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トゲトゲ魚を処理せよ!!!!!!!!!!!!

テクニカルシティの市場へやってきたれなと粉砕男の前に並べられたのは…異形の魚達。

箱一杯に出されたその魚達は、全身がおびただしい棘に包まれていた。

色は二種類。片や銀色、片や毒々しい紫色。


「えーと…なんで俺たちの前にこれ出すんだ?魚屋」

頬をかきながら、粉砕男は目の前で仁王立ちする中年男性へ苦い笑みを見せる。

魚屋は、さも当たり前の事のように、こんな事を言い出した。


「あんたらに、こいつらの棘を抜くのを手伝ってほしい!!」


「うん、いいよ!」

理由も何も知ろうとせず、即答するれなの口を押さえる粉砕男。押さえられてもれなは何かを喋っているらしく、大きな手のひらに空気が遮断されて震えている。


魚屋によると、この魚達は、銀の方はニードルフィッシュ、紫の方はドクノセンボンと言うらしい。

水揚げしたニードルフィッシュは棘を抜く事で食用となり、更に抜いた棘も戦士達が使う武器の材料として使われるらしい。ドクノセンボンは全身が紫色に見えて、実際に毒が高濃度に混ぜ込まれているのは棘部分のみ、この棘を抜けば、その身は高級食材として重宝される。更に貴族間のパーティーにも品出しされ、魚屋の売れ行きは莫大なものとなるのだとか。

ただ、一つ問題がある。


この魚屋…臆病。

というか、ビビりなのだ。

「あんたらワンダーズだろ?なら、依頼だと思ってさ…この棘全部抜いてくれや」

既に動かなくなった相手に何を怖気づいてるのだろうか。

とは言え、依頼となれば、何でも屋のワンダーズに断る理由はない。彼らの仕事に営業時間などというものはないのだから。


そして何より、報酬は新鮮なシシャモ3ケース分、という条件を耳にしたれなを止められそうになかった。

「ふひょほおおおお!!!やるぞおお!!!」



作業は店の奥で行われた。

濡れたまな板の上にそれぞれの魚達を置き、棘を抜いていく。

本来であれば工具棚に入った大型ペンチを使用し、身体も専用の防衛スーツで包み込み、棘…特にドクノセンボンの毒に、過剰なまでの警戒を重ねて行う作業だという。

なるほど、確かに魚屋が怯えるのも分からなくはない作業だった。

だが、日頃毒を持った相手とも棘を持つ相手とも、飽きるほどに戦い続けてきた二人は…。


「いえーい、アタシの方がリードしてる〜」

「おいおい落ち着くんだれな。刺さらないようにくれぐれも気をつけながら…」

普段着のまま、棘を力付くで引き抜いていく。

捻る事も、皮膚との結合を緩める事もなく、腕力一つで根本から引っこ抜いては、近くのカゴへと仕分けしていく。

棚の陰から見守っていた魚屋は、自身や同僚が担当した時の倍以上の速度で作業を進めていく素人達の姿に、目を潤ませていた。



あっという間に仕分けが終わり、カゴには、先程とは打って変わって丸っこい魚達が大量に積み重なっていた。

れなは、淡々と同じ作業を繰り返した事で凝った両手を軽く振るい、深い、しかし充実感あるため息をついた。

「粉砕男ー、これでシシャモもらえるかな?」

「ああ。これだけの仕事をしたんだから、すぐにでも出されるだろ…」

その時、二人の正面のまな板から、何やら重厚な音が聞こえてきた。


目を移すと…そこには、大量の棘が並んでいた。


…ドクノセンボン、ニードルフィッシュ。

新たな個体達が、二人の手を待ち望んでいた。

その横には…何故か得意げな笑みを見せて立つ魚屋の姿が。

「二人とも、すげえ速さで終わらせたな…。こいつらも余裕だよな?」


…れなは怒鳴ろうとする。

しかし、直後に発せられた魚屋の「シシャモ3倍」の言葉に丸め込まれ、鼻歌を交えながら棘を握りしめるのだった。



そんな光景を、密かに監視している影があった。


店舗の向かい側のベンチに、ふんぞり返る一人の少女…。


「…」

闇姫だ。

彼女ほどの実力があれば、テクニカルシティに堂々と潜入し、潜伏活動ができる。本日この街へ足を踏み入れた理由は、何かしらの悪事のアイデアがないか探る潜入調査。そしてその調査も、たった今、実を結ぼうとしていた。



店の中で、棘だらけの魚を相手にしている宿敵達。その後ろ姿だけでも、[早いところこれを終わらせたい]という意思が、目の前にいるかのように聞き取れる。

そんな姿を見せられて、悪魔たる闇姫が黙っているはずがない。


独り言の一つも漏らさず、彼女は左手をあげ…意識を集中した。

魔力を放っているのだ。狙うは二人ではなく、まな板の上に置かれたドクノセンボンと、ニードルフィッシュ…。



それは、一瞬で起こった。


「わっ!?」

れなが素っ頓狂な声を上げる。


突然、ボンッ、という爆音と共に…棘の数が、倍増したのだ。

先程まではまだ棘と棘の隙間が見えていたが、この量ではその隙間すら見えない、棘玉と化している。事情を知らぬ者には、魚とすら認識されないだろう。

「な、なんだ!?何が起きた!?」

粉砕男が両手を挙げ、れなは驚きのあまり踊りのような動きで大袈裟な反応を見せていた。

何が起きたのかも分からないし、何よりこんな量では、今の作業効率では日が暮れてしまう。


「くそっ…!原因究明は後だ、れな!早くこいつらの棘を片付けるぞ!」

「おっけえええ!!考えるより先に行動だー!!!」

もはや慎重さなどかなぐり捨てた。

天井、壁に棘を投げつけんばかりの勢いで、二人は引き抜いていく…。



三十分後。


カゴから溢れ、床に散らばった無数の棘。

そして…安全性を欠いた事で、二人の頭や腕にも棘が突き刺さり、見るも無残な姿になっていた。

「や、やった!終わった…」

額にニードルフィッシュの棘が突き刺さったれなが、痛み以上の達成感を胸に両手をあげる。

ドクノセンボンの棘が腕や足に刺さった粉砕男も、筋肉の力で毒を無効化し、その際の肉体への反動、何より予想以上に激しい肉体労働を行った事で息を切らしている。

あの魚達のプレッシャーに、迅速かつ正確な動き。戦闘以上に精神を消耗したかもしれない。


それらを外から見守っていた闇姫は、「ちっ」と短い舌打ちを交え、ベンチから立ち上がる。

山積みになった棘を、魚屋が泣きながら運んでいくのが目に映る。仕事経験のない二人に大仕事を達成された事による悔しさによるものか、それとも感動の涙なのか…。

闇姫は後者として捉えた。

悪魔である彼女にとって、人が感動のあまり涙を流す様など、ドブ川を見ているようなものだ。

無意味な時間を過ごしてる暇はない。彼女は翼を広げ、人目の中でも気にせず空へと飛んでいった。



その後…。


闇姫軍の一部の部隊が、各地で急速に力を増した人間の兵士たちによって撃退された、という報告が相次いだ。


ニードルフィッシュとドクノセンボンの棘が大量に集まり、人間の組織が扱う武器が強化されたらしい。


間違いなく、あの二人が引き抜いた棘達だった。

「…」

「闇姫様。あなた、なんか余計な事したのでは?」

城でダイガルに詰め寄られ、彼女はさりげなく視線を逸らし続けた…。

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