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ガンテツ 滅亡のパラドクス  作者: ちみあくた


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第一章 23



 宮城県沖のJガイアから東京・大田区上空まで、美貴はエネルギータンクの残量を無視し、虎鉄を加速させ続けた。

 

 先行きを考えても仕方ない。どうせ補給は不可能、出たトコ勝負の片道切符だ。

 

 だが、祈る気持ちで辿り着いた根黒島は、攻撃の残り火と黒煙に包まれていた。煙の隙間に見える黒岩製作所は、最早、瓦礫の山でしかない。

 

 木造の家屋は勿論、工場の鉄筋さえ執拗に繰り返された爆撃の熱で溶解し、原型を留めていないのである。

 

 

 

 

 

「……畜生、間に合わなかった」


 奥歯を噛み締め、美貴が拳を膝元へ打ち下ろすと、コクピットのレーダーからアラーム音が鳴り響いた。


 上空から航空型VC4機が降下してくる。

 

 機体のコードはVCS―13=「村正」。つまり、搭乗者は阪田ではない。

 

 彼が現在使用しているVCは、村正をベースに運動性、武装等、全ての面で強化されたカスタム機「村雨」の筈だ。

 

 銀色に塗装される村正に対し、村雨は黒が基調で、識別は容易と聞いている。

 

「何処だ、三佐!」


 美貴の怒号に呼応し、通信機のスピーカーから若者の声がした。

 

「黒岩教官、余所見は禁物ですよ」


「お前は……お前、確かデコピン……」


「デコピン?」


「クソ生意気な奴で……え~、名前、なんだっけ?」


 迫る4機のリーダーと思われる声の持ち主は、VC訓練中に美貴がデコピンし、Jガイアの甲板で銃口を突き付けてきた「教え子」の一人に相違ない。


「冷たいな、教官。敵に回れば、名前も知らぬと?」


「いや、そういう事じゃなく、え~」


 単に母親譲りの大ざっぱな性格で、忘れっぽいだけなのだが、言い訳する間も無く機銃の弾が飛んでくる。


 威嚇?


 いや、狙いは正確。複数の機銃による弾幕を虎徹前方に張り、こちらの運動性を阻害する明確な意図を感じる。


 つまり、これは……2機プラス2機で連携し、攻守を分離するシュヴァルム戦法、空中戦の古典だ。


 上空に控える16機中、4機だけ攻撃してきたのは、その方が一機に対して有効だからで、憎らしいほど隙が無い。

 

「……やるじゃないか。私の教え方が良かったな」


「ひとおもいに葬って差上げる。私を超えるあなたの為に」


「あなたを超える我らの為に」


 リーダーに答えた残り三機の通信音声は、抑揚を欠く不気味な響きで、同時に美貴のコクピットへ飛び込んできた。


 品川の事件の際、テロリストが同じ言葉を交わしていた事を美貴は知らない。気にしている余裕も無かった。


 多勢に無勢。乗機の基本性能に差がある上、単座にした弊害か、戦闘機形態の時、美貴の操縦に虎鉄の反応が遅れるようだ。


 ロックオンされた警報が、コクピット内に反響する。


 ミサイルが来る。


 人間の限界を超越した美貴の知覚が、心の奥で激しく警報を打ち鳴らす。


 クソっ! このままじゃ振り切れない。

 

 だが、およそ100分の1秒後、撃墜されたのは虎鉄ではなかった。


 美貴も、機甲自衛隊のパイロット達も全く想定していなかった伏兵……


 瓦礫の山となった黒岩製作所の敷地がせり上がり、巨大な扉が現れたかと思えば、作業棟や倉庫の地下から突如4台の陸戦型VCが出現。4機の村正を狙い撃ち、全て墜としてしまったのである。


「美貴ちゃん、怪我は無いかい?」


 通信機から聞こえてきたのは、朗らかなアカネさんの声だった。


「え、嘘!? どうして?」


「フフ、町工場の底力、舐めんじゃないよ」


 続いて、何処か玩具めいた鮮やかな原色で塗られ、丸っこい形をした他の3機からも通信が入る。


「俺達も一暴れさせてもらわぁ!」


「我らが黒岩製作所謹製、ニコニコ号の2号機から5号機まで、そこらの量産機にゃ引けを取らねぇぜ」


「男46才、シミュレーターで鍛えた腕前、御披露させて頂きます」


 どれがニコニコの2号やら5号やらわからないものの、トクさん、タケちゃん、ツネタさんが搭乗しているのは確からしい。


「え~……つまり、その、何だ……そのVCはウチのオリジナルって事?」


 美貴の頭の中は、今や完全にとっ散らかっていた。


 黒岩家に秘密があり、その全てを知らされていない自覚なら一応ある。しかし、家族のみならず従業員まで秘密を共有していて、機甲自衛隊とやりあえる程の戦力を隠し持っているなんて……


 聞いてない、聞いてないよ。私、全然、聞いてないっ!


 そして、それ以上の驚きが、直後に彼女を待ち構えていた。

 

 廃墟全体が轟音を上げて隆起し、取り囲む運河の水面を波立たせて、根黒島が丸ごと空中へ浮上し始めたのだ。

 

「……何? え? これ、何? 何なの? 何、何、何ぃ~ッ!?」


「美貴さん、この世界の中心はね、実はこの大田区にあったんですよ」


 シゲルの声が唐突に通信機から流れ出す。


 浮上した岩盤の下方に途轍もなくデカい『繭』が見えた。正確に言うなら、繭に似た形状の長径1・2キロメートルに及ぶ楕円球である。


 35年前、東京オリンピックに出現して大鋼人を運んだ繭とそっくりの形状だが、サイズは20倍近くある。

 

「皆さん、敵の増援が来ます。爆撃も予想されますので、迎撃宜しくお願いします」


「よっしゃ、まかしとき!」


 シゲルの要請に応え、真紅のニコニコ号が舞い降りる村正を撃破した。コイツがアカネさんの機体らしい。


 青がツネタさん、黄色がトクさん、緑がタケちゃん、そして、シゲルは彼らを載せた浮遊要塞『繭』そのものを操っているようだ。


 近接した地区へ流れ弾が落ちるのを危惧したか、『繭』は東京湾の沖合へと移動を開始する。


 同時に分厚い岩盤部分から多数の高射砲が出現。高空に留まる爆撃機・正宗へも長い射程の砲火を浴びせ始めた。


 もう、とっ散らかっちゃいられない。


 疑問の解明は後回しにし、ニコニコ号の狙撃でフォーメーションを崩した敵機へ、美貴は襲い掛かって行く。






 その交戦宙域の、更に1500メートル上空では、漆黒の機体が悠然と旋回していた。

 

 レーダーサイトに減っていく僚機の数が表示されているが、見下ろす阪田に動揺の陰りは無い。只、透き通った眼差しで『繭』の威容を見据え、

 

「さて……『ガンテツ』の巣、やっと正体を現したか」


 彼は静かな表情のまま、操縦桿を倒した。

 

 機甲自衛隊最強のVC「村雨」が、禍々しき人型に変形を遂げ、戦場への降下を開始する。


読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
いいですねぇ~ 血沸き肉踊ります!(*^^)v
ちみあくた先生へ。 読者の皆さん、気が付いて、いるのかなあ? ここで出て来る、 村正 … 日本一の刀、別名、妖刀の村正 虎鉄 … 新選組の組長の近藤勇の愛刀 村雨 … 南総里見八犬伝に出て来る妖刀…
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