第8話 宇宙機械統制連盟
「今回の班は、林間学校の間ずっと一緒に過ごす仲間になる。しっかり交流しておくんだよ。じゃあ、かいさーん!」
ムヘッド先生の掛け声で、一年生たちは一斉に散らばった。
今日は林間学校の班を決めるため、一年生の生徒たちが戦闘館へと集められていた。
歩夢の班は、笑実ペア、クリア、そして同じクラスの釘宮真人ペアだ。
「よっろしくねー! 転入生!」
そう言って歩夢に抱きついたのは切覇だった。
「あぁ、よろしく」
「ちょ、ちょっと切覇ちゃん! くっつかないでよ!」
「おやおやぁん? 笑実さん、嫉妬ですかーい?」
歩夢の左腕に抱きついた切覇を引き剥がそうとする笑実。
一方の歩夢は、真顔のまま遠くを見つめていた。
釘宮は恐る恐る歩夢に手を差し出す。
「と、透導……よろしくな」
「あぁ、よろしく」
そう答えはしたが、歩夢は手を差し出さなかった。
ずっと外を眺めている歩夢に、笑実が声をかける。
「透導君、何見てるの?」
「いや、すごい数の小型船が入ってきてるなと思って」
「あー、それなら支援物資じゃないかな?」
「支援物資?」
「武器や防具の装備セット、食べ物や飲み物とかだよ。先月と先々月は中旬だったけど、今回は少し早いね」
「そうなのか。支援物資で、あんな数の小型船を使うんだな」
「今回は林間学校のカレーの材料もあるだろうしね」
切覇の言葉に、笑実が小さく頷く。
「もう林間学校まで一週間もないし、準備しないとね」
「えー、笑実まだ準備してなかったのー? ウチはもう終わったでー!」
「それは早すぎるよ、切覇ちゃん。それに……透導君から離れてよ!」
「はいはい」
そう言って、切覇は素直に歩夢の腕を離した。
「なぁ、片橋。準備って、何をするんだ?」
「二泊三日だから、その分の着替えとか、海で泳ぐから水着とか、ラスターユ島に着いた時用のお弁当とかだよ」
「そうか。分かった」
「なぁなぁ、クリアちゃんと転入生君、水着あるん?」
切覇が尋ねる。
「いや、ない」
「私もありません」
「なら、明日休みやし、みんなで買いに行こや!」
「いいね! 行こ行こ!」
切覇の提案に、笑実もすぐに賛同した。
「じゃあ放課後、ウチがみんなの分の外出許可証もらってくるわ!」
「明日、十一時に『中央星導猫銅像』の前に集合ね!」
「おう! 任せときっ!」
「は、はい……」
「それは俺も行くのか?」
歩夢の言葉に、笑実は即座に突っ込む。
「当たり前でしょっ!」
「私が透導君の寮まで迎えに行くから、十時半までには起きててね」
「あぁ、分かった」
「よし、決まりやな。じゃあ、またなー!」
____
ホームルームを終えた頃、学園長は学園内にある大倉庫を訪れていた。
「あら、ガルドラードさん。今回はお早いですね」
「おや、古川学園長、急ですみません。たまたま近くまで寄ったものでして。それに、来週林間学校ですもんね」
ガルドラードは、黒き鎧を全身にまとった巨躯の男だった。
分厚い外套と仮面により、その素顔のほとんどは覆い隠されている。
「今回ご発注いただいたのは、カレーの材料二百食分と、アーマープレート、剣などの武器を二百五十個ずつ。それと星導結晶を一つ。お間違いないでしょうか?」
学園長は笑顔で頷いた。
「ええ。私たちはガルドラードさんを信頼していますから、問題ありません」
「信用いただき光栄です。ただ、確認していただかないと商人として不安でして」
「そうですか。では確認しましょう」
確認を終えると、ガルドラードは満足そうに言った。
「引き続きご贔屓に。では、また来月伺います」
ガルドラードが一礼した、その時だった。
「あ、少しよろしいでしょうか?」
帰ろうとする彼を、学園長が呼び止める。
「はい、なんでしょうか?」
「数十年前、島を滅ぼしたという巨大な黒龍について、何かご存じありませんか?」
ガルドラードの動きが、一瞬だけ止まった。
「……数十年前の黒龍、ですか。私は存じ上げませんね」
「そうですか。変なことを聞いてすみません。その龍が一つの島を滅ぼしたと耳にしまして……商人のガルドラードさんなら、何か小耳に挟んでいないかと思いまして」
「なるほど。そんな恐ろしい龍が……。私も黒色のリザード族ですから、間違えられて討伐されそうですね! アハッハ!」
「また笑えない冗談を」
「では、こちらでも同業者に聞いてみましょう」
「助かります。よろしくお願いします」
学園長が深く頭を下げた、その直後だった。
入口から、複数のロボット兵と武装部隊を引き連れたクリアが現れる。
「クリアさん!? どうしたのですか!? その人たちは……!」
「学園長! 逃げてください!」
そう叫んだ直後、クリアは足をもつれさせて転倒した。
「大丈夫ですか!」
学園長が手を伸ばす。
「あの紋章は……『宇宙機械統制連盟』ですね。最近、『星合機科学総合研究所』の下についた組織です」
ガルドラードは冷静に状況を分析する。
宇宙機械統制連盟――人類機械化計画を掲げる大型犯罪組織。
近距離戦闘部隊、遠距離戦闘部隊、さらには戦闘用マシーンを擁する。
彼らは白を基調とした軍服型の軽装スーツを着込み、胸部と肩部には黒い機械補助パーツを装着していた。
顔は黒いバイザーとマスクで完全に覆われ、表情は一切読み取れない。
「死にたくなければ大人しくしろ!」
「何事ですか!?」
学園長はガルドラードの前に立つ。
「その女を渡せ。拒めば、生徒を一人ずつ殺していく」
「どこから侵入したのですか!? クリアさんをどうするつもりですか!」
「どうするか話せば、渡す気になるのか?」
「渡すわけにはいきません。どうかお引き取りを」
部隊の一人が、学園長に銃を向けた。
「舐めるなよ、ババァ。商人諸共殺してやろうか?」
「ガルドラードさんだけでも逃げてください。後ろに出口があります」
ガルドラードは二人を抱え、背後にかばう。
「な、何を……?」
「私は誇り高きリザード族。鱗の硬さには自信があります。鎧も一級品です。今のうちに、その子を連れてお逃げなさい」
「……申し訳ありません」
学園長は深く頭を下げ、クリアの手を取って走り去った。
「ババァは殺していいが、あの女は殺すな。足を狙え」
遠距離部隊が銃を構える。
「おい、トカゲ野郎。どけ」
「そんな銃弾で、私の鱗を貫けると?」
次の瞬間、銃声が響く。
だが、ガルドラードは剣を抜き、すべての銃弾を弾き落とした。
学園長とクリアが走り去る足音が、次第に遠ざかっていく。
ガルドラードは動かず、じっと耳を澄ませていた。
通路の反響、空調音、金属のきしみ――。
数秒。
十数秒。
「……もう、聞こえませんね」
「ロボット兵! 始末しろ!」
白い細身の高速型ロボット兵。
黒い重装甲のパワー型ロボット兵。
それらが一斉に動き出す。
ガルドラードは剣を突き出し、低く呟いた。
「喰らい尽くせ。――黒龍奪牙」
黒い龍が剣から解き放たれ、ロボット兵を次々と喰らっていく。
「……まだ続けますか?」
「お前はどこの組織のもんだ? 俺らに楯突いたら、星合機科学総合研究所が黙ってないぜ!」
「本当に、彼らがあなた方を仲間に引き入れたと思っているのですか?」
「どういう意味だ!」
「あなた方は彼らに利用され、最終的に処分されるってことです」
「そんなはずはない! ヴァルトームは我々の技術に興味を示した。科学と機械兵器の力が合わされば、この宇宙さえ掌握できる力が手に入ると彼は言ったんだ!」
「そうだ! そうだ!」
「我々の力でユニバースドラゴンを消し去るのだ! わっはっはーー!」
ガルドラードは深いため息を吐いた。
「もう救えぬな。ならば散れっ! 『《龍鱗鎧・閃光』!」
ガルドラードの鎧の隙間から黒い怪しい光が漏れ始める。その光はガルドラードの頭上に集まる。
「はぁっ!」
頭上に撃ち上げた光が、無数の光の矢となり部隊を貫いた。
「ぐはぁっ」
「うわぁぁっ!」
バタバタ倒れる隊員たちを背にガルドラード静かにその場を去っていった。
そして誰もいない倉庫で一つの無線が入る。
「ターゲットの女を確保した。直ちにA地点に集合せよ」




