ぶらつきました。
東京オリンピックの開会式に巨人が現れた事は、何処でも噂になってたなし。
でも、割と皆、呑気に話してたんです。でっけぇ虫や、その被害についちゃ、あんまり報道されてなかったから、政府の偉い人が口止めしたのかもしんねぇな。
ナナは野菜や穀物の種、山程、買った。繭の中に植物さ育てる場所があって。そこに植えっと、すぐ大きくなるそうです。
燃料とかは、今は要らねぇって言う。
あの化け物……え~、ベクラって奴と同じ燃料……海の底にあるアビ何とかってのでガンテツは動いてて、効率良いから、繭に蓄えた分が有れば100年は大丈夫だとか。
凄いなや、実際。後でウチの社長が、血眼になって秘密を探ろうとしたのも、当然だと思います。
買い物の支払は、金時計でしました。
お札も小銭も無かったけんじょ、ナナは金の懐中時計さ沢山持ってて、それ、質屋で現金に換えたんです。
「路銀の代りにと、父が渡してくれました。金は光輪を通過しても、性質変化を免れる素材の一つなので」
ナナは時計について、そう言ったべし。
でも、ヒトではない、作られたモンだと言い張る娘に、何で親だけいるんだか?
聞きたかったども……止めた。
ナナがちっとずつ、ほんのちっとずつ、笑うようになっで、そいつ、消したくなかったんです。
えらくメンコい笑顔でなや。
無性に写真、撮りたくて、俺、光代さんのカメラ、そ~っと向けました。でも、気付いたナナが片手掲げた途端、火花上げて、カメラが熱ぅなったっちゃ。
俺、アスファルトの上へ落としちまって、モダンなカメラさ、アチコチ吹っ飛び、すっかりオシャカでがす。
「あ~、光代さんに怒られるぅ。コレ、もう直んねぇかなぁ」
「……すみません。でも、あなたが急にカメラを向けるから」
「ナナさん、ビックリした?」
「私の写真は、災いの素になりえるのです。GANベクターが健在である限り」
「あぁ、ベクラ?」
「……名前はどうあれ、この地で見失えば、敵は潜伏し、おそらく35年の長きに及ぶ戦いになるでしょう」
「35年!? なして、そんなに時間、掛かるの?」
「今日、出現した光輪が、次に発生するのは1999年だからです」
ナナは、壊れたカメラさ拾い、丁寧に拭いながら、信じられねぇ話、始めた。
この世に光の輪が現れるのは、後にも先にも二回だけ。最初が今日、次が35年後、1999年の春。二度目の方がずっとでっけぇ輪になり、簡単には消えねぇ。
ナナが言う「敵」は、その二度目の輪が出た時、途轍もない悪企みさ、俺らの世界へ仕掛けようとしてるそうです。
ガンテツは、食い止める為に来た。
逆に大鋼獣は、35年かけて企みの準備を整える為、やって来た。
「GANベクター……ベクラの中には、工作員が搭乗しており、既に人間社会へ侵入を果たしているかもしれません」
「工作員って、スパイの事だべ?」
「彼らに私の写真を見る機会があれば、そこから、あなたへ辿り着くでしょう。何せ1999年まで、時間だけはたっぷり有るのですから」
「こっちが先に見つけて、やっつけちまえば良い」
「彼らは自由に姿を変え、他人を操る能力を与えられていて、捜索が極めて難しい。ヒトに似て、ヒトならざる者。GANシリーズのシリアル・ナンバーを持つ私と、ある意味では兄弟とも言えるベクターα、β、γの三名です」
「たった三人しかいねぇのけ?」
「ベクラ本体を含めて四体。こっちは私とガンテツの二体。他は誰も来ない。光輪が二つの世界を再び繋ぐまで」
「で、もし、負げたらどうなる?」
「……言った所で、あなたにはわからないと思います」
そのナナの言回しに聞き覚えさ、あった。でも俯いた顔、前と全然違って見えたなし。わからねぇから言わないんじゃなく、辛ぐて言えねぇんだと、俺、思った。
そんだけ恐ろしい事が起きる、と。
「あの……これ、元通りにできそうです」
しばらく黙ってたら、ナナがカメラさ、こっちへ差し出した。
「コクーン・ベースに戻れば修理は可能ですし、素材を見る限り、構造のスキャニングと3Dコピーで新品を用意する事も、不可能ではありません」
「つまり、俺も戻らねぇとダメ?」
「あなた個人のリスクを考慮すると、お勧めできない選択肢ですけど……」
「う~ん、借り物の大事なカメラだし、仕方ねぇかなぁ」
俺、わざと難しい顔して、カメラさ、受け取りました。
内心、小躍りしてた。遠い未来の心配はさて置き、もう少しナナと一緒にいられるのが嬉しぐて仕方ながったんです。
繭に戻った後、俺、故郷の気仙沼で覚えた漁師料理の腕さ、振るいました。ホヤの刺身はナナの口に合わなかったども、後は綺麗に平らげた。
アイツには、もう何ンも訊かず、代わりに俺の事、夜更けまで話し続けたなす。子供の頃の思い出、拾った子犬、集団就職に来た日の心細さや今の職場の温かさも。
ナナは、椅子の上で膝抱えて、目ぇキラキラさせながら、聞いでました。
楽しかったなや。もう、コイツがヒトだろうが、作りモンだろうが、俺、どうでも良ぐなってた。
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