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デ、デンキ…

その日も、デサイアとキュバスの強欲悪魔は人間界の上空を飛んでいた。

赤い髪を風になびかせ、緑の翼を広げたデサイアが、地上を適当に見回している。隣では紫の長髪を流しながら青い翼を羽ばたかせるキュバスが。

建物が並んでいるその場所は…いつか地図で見たかもしれない、しかし詳細も名前も全く知らない、二人にとっては未開の地。

「ねえデサイア。そろそろ角を洗いたいわ。もう何日風呂入ってない?私達」

「そんなの忘れたよ」

日々宝を求めて彷徨う二人だが、近頃はまともな生活すらできていない。

風呂には入れず、食べる物は大体虫か草。寝るところはゴミ捨て場であり、冷えきった体にかけられる毛布を見つけられる事など五十に一度くらいだ。


そんな状態なのだから、当然疲労はこれでもかというほどに蓄積している。しかし、運命の神は勿論悪魔には容赦しない…。


「やりぃ!」

唐突な声。

一瞬の隙に、デサイアの足に何かが絡みつく!

皮膚を絞られるような痛みと共に、悲鳴を上げる間もなく、彼女は地上へ引きずり降ろされる!

「えっ!?デサイア!?」

「ぎゃあああ!!助けてキュバス!!」

真下には、銀色の建物が聳えている。その建物には[Rare Ex Research Institute]…レアエク研究所、と書かれたプレートがデカデカと映ってる。


乱暴に、コンクリートの地面に落とされる二人。人間なら足が折れているところだが、悪魔である二人には擦り傷で済んだ。


「くっ…キュバス大丈夫?」

「一応…。いきなり何をするんだか…!」

…目の前にあるのは、ここ、レアエクシティの研究所だ。

勿論この街には何の縁もないし、こんな風に掴まるような理由など見つからない。


足元を縛る、天然素材のロープ。

二人にとってはロープなど手を使わずとも引きちぎれるが、何故かこれはびくともしない。


「ボスー!実験に良さそうなやつらを捕まえましたよ!!」


それもそのはず。そのロープは…モンスターの一部だったのだ。

杭のような姿をしており、足を引っ込めて地面に固定され、頭からロープを生やしたそのモンスター…元闇姫軍の二人は知っている。やつはウェロープ。戦闘力は皆無だが、誰かを拘束する事に特化しているモンスターだ。

そして、ウェロープは必ず誰かに従うという性質を持っている。この個体もその例に漏れないようで…。


「ご苦労だった、ウェロープ」

扉が重々しい音と共に開かれ、一人の男が足を踏み出してくる。


…白衣を着ているが、頭部や胸周りにカラフルなコードを絡みつかせた、妙な風体の男。左目にはスコープを装着しており、ただの男ではない。

彼は縛られて動けない二人に近づき、コードが絡められた手を差し出す。

「突然の手荒な真似をすまないね。私はスパーキー博士。電気に関する研究を行なっている…自称、最高の電撃頭脳!!」

(自分で自称とか言うのかよ)

目を細めるデサイアの前で、スパーキー博士と名乗るそのモンスターは、誰も聞いてない事を得意げに語りだした。

「私は闇姫軍の科学者として日々進捗してるんだ!実はな、電気の研究をしてるんだぁ!!」

(頭悪そ…)

キュバスも呆れた顔を見せた。

出会って十秒だというのに、もうこいつと話す時間がいかに無駄なのかを理解し始めてしまった。

「お前らみたいな実験体を私は待ってた!!今から千億ボルトの電流を生命体に流せばどうなるかを実験するんだー!!!」

『えっ』

唐突にとんでもない数値を出してきた。

千億ボルト?百ボルトや千ボルトではなく、千億とは何だ。


いくらなんでもハッタリだと思うが、コードを弄りながらこちらに歩み寄ってくるスパーキーを見ると、冗談とも思えなかった。

「雷は一億ボルトから十億ボルトとされている…それを聞けば、千億がどれくらい凄いのか分かるだろう?私が興味を持つ理由も分かるだろおお!?」

「分からないわよバカ!!確かに私もキュバスも電気属性だけど、そんなの食らったら痛いに決まってるでしょ!?やめろ来んな!」

しかしウェロープは離そうとしない。というか、そもそも二人に電撃を浴びせればウェロープも感電すると思われるのだが、そこをちゃんと理解してるのだろうか。

『ぎゃああー!!来るなー!!』

そんな声にコードが反応する訳がなく、その先端が伸び…二人に接触する。


『ふぎぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

落雷音に限りなく近い、感電音、そしてその音に負けじと響く悲鳴。

デサイア、キュバス、そしてウェロープの悲鳴がレアエクシティを貫いた。



「ふはははは!!流石私が開発した発電コードだ!威力は申し分ないな!これなら闇姫軍の主力武器として採用されるだろう!」

スパーキーは、黒焦げになって跡形もない二人(同じ状態のウェロープはほったらかしだ)に歩み寄り、中指をたてた。

「こ、この野郎…」

伸ばされたデサイアの手をはたき飛ばし、上機嫌で研究所の扉を目指して進み出すスパーキー。危険な実験に付き合ってくれた協力者に報酬も与えず、そのまま最終確認にでも移るのだろう。

「よし、ではもう早いうちに計画資料にまで移るか…!闇姫様も俺にゾッコン…」

金属製のドアノブに手が触れる。







バチッ、と。




「ごぎゃああああああ!!!!!!!」

突然スパーキーが仰向けに倒れ、左右に転げ回る。

三人は特に何もしていない。何もしていないし、むしろされた側だ。



今スパーキーを撃ち抜いたのは…静電気。

何の変哲もない、けれども人々の密かな悩みの種でもある、あの静電気だ。

「ぐあっ!!ぐあっ!!静電気が起きたぁぁぁぁぁぁ!!!いてえええっ!!あ!!あ!!死ぬ!!死ぬうううう!!!」

研究所の壁や地面に頭をぶつけながらも尚静電気の残滓に苦しむスパーキーを三人はただ見つめていたが…。

「…あっ、今だ!」

デサイアが、全身の煤を振り落としながら突撃し、スパーキーの襟首を鷲掴みにする。

暴れる彼を、痺れが残る腕で押さえ込み

、さらにその腕を掴んでもう一度ドアノブに触れさせる!



…バチッ。



「ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!∇∃∅⊗∃∂∧∇%!!!!!!」

「大げさじゃボケ!!」

とうとう白目を剥いて気を失うスパーキー。その過剰反応…電気を研究しているが故に、電気の恐ろしさに怯え、そこから来るのがこの派手な動きなのだろうか。


いや、ただ大袈裟なだけだ。


ともあれ、相手は勝手に自滅した。

そういえば突撃した時には気づけなかったが、先程の感電の勢いでウェロープのロープも解け、いつの間にか自由を許されていた。

何もかもが自動的に終わり、達成感はイマイチだが…二人にとって戦いは二の次。全てを丸く収めるは、珍しい金品だ。


研究所を見上げる。

最近作られたのか、その外壁はシミ一つなく、周囲の薄汚れた建物と並ぶと嫌でも目立つ。


研究所というくらいなのだから、それなりに良いものが揃ってるのではないか…二人のお宝センサーが煌めいていた。


「…潜入するわよデサイアっ!!」

「うん…ここに引きずり降ろされたのも何かの縁だよね!!」

宝がありそうと決まれば一直線。

二人は同時に駆け出し、ドアノブに手をかけた。





バチッ。




『ぎゃあああああああああ!!!!』


…二人の意識が飛ぶのだった。








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