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ナイフを研ぐyoyoyoyo

れなは、ラオンからとある頼み事をされていた。

「アタシのナイフを研いでくんねえか」

「なんで」

事務所にて。

テーブルを挟みながら話し合う二人。

ラオンはテーブルに置いたナイフを見つめながら、れなは漫画から視線を離さぬまま、仲間同士とは思えぬ殺伐とした雰囲気だった。

外は曇り空。機嫌が悪い訳ではないものの、それに近しい独特な雰囲気が漂う。

「単純な理由だよ。あと二千本は研がないといけねえんだ。アタシってナイフで戦うだろ。ストックがめちゃくちゃ必要なんだよ」

「なーるほど」

相変わらず漫画似目を向けたままのれな。無気力な返事に眉を潜めつつも、刃毀れしたナイフがテーブルにそっと置かれた。





「あー!面白かった!!」

読み終えたのは三十分後の事だ。気に入ったシーンを何度も読んでいたものだから、余計に時間がかかっていた。

ギャグ漫画特有の笑いの余韻は心地よい。その勢いに乗せ、れなは手元の漫画を口に押し込み、そのまま食べてしまった。


「さーて。ラオンのナイフか」

テーブルに置かれた銀の刃…。

刃を研いだ事などほとんど無いが、自分もワンダーズ。頼まれたからにはやり遂げなくてはならない。







そんなこんなで、テクニカルシティの歩道にて。

れなはナイフを投げては取り、投げては取りを繰り返しながら歩いていた。

振るわれてるのはいつも見ているが、そういえば研いでるのはほとんど見た事がない。


…どこでどう研ぐのだろうか。やり方を聞いておけば良かった。

こういう時だけは自分の無計画、無鉄砲ぶりを呪うのだが、三歩歩けば忘れる頭のおかげで苦労は知らない。



「にしてもかっけぇーなぁー!」

適当に考えれば良いだろう…れならしい呑気な思考のままに、ナイフを振るいながら宛もなく歩いていく。



そんな時…。

目の前の床屋の角から、スッ、と小さな影が現れた。

足を止める。


現れたのは…白く、四角い頭のモンスターだった。

周囲の人々には興味を示さず、ただ目的もなく歩いていくだけ。無害なモンスターのようだ。


「おっ?何だあいつ。可愛いなー!!」

歩くペースを早め、モンスターに近づく。ナイフの事は後回しでいい。可愛いもの、興味を持ったものが、れなにとって最優先だ。

しかし、声と言い足音と言い、少し騒々しくしすぎたらしい。

モンスターは唐突に身を震わせ、走りだす。警戒心が強いのか、急加速し、近くのビルの角を曲がり、その場からあっという間に離れてしまった。

「あっ、逃げられた…。何と言う警戒心だ!」

頭を抱えつつも、あのモンスターに何か用があった訳では無い。珍しい生き物を見られただけ良かった、と潔く引き下がる事にした。


…そのモンスターと入れ替わるようにして、今度は反対に見覚えある人影が現れる。

「あ、れなじゃないの。何してるのかしら」

緑の、特徴的なサイドアップヘアー…葵だった。近くのガンショップに行っていたのか、その手には物騒なショットガンがどっかりとのっている。

「れなに会えて丁度良かったわ。試し打ちする相手が欲しかったのよ。この一撃に耐えられるかしら?」

「そんな事より葵!ちょっと聞いてよ!」

今までの事を一通り葵に話すれな。

ラオンのナイフの件、先程偶然したモンスターの件…その説明は雑然としており、葵は時々わざとらしく首を傾げた。

「ラオンからナイフ研ぐのを頼まれてさ、あいつナイフ二千億本持ってるらしくてさ、でさ、その後にモンスター見つけてさ、あ、何か頭が四角くてちっこいやつ。そいつ撫でようとしたら逃げられてさ、で、ラオンの事なんだけどさ…」

近くのベンチに座ろうともせず、懸命に話し続け…ようやく一段落する。


葵は少しばかり黙り込み…やがて返答した。

「そのモンスター、トギッシじゃないの?」

「とぎっし?」

聞いた事のない名前だった。葵はそのトギッシの事を簡潔に説明する。


「トギッシは頭が研石になってるモンスターよ。戦場によく現れて、刃物を使う戦士の助けになってくれるの。…その子にナイフを研いでもらった方が良かったんじゃないの?」

先程のれなの説明に対する皮肉にさえ聞こえる程の、簡潔な解説。

研石モンスター、トギッシ。今の状況でこの上ない助っ人が目の前に現れていたのだ。

れなにとってはラオンの依頼も解決でき、珍しくて可愛いモンスターを撫でる事もできる。

「葵!!教えてくれてありがとう!!!お礼にこのナイフあげる!!」

葵の手元のショットガンの上にナイフを置いてしまうれな。

「いやいやこれを研ぐように頼まれたんでしょ?しっかりしなさいよれな…」




葵からナイフを返却され、トギッシが逃げた道を辿っていくれな。ビルの隙間をくぐり抜け、トギッシが通りそうな道を直感で通り抜けていく。狭い路地裏に足を踏み入れ、塀の上から周囲を見渡す。

彼女は自分が飛べる事を忘れていた。高所から見渡せば、より早期に発見だろうに。

「トギッシちゃーん、どこー?」

周囲を見渡し、ごみ箱や、何が入ってるのか分からない木箱を漁っていく。トギッシは小さく、どこに隠れていてもおかしくない。



「おいお前、トギッシを探してるのか?」

厳つい声がれなを呼び止める。


振り返ると…そこには昼間の町中には不似合いな、銀の鎧を着た戦士が立っていた。

単に鎧を着ているだけではない。背中には白く、四角く、大きな石を背負っており、見るからに重厚そうな風体。この辺の者ではなさそうだ。

白い兜に覆われた、隠された顔。だがその目は確実にれなに向けられていた。

その戦士はれなの前で立ち止まり、腰に手を当てて自己紹介する。

「俺はシャーペディン。闇姫軍の戦士なのだが…」

「闇姫軍っ!?!?!?!?」

後ずさるれな。

今日も今日とて闇姫軍だ。


シャーペディンと名乗るその戦士は軽く体を傾け、れなの姿を改めてまじまじと見つめる。

見つめて、見つめて…「あっ!」と声を高める。


「…お前、れなか!?」

彼が鈍感なのか、それとも闇姫軍に共有されている要注意人物ポスターをよく見ていなかったのか。彼は目の前の存在が全闇姫軍共通の宿敵である事に気付かなかったらしい。

「れなか!!!れなかぁ!!!殺してやる!!!」

彼は腰元の剣を取り出す。れなもそれに応戦しようと、得意の拳法の構えをとったが…。


しばらくの睨み合いの後、シャーペディンは剣を引っ込めてしまった。

首を傾げつつも尚構えを解かないれなに、シャーペディンはどこか言いにくそうに声をひそめた。

「…すぐにでも真っ二つにしてやりたいところだが、実はここへ来る途中でモンスターと交戦してな。…剣が刃毀れしてる。幸運にもトギッシを見つけたからそいつで刃を研ごうと思ってたがあいにく逃げられてな」

シャーペディンはれなの横に立ち、トギッシが逃げたであろう方向…更に細く、暗い道へ目を通す。

「どうだ。ここは一時休戦といこう。お前もその手元のナイフを研ぐ為にトギッシを探してるんだろ?」

思いのほか、状況が分かるようだった。



闇姫軍と手を組むのは癪だったが、れなは潔く協力にのる。

二人で付近を見渡し、少しでも怪しい場所があればそこを指差し、漁り、トギッシを探す。

既にこの街にはいないかもしれない…とは、一言も言わなかった。

こうして敵と手を組む事さえしたのだ。いてもらわないと困るし、いると確信しながら探した方が気も楽だ。


「シャーペン〜こっちにはいないよー」

「俺の名はシャーペディンだ!!シャーペン言うな!」

れながゴミ袋をひっくり返し、シャーペディンが公園の茂みを折り曲げていく。

トギッシ本人は愚か、痕跡すら見つからぬ状況が暫く続いた。



そして、その暫くの時を経ても尚…見つからなかった。

協力を誓ってからおよそ3時間…。空模様は夕暮れに備えてやや顔色を変えており、早くも街灯がつき始めている。

「おい…トギッシ、もういないんじゃねえか?」

「…いると思うよ。いないと思うけど」

膝に両手をのせ、息を切らす二人。後半からは最早やけくそ気味に探し回っていたような気がしていた。

街のめぼしい場所は片っ端から探り、何人かの通行人とは複数回すれ違っていたはずだ。


ここまで探して、やはり痕跡すらゼロ。既にトギッシはとっくに街から逃げていたのだろう。


喪失感と、やり場のない怒りが二人を襲う。

いや…やり場はある。


すぐ隣に。


「…この怒り、お前の首を切り落とさんと収まらん!!!」

「るせー!!アタシの拳を喰らえええ!!」

街の広場。そこで、二人の戦闘が勃発した。


観戦慣れしてる街人達は驚くことも無く集まり、二人を囲い始める。早期退社したサラリーマンや学生達が盛り上がる中、拳が鎧にぶつかる衝突音、剣がれなの髪を掠める鋭い音。

一定の間合いを維持しながらも激しくぶつかりあう壮絶なる戦い。

原因を知らぬ者から見れば、宿命の対決にすら見えていた事だろう。

ふと、れなは手元のナイフで突き攻撃を仕掛ける。が、彼女はあいにく武器を使うのが絶望的に下手だ。いつも拳に全てを置いた戦法で戦うので、こういう時にはえらく不格好な動きになる。

刃はシャーペディンの鎧に当たりこそするものの、傷をつけられない。万全な状態の刃ではないので尚更だ。

更にここでシャーペディンはれなに背中を向け、背負っていた白い岩を向けてくる。

「うおおお!!くらえ背中アタック!!」

重厚な質感によらぬ速度で迫るシャーペディン。

野次馬を蹴散らしながら迫ってきたその背中に、れなは反射的にナイフを突き立てつつ横に飛び出して回避した。

火花が散る。あんな硬さの岩をあんな速度でぶつけられればひとたまりもない。

「くっ…このナイフ邪魔だな!どっか置場所ないか…」

刃を見つめる。



「あれ?」

ナイフの質感が変わってる事に気づく。


銀の刃が更に綺麗な光沢を放っており、先程の使い古された見た目と比べ、唐突に頼もしく見える。

明らかに、あの岩を切りつけてからナイフの調子が良くなった。

武器として使ってる岩かと思われたが…これはもしや。

「それ、研石じゃないの!?」

戦闘を続行しつつ問う。シャーペディンは剣でれなの拳を受け止めると、足を踏み込み、全体重を前方へと押し出す。

その衝撃でれなは後ろ向きに回転、視界が激しく揺さぶられるなか、体勢を整えようとしたが、この明確な隙にシャーペディンは剣を突き出し、れなの後頭部を突く!

「いっった!!」

ボールのような勢いで転がり、野次馬達を転倒させるれな。

後頭部をさすりながらも、起き上がる。まだまだこんなものでは負けていられない。

「そうだよこれは研石だ!そんな事より今は戦いの時間だろうが!行くぞ!」

最早トギッシの事など脳の片隅にすら残っていない。シャーペディンの剣がれなの左右に猛速度で突き出され、れなは両手を構えてそれらをうまく受け流していく。

受けてばかりではいられない。剣撃の隙間を掻い潜るように、れなは足を突き出し、蹴りを炸裂させる。

「何でその研石を使わないんだよっ!!」

「ぐっ…この研石は俺のママからのプレゼントなんだ!!できる限り使う回数を減らしてるんだよ!」

なるほど、なら仕方ない。

一通り聞きたい事を聞いたところで、れなは一際勢いをつけて飛び出し、シャーペディンの兜へ飛び回し蹴りを炸裂させた!

だがこの時、シャーペディンも剣を突き出し、れなの身体を貫こうと狙ってきていた。

「くっ…」

剣はれなの脇腹を掠める。

一方れなの足は兜へ直撃。

ダメージの強さは、シャーペディンが上だ。


シャーペディンは徐々によろめき…膝をつく。

「くっ…剣の調子さえ良ければ、こんな事には…」

悔しげに、己の剣の刃を見つめる。


「あれ?」

兜の向こうで、目が丸まる。


剣の質感が、良くなってきたのだ。それは、戦闘に備えて事前に研ぎ澄まされた刃そのものだった。

「…いつの間にか、研がれている?」

右から、左から、剣を何度も確認する。

どう見ても磨き上げられた状態だ。剣を研いだ覚えはない。むしろ今、戦いの中で相手を切りつけ、普通であれば刃毀れしているものだが…。



…そう、相手を切りつけていた。

れなを。


「ま、まさか!」

シャーペディンは立ち上がり、未だ構えたままのれなを見下ろす。

「お前の肌が研石代わりになった、という事か!?」

それを聞くなり…れなは突如微笑み、構えを崩す。


「…驚いた?そうだよ。実は、あたしの肌を上手く使って、その剣を研いであげてたんだ」

アンドロイド特有のある程度の硬さが備わった皮膚が、研石代わりになったのだ。

…れな自身は、あたかも自分の技術で剣を研いだかのように主張しているが、実際は…。

(アタシの体って、剣研げるんだ)

剣が当たった角度、速度、皮膚の位置…偶然に偶然が重なり、奇跡が巻き起こった結果の出来事だった。


「…ならば!」

シャーペディンはまた先程のように剣を突き出す!

はじめにこの連撃を防いだ感覚を思い出しつつ、両手を振り上げて防御していくれな。

更に、防御と攻撃を両立する形でナイフも突き出し、シャーペディンの鎧に擦らせていく。

これは戦いではない。あまりに壮絶な〔手入れ〕だ。



しばらく攻撃しあっていた2人だったが、やがてぴたりと止まり、互いに刃を確認しあう。


完全に研がれきっていた。

万全な状態に仕上がった刃。トギッシに頼る事なく目的を達成させた二人は、互いに戦いで育んだ絆を感じていた…という事はなく、完全に道具としか見ていなかった。

「おいれな。また剣の切れ味落ちたらお前を襲うからな!」

「アタシもラオンに伝えておく。すごく良い研石がいるってね!!!」



相手を道具扱いするのはやめましょう。


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