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ガンテツ 滅亡のパラドクス  作者: ちみあくた


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第一章 9



「さ~て、後は成り行き任せっと」


 コンピュータールームに隣接する狭い備品倉庫の中で、亜紀は切れた携帯電話を上着のポケットへ押し込み、足元に転がる男達を見下ろした。


 及川恵一とその警護役が、先程までの亜紀と同じく梱包用ロープでグルグルに手足を縛られ、ガムテープの猿ぐつわを噛まされている。

 

「ん~、ちょっと大人しくしててネ。あなたには、まだ聞きたい事があるの」


 亜紀と目が合い、及川はビクッと身を竦ませた。


 誰の助けも借りずに拘束から逃れた亜紀が、コンピュータールームでハッキング作業を進める及川達へ反撃を仕掛けた際、外見に似合わぬ凄まじい戦いっぷりを見せつけられて完全に怯えている。


 お蔭でテロの目的や実行プランの細部を聞き出すのは楽だったが、『彼岸』を名乗る奴らの背景までは知らないようだ。

 

 現在、中心になっている勤め人風の二人組を含め、25階に陣取る武装集団に計画のクライマックス=自爆へ至るまで脱出の機会は無い。このまま行けば、間違いなく死が待っているであろう。それでも嬉々として計画を遂行する彼らに、カルト集団にも通じる狂信と陶酔を感じた。


 或いは、何らかの洗脳でも受けているのだろうか?


 思案する亜紀の耳に、何処かのフロアから激しい銃声が飛び込んできた。


 もたもたしてはいられない。


 人質になった連中が生き残る余地など、『彼岸』の計画には始めから無いのだ。だから惜しくない。何時でも、何人でも、躊躇いなく射殺できてしまう、単なるゲームの捨て駒として。

 

 亜紀はテロリストから奪った軽機関銃をつかみ、備品倉庫の外へ出た。


 やられたら、洩れなく倍……いや、百倍返し! そんな黒岩家暗黙のルールを胸に、まず銃声がしたフロアの方へと走り出す。






    ×    ×    ×    ×


 国道131号線から第一京浜にのれば、大田区根黒島から品川駅まで、車で10分程度しか掛からない。


 だが、それはあくまで平時の話だ。


 この日、黒岩轍冶が運転する年代物のオート三輪は、高層ビル街から避難する人々の大行列、逆に好奇心からテロ現場へ向かう野次馬どもの双方に翻弄された挙句、彼方此方で迂回の繰り返し。容易に駅へ近づけなかった。


「全く……こんなボロ車で来るから、イチイチ立ち往生しちゃうんだよ……」


 いつしか陽が傾きつつある窓外の景色を横目に、助手席の真希がぼやく。


「オヤジが俺の爺ちゃんから譲り受けた大切な車って言うけどさ、普通ならコレ、廃車だろ、とっくに?」


「降りたきゃ降りろ」


 息子を見もせず、轍冶が言った。


「そうはいかね~よ。姉貴達が気になるのは、俺だって同じだもん」


 轍冶は真希の言葉を無視し、ようやく間近に迫ってきたカンイチ・タワーを睨む。状況は膠着。最初の爆発から一時間以上経っているのに、最上階からの黒煙は勢いを増すばかりである。

 

「俺、信じられない。爺ちゃんの名前がついたビルへ、爺ちゃんのボロ車で、こんな風に近づくなんて」


「オイ、忘れるな、真希。ウチとギャロップは、今、仕事だけのつきあいだ」


「そりゃ、わかってるけど……」


 少しやるせない思いで真希が第一京浜の道路沿い、ビルへ近づく人の群れへ目をやると、見覚えのある顔を見つけた。


 俯き気味に歩いていて、長く美しい髪に隠れた表情がチラリと見えただけだが、あれは確かに来宮七海だ。


 今年の春、金浜高校の真希と同じクラスへ編入された転校生で、入った部活もブラスバンド部。割合いつも近くにいる上、見るからに儚げな印象の美少女だから、とっくに真希がノボせていても可笑しくはない。

 

 でも、あまりに大人し過ぎる印象で……

 

 はっきり言えば、やや陰気な感じがして、真希の好みとズレていた。ろくに言葉を交わした事も無い。

 

「あの子、一人きりで何してんだろ?」


 真希は窓から頭を出し、目を凝らして七海を見つめた。


 淡いブルーのワンピースを着込むシンプルな身なりで周囲へ溶け込んでいるが、どうも彼女は普通の状態では無いらしい。その瞳は虚ろで、足元もふらついている。大混乱の真っ只中だから目立たないが、普段の街中であれば、確実に挙動不審者と見なされていた事だろう。

 

「オヤジ、悪いけど、少しだけ車を止めてくれない?」


 轍冶は目だけ動かし、真希を見た。


「俺の同級生が通りの歩道にいるんだ」


「……何!?」


「状況が状況だしさ。やっぱ、あぶね~じゃん。場合によっちゃ、この車で拾ってやりたい」


 頷いた轍冶が車を道路脇へ寄せると、真希は勢い良く歩道へ飛び出す。






 流れの中に入ってしまうと、遠目で見た時以上に人の数が多く感じられた。


 見失いそうになるものの、何とか広い通りの手前で追いつき、背後から近づいて、そっと七海の肩を叩く。


「ねぇ、来宮さん、ちょっと待ってよ」


 振向いた少女の瞳は依然として虚ろなまま、まともに真希を見ない。代わりに辛うじて聞き取れる程の小さな声で、奇妙な呟きを繰り返した。


「……光の輪」


「え?」


「……光輪は、既に開いている」


「はぁ?」


「……ガンテツを探せ」


「ガンテツ? それ、俺の親父だぜ。来宮さん、何で親父のあだ名、知ってんの?」


「……ガンテツは人ではない。それを遥かに超えるもの」


 そう言い終えると、来宮七海は唖然としている真希に背を向け、再びカンイチ・タワーを目指して歩き出す。

読んで頂き、ありがとうございます。

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またまた伏線が…… ゾクゾクしますね!(*^^)v
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