白の秘玉を探せええええ!!!!
「ねえキュバス…!本当に、こんな雪山にあるの?[白の秘玉]!」
赤いショートヘアーの少女…デサイアが、すぐ隣を歩く、紫の長髪に青い角の少女に声をかけた。
「あるって聞いたからここまで来たのよ!ほら、お金の為!!こんな吹雪に負けてられないでしょおおお!!!」
今二人が戦っているのは、自然そのものだ。
一面を覆う雪の地面に、全身を滅多刺しにする冷気の刃。空は異様なほどに暗く、星の一つも見えない。
ここは闇の世界に存在する雪山の一つ。
しばらく人間界に潜伏していた二人だが、闇の世界の雪山に存在する宝…[白の秘玉]の噂を聞きつけて、遥々ここまで移動してきたのだ。
闇姫軍の監視網からは外れた場であり、彼らと揉め合う事はないだろう、とキュバスが事前に読んでいた為、油断していつもの薄着で来てしまった。
自然という最大の脅威を、なぜ忘れていたのか。
「あーもう!こんな場所で玉一つ探すなんて…宇宙で米粒探すような話よ、これ!」
デサイアの必死の叫びも、雪の唸り声に埋め尽くされていく。
聞く話によれば、雪の魔力が精密に結合した事で宝石のような輝きと硬さを得た白の秘玉は、白と灰色の外殻に包まれていると聞く。この吹雪にやられ、雪の中に埋まってでもいれば、永遠に掘り当てる事はできない。そうなれば、人間界から闇の世界へと、隠しルートを辿ってやってきた二人の努力も水の泡。
悪魔でありながら、神に祈りたくなるような思いで、無謀極まりない登山に苦しんでいた。
「デサイア!!あそこに洞窟がある!」
吹雪に消されないように、怒鳴るような大声でキュバスが言った。
指差す先に、確かに霜まみれの洞窟が見える。これまた寒そうだが、この吹雪の中を進んでいくよりは、あそこで身を隠した方が、探索の為にも良さそうだ。
丁度追い風が吹き、それにのって洞窟内へと突撃していく二人。
洞窟内は、青く染まっていた。
何層にも張り巡らされた氷や雪が外からの僅かな光を互いに反射しあい、奇妙な色彩を纏っているようだ。あんな吹雪の中に隠されているのだから、この神聖かつ芸術的な場所に気付く者はそうそういないだろう。
しかし、二人にとって、このような目に見えない価値などどうだっていい。重要なのは、金になるかどうかだ。
ここなら白の秘玉があるかもしれない…期待と、同空内の光で瞳を輝かせながら、二人は奥へ奥へと進んでいく。
「あ、見てデサイア。あそこに何かいるわ」
「どれどれ」
なんの変哲もない曲がり角。
その先に張られた氷の巨壁に、見慣れない生命体がいた。
それは、氷の壁に根を張るように張り付いている…巨大な蛇。
いや、蛇というよりは…龍だ。
額から二本の角、一見すると理性を感じさせない鋭く、黒目のない瞳。体全体が洞窟の氷と同じ色に輝いており、この洞窟の一部に見える。だがそいつは確かに生きており、長い首を揺らめかせ、二人の悪魔に既に気づいていた。
「…こんな所に悪魔ごときが何の用だ…」
「あ、しゃべった」
龍の目が、はっきりとこちらに向けられた。二人は仕方なくその眼前に立ち、臆する事もなく視線を合わす。
思わぬ来客に、龍は聞いてもない事を語る。
「我はこのあたりで名を馳せた剛龍だ…。ある時現れた氷の悪魔の魔術を受け、不覚にもこのザマだ。我にとって悪魔は鼻先をうろつく蝿も同然。…死にたくなければ、さっさとここから去るのだ」
「やられたくせに何か偉そうねこいつ。誰にやられたかは知らんけど」
キュバスは腰を手をやり、龍の顎を角でつつく。
その後ろでデサイアは欠伸をしながら、近くの壁を上から下まで探り抜いている。龍なんかより白の秘玉だ。
龍は目を細めつつも、流石かつて剛龍と呼ばれただけあり、二人の悪魔の無礼も穏便に見過ごしていた。
「何度も忠告をするほど、我は寛大ではない。さっさと消えろ…死にたいか?」
「じゃあちょっと質問。あんた、白の秘玉って知ってる?」
龍とキュバスの額が、触れんばかりの位置まで迫り合う。龍は、凍えるような溜息をつき、答えた。
「知るかボケ」
「あっそう!!」
吹雪に見舞われ、ストレスが溜まっていたキュバスは…龍の額を指先で突いてみせた。
これが、龍の逆鱗に触れた。
「ぐおおおおお!!!急にやってきて急に煽りやがってえええ!!」
大口を開き、冷気を吐き出す龍!
狭い空間に白い霧が密集し、二人は文字通り凍りつきそうになる。
「デ、デサイア!!私の後ろに隠れて!」
キュバスは両手を突き出し、魔力を展開、紫の光の壁で冷気を防ぐ。デサイアはその後ろに隠れ、片手から赤い電撃弾を連発して攻撃する。
電撃弾は龍に当たると、激しい火花と共に周囲の氷を溶かしていく。かなりの熱量だが、龍はびくともしない。
「無駄だ!我は封印されてからただ眠り続けてきたわけではない!この身体に氷を馴染ませ、自らの力へと変えてきたのだ!」
龍は体を伸ばし、乱暴に叩きつけようとしてくる。二人は跳躍を繰り返し、大縄跳びのような要領でかわしていく。
確かに、ただ眠り続けてきただけでは出せないスピードにパワー。洞窟全体が揺れ動き、天井の氷柱が時々落ちてくる。
洞窟までもが敵になったかのような感覚だ。しかし、それならニ対ニ。条件は互角。
「デサイア!いくわよ!」
「よし!」
キュバスが尻尾を伸ばし、その上にデサイアをのせる。何かの技の構えをとっている、と悟った龍は、もう一度冷気を吐き出そうと首を伸ばし始めた。
「何をする気か分からんが、この狭さ、この冷気!どうあがいてもお前らの不利だ!!」
解き放たれる極寒の魔力。竜の口から吐き出されたその冷気は、洞窟の空間を叩き散らしながら二人へと飛び込んでいく!
そこで、二人は動きを見せた。
「ほれ!!飛んでいけデサイア!!」
尻尾が振り上げられ、デサイアが龍…正確には、吐き出された冷気へと飛んでいく!
同時に彼女は赤い魔力壁を正面に展開し、冷気を防ぐ。この時、キュバスから放たれた際の勢いが突風を纏わせ、冷気をそのままお返ししていく。
龍の氷の身体に冷気が降りかかる。同じ属性にすら甚大なダメージを与えられる程の冷気が、逆に龍にとっての仇となった。
「ぐっ!!おのれ…」
「くらえー!!」
デサイアはそのままの勢いを維持し、展開していた魔力壁をそのまま電撃として龍に叩きつける。二段攻撃だった。
そこから更に、デサイアは攻撃を付け足していく。
「そりゃあああ!!」
天井に並べられた氷柱の隅に、蹴りで衝撃を与える。天井が激しく振動し、氷柱が揺れ動く。
龍の頭上から無数の氷柱が降り注ぎ、その頭へと直撃していく!
「ぐああああ!!??」
流石にこれは効いたようだった。自分の冷気に、電撃魔力、そして自然から誕生したこの氷柱達。
見事な三段攻撃だった。
龍は身を捩らせる。恐らく激しい攻撃を受けるのは久々だったのだろう。
「とどめだ!」
デサイア、キュバスの二人が並び、同時に駆け込む。
龍は苦し紛れに冷気を吐きだすが、先のダメージで動きが乱れていた。
「いえーい!アホアホー」
「デサイア!煽ってないでさっさとこんな場所抜けるわよ!」
キュバスがデサイアを引っ張り、さっさとその場を後にする。背後からは龍が怒り狂う声が聞こえてくるが、今回の目的はあの龍の撃破ではなく、白の秘玉。いちいちかまってなどいられない。
洞窟は、奥に行くほど寒さが増していった。モンスターが現れる事もない。
あの龍さえ突破すれば、あとはこのまま一本道…剛龍が封じられた場所という割には、案外狭い洞窟だった。
上り坂を乗り越え、氷柱が並ぶ天井の下、危なっかしく足を踏み鳴らしながらひたすら前へ。
やがて、外気が濃くなってくる。
「出口ぃーーーーーんっ」
デサイアの間抜けな咆哮は、外の吹雪にかき消される。
洞窟を抜けた先には…小さな雪の広場が存在していた。
吹雪はここにも及んでいる。結局、この雪達による暴力の波を進む必要がありそうだ。
あの龍がいる洞窟を彷徨うよりはマシだった。未だ手がかりはないが、二人の宝への情熱は薄れない。
「まあいいわ。振り出しに戻ったという事は全部やり直せるという事よ!!デサイア、白の秘玉を何としても探すわよおおおー!!!!」
雪崩を起こさんばかりにキュバスが叫ぶ。
まさにその時だった。
雪の中に、人影を見たのは。
それは…。
『パ、パリア!?』
水色のとんがり帽子に赤いマフラー、厚着。
氷の悪魔、パリアがそこに寝そべっていた。流石氷の悪魔というか、この極寒をものともせずに雪の中に意識を投げ出し、ぐうたらと過ごしてる様子だ。こちらには気づいていない様子だが、見つかれば気まぐれで氷柱を投げつけられかねない。
先程の龍の時以上に、二人は警戒を固める。何をしてくるか分からない相手程怖いものはない。
慎重に、歩幅を揃えていると…パリアが動きを見せた。
眠りの末に目を覚まし、体を伸ばしている。
「んああああああああ〜〜ん、よく寝た…」
体を伸ばして、伸ばして…全身に冷たい大気を行き渡らせ、力をつけている様子。
そして…鼻先に雪が当たってむず痒いのだろうか。背中を反らして何かを溜めるような動作をとると…。
「ぼ」
独特すぎる声と同時に、くしゃみをした。
そのくしゃみと共に飛び出してきたのは…。
「あ」
眩いばかりの神々しい光を放つ…一つの玉だった。
『白の秘玉!!!!』
思わぬ発見だった。
あの光、あの質感。間違いなく、情報誌で見つけた白の秘玉そのものだ。
そう、白の秘玉は…パリアのくしゃみによって生成される物だったのだ!!
「うおおおお!!逃がすかぁー!!!」
宝を発見したデサイアとキュバスは、細胞の髄まで血液が行き届き、驚異の身体能力を発揮する。
走り出した勢いで後ろに向かって生じた衝撃波が、雪を、そして洞窟を…破壊してしまう。
あの龍の悲鳴が聞こえてくるが、勿論今の二人に届くはずもない。
「んー?なんかうるっさいぞー」
寝起きを邪魔されたパリアが、怪訝そうに二人を睨む。
寝て起きて、ただくしゃみをしただけだ。自分のくしゃみが宝玉を作る事は理解していないようで、足元の光には気付かなかった。
パリアは片手を突き出し、二人に狙いをつけると…。
「あっち行ってろ!」
手の平に魔力が集中し、無数の氷柱が飛び出す!その氷柱は二人の体を容赦なく貫通し、白き雪に鮮血が広がる。
「ぐほっ…」
「さ、流石…パリア…」
うつぶせに倒れこむ二人。宝を追うがあまり、人に迷惑を考えない者達に相応しい末路だった。
「全く。昼寝の邪魔をするな!」
無謀な宝玉探しは、雪の中で終わりを告げるのだった。




