第7話 記憶を失った少女
レイラとの戦闘から一夜明けた翌日。
いつもと変わらぬ授業のはずだったが、教室の空気はどこか違っていた。
昨日の激闘を目にした生徒たちの、歩夢を見る目が明らかに変わっていたのだ。
昨日まで彼を笑い者にしていた者たちでさえ、今は恐れるように距離を取っている。
地上の生徒たちが知る戦い方は、相棒同士で支え合う“相棒星繋式戦闘”のみ。
一人ですべてをこなす歩夢は、彼らにとって“異端”そのものだった。
そんな中、笑実だけはいつも通り明るく授業に参加していた。
「私たちはアセイラントとセイヴィアだけでなく、自分の得意・不得意で『星導士』と『星導術師』にも分かれます!」
「片橋さん、ありがとう。じゃあ星導士と星導術師の特徴を説明してくれるかな?」
「はいっ! 星導士は――」
笑実は身振りを交えて、分かりやすく説明する。
星導士は、星導力を武器や防具に宿して戦う近距離タイプ。
星導術師は、星導力を具現化やエネルギー弾として使う遠距離タイプ。
さらにロールとの組み合わせも説明した。
武器や防具に星導力を宿し、戦うのが得意な人は――『星導士のアセイラント』。
宿せるけれど戦いは苦手な人は――『星導士のセイヴィア』。
星導力を具現化して戦うのが得意な人は――『星導術師のアセイラント』。
具現化は得意だが戦うのは苦手な人は――『星導術師のセイヴィア』。
「アセイラントとセイヴィアは“ロール”、星導士と星導術師は“クラス”って呼びます!」
「完璧な解答だよ。ありがとう」
ムヘッド先生に褒められ、笑実は嬉しそうに「えへへっ!」と笑った。
キンコーンカンコーン。
授業の終わりを告げるチャイムと同時に、校内放送が流れる。
『透導歩夢さん。透導歩夢さん。放課後、学園長室に必ず来てください。繰り返します――』
歩夢を呼び出す内容だった。
「透導君、ホームルームが終わったら学園長室に行ってね。では明日の連絡を――」
ホームルームが終わり、歩夢は荷物をまとめ始める。
「透導君、何したの?」
笑実が心配そうに声を掛けた。
「多分、昨日のことだな。放課後来いって言われてたが……忘れてた」
「アハハ、透導君らしいね。道、覚えてる?」
「いや、一階にあることしか知らん」
「そ、そうなんだ……」
笑実はクリアへ視線を向ける。
「クリアちゃんも学園長室に行くんだよね? 透導君を連れてってあげてよ。ホントは私が案内したいんだけど、今日は切覇ちゃんと特訓があって……」
「はい。大丈夫です」
「ありがとう! 透導君、クリアちゃんに案内してもらってね」
「ああ、頼む」
「了解です」
歩夢とクリアは並んで廊下を歩いた。
だが、会話はなかった。
クリアは「コンコン」とドアをノックし、静かに扉を開ける。
「クリアです。失礼します」
部屋の中には、学園長とレイラが待っていた。
「クリアさん、いらっしゃい……あっ、透導君! なぜ昨日来なかったんだい!?」
「すみません。忘れてました」
「忘れてました、じゃないよ。昨日はどう過ごしたんだい?」
歩夢は昨日の流れ――戦闘後に山で修行し、川で水浴びし、また修行して寝た――を淡々と説明した。
「……まるで野生の猿ね」
レイラが冷たく吐き捨てる。
「そうか。まあそんな猿にお前は負けたんだがな」
「なっ……!? わ、私はスターダストランサーズの活動で四日間も動いていたのよ! 万全ならあなたみたいな猿に負けるはずないわっ!」
「なら、日にちを改めればよかっただけだろ」
「なによっ!!」
二人の言い合いが激しくなるのを、学園長が手を叩いて制した。
「はい、落ち着いてください。透導君には寮を用意しました。今日からそこで寝泊まりしてください」
「りょう?」
「……自分の部屋という意味ですよ」
学園長は肩を落とす。
「ありがとうございます」
「さて、レイラさん。スターダストランサーズの活動で透導君の力を借りるのはどうです? 人手不足でしょうし、戦力としては申し分ないと思いますが?」
レイラは机を“バンッ”と叩いた。
「学園長! こんな野蛮な男の力なんて必要ありませんわ! 元々男子禁制のところを、学園長のお願いだからと“譲歩”しているんですのよ!? 相棒が男なら一部の入隊を認めてはいますけれど、わ・た・く・しは! 男なんて――い・り・ま・せ・んっ!」
「そ、そうですか……無理を言ってすみません。ただ、私は心配でしてね。戦いで亡くなる方も見てきましたから」
「ご心配なく。この命に代えても皆を守りますわ。それに“有害指定銀河組織”の『宇宙エネルギー技巧軍』と『闇銀商会』は壊滅させましたし、他も今は沈黙していますわ。気は抜きませんけれど」
「頼もしいですね。でも油断は禁物ですよ」
「ええ、承知していますわ。では失礼します」
レイラは歩夢を睨みつけ、部屋を後にした。
「長く待たせてしまってすみません」
「いえ、大変ですね」とクリアは答えた。
「クリアさん、昨日の戦闘で何か思い出したことは?」
クリアは静かに首を横に振った。
「そうですか。では今日は検査をやめておきましょう。気をつけて帰ってください」
「ありがとうございました」
クリアは退出し、歩夢も続こうとしたが――。
「透導君、君はまだだよ」
「そうですか」
クリアが廊下に出ると、レイラが待っており、二人は一緒に帰っていった。
学園長は大きく息をついてから、歩夢へと向き直る。
「学園には慣れましたか?」
「二日で慣れるわけがない」
「そ、そうですね……」
「レイラさんと戦ってどう感じました?」
「大したことなかった。正直ガッカリした。地上のレベルは低い」
「今年は豊作なんですがね……」
「俺も言いたいことがある」
「なんでしょう?」
「俺は、この学園を辞める」
「!? いやいやいやっ、ちょっと待ってください!! なぜ急に!」
「地上の戦いがどんなものか期待していたが……昨日で分かった。星廻軍人式戦闘の方が圧倒的に優れている」
「レイラさんは三位ですよ!? 他に二組、もっと強い生徒がいます! 彼らと戦ってから判断しても遅くないでしょう!」
「三位であの程度なら、たかが知れてる」
学園長は額に汗を浮かべながら、必死に説得する。
「わ、分かりました! こうしましょう! 透導君は黒い龍を探していましたね? こちらでも情報を調べよう。銀河組織との貿易で情報網がある。もしかしたら何か掴めるかもしれない」
「本当か?」
「もちろん。約束しよう。その代わり、君は学園に通い続け、スターロードフェスティバルで優勝を目指す。悪い条件じゃないと思うが?」
「……まあ、それなら」
学園長はほっと息をつき、咳払いした。
「それと、クリアさんについてです。ご存じの通り、記憶を失っています。今の名前もレイラさんがつけたものです」
「なるほど」
「あの子は誰とも相棒になろうとしません。理由は分かりませんが、有害指定銀河組織に狙われているのです。透導君、君も相棒がいないのでしょう? クリアさんと相棒になって、守ってあげてほしいのです」
「構わないが……約束してほしい。情報が入ったらすぐに知らせると」
「もちろん。あなたがここの生徒である限り、私は約束を守ります」
「分かった」
「それとレイラさんには、戦闘館を無断使用した罰として……君のお世話係を任せました。何かあれば彼女を頼ってください」
歩夢は小さく頷いた。
「では寮へ案内します。ついてきてください」
「はい」
こうして歩夢は、生まれて初めて自分だけの部屋を手に入れることになった。
先に8話を出しておりました…正しい7話に更新しました_:(´ཀ`」 ∠):




